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46.村長と町長

 再び瞼の裏が明るくなったのを感じてうっすらと目を開けると、そこは教会の神像の前だった。


 戻ってきたことを確認して普通に目を開くと、両親も目を開けたのでお祈りが終わったようだ。


 ――結構向こうで話してた気がするけど、こっちの時間の流れとは違うんだろうな……


「それでは、ご子息様が健やかにご成長されますよう、願っております」


 そう言いつつ神父がお辞儀をして、礼拝の終わりを告げてくる。


 子どもが1歳になるとそれぞれの家族が別々に礼拝に来るため、時間はそれほどかからないようにしているようだ。


「ありがとう」


 父さんがそう言いながらお金が入っているであろう小袋を神父に渡す。


「こちらこそ、いつもありがとうございます。それにしても、カーリーン様ももう1歳ですか。ついこの間エルティリーナ様が礼拝をしたと思っておりましたのに、早いものですなぁ」


「そうだなぁ。上の2人は稽古も頑張っているし、これからの成長も楽しみだよ」


「元気に育っているようで何よりですな」


「カーリーンも1歳になったから町に連れてくる時もあるでしょうし、覚えてもらわないとね」


「あい!」


 これからは町に連れてきてもらえることにテンションが上がり、元気よく返事をするとみんなに微笑ましい目で見られる。


「それじゃあ神父様、また」


 そう言って教会から出ると、馬車に乗らずに別の建物に向かう。


 向かった先にあった建物は、周りの民家と比べると少し大きく建てられている家だった。


「村長、いるか?」


 父さんがドアをノックしながらそういうと、人の気配がしたようでドアから1歩下がる。


 ――村長の家なのか。あれ、ここって"町"って言ってたけど"村長"なの? 発展する前の名残だったりするのだろうか……


「おう、フェディ、今日はどうし……カレアリナン様もご一緒でしたか、今日はどうされたのですか領主様」


 ドアを開けて顔を出した男性は、ノックした父さんの後ろに俺を抱いた母さんがいるのに気が付いて、少し冷や汗を流しながら口調を改める。


「うふふ。別にいつも通りでいいわよ?」


「そ、そうか? 2人揃って来るなんてそうそうないから、何かあったんじゃないかと思って緊張しちまったじゃねぇか……」


「それに、私の事もカレアと呼んでくれてもいいのに」


「フェディは昔から知ってる仲だし元平民だからアレだが、カレアリナン様は根っからの貴族だし、口調は崩させてもらってるから呼び方だけは勘弁してくれ……」


「無理強いするつもりはないし、しょうがないわねぇ。気が変わったらいつでも呼び方変えていいからね」


「わ、わかった。まぁ玄関先で立ち話させるわけにもいかないし、入ってくれ」


 村長と言われた男性が家の中に入るのを促すので、それに従ってお邪魔する。


 入ってすぐの部屋がそこそこ広く、ここで来客の対応もしているようでそこにあった机に着く。


「それで今日はどうしたんだ? 来る予定も聞いてなかったから緊急事態かと思って本当に焦ったんだが」


「すまんすまん。3番目の子が1歳になったからな。礼拝をしにきたついでに、これからはたまに来ることになるだろうから挨拶をとな」


「おぉ! それで子どもも一緒だったのか」


「あい」


「はっはっは。母親に似て可愛らしいな」


「おいおい、俺の前でカレアを可愛らしいなどと……」


「ち、ちがっ! 確かにカレアリナン様は可愛らしいが、そういう意味で言ったんじゃないわ! わかるだろう!?」


 父さんより少し年上に見える村長は慌てて説明するが、両親は分かっているようで笑い出す。


「はは、すまんすまん。カーリーンの事の挨拶に加えて、ライもそろそろ1人で来ることもあるだろうし、見かけたらよろしくな」


「おう、分かった。町長の方にも伝えたのか?」


「この後ちゃんと伝えるつもりだが、子ども達だけの時は町の方は行かないように言うか悩んでいてなぁ」


 ――あれ、ちゃんと町長もいるんだ? てことは本当にこっちの農村とあっちの町とで分かれてる感じなのか……


「あー、騎士団がいるから問題はないと思うが、入れ替わりの頻度が高い冒険者もいるし、誘拐とかが心配だもんなぁ」


「あー、そこは心配していない。今までこの町でそんな事件が成立したことはないしな」


「そこじゃないのか……」


「俺が鍛えているんだぞ? そんな悪事を働こうとするやつらに簡単につかまるような子じゃない」


「なるほどな、そりゃあ心配事は減るわけだ。それなりに自衛できれば、すぐに騎士団が駆けつけるしな。……それじゃあなんで町へ行かせたくないんだ?」


「ほら、町の方は建物も多いうえに広いから、迷いそうじゃないか」


「……言いたいことは分かるが……そこまでか?」


「現に俺も未だに道を間違えるが?」


「なんで森は平気なのに町はダメなんだよ」


「壁がない方にこの村があるから、それを基準に考えればいいのに不思議よね~?」


「あ、あい……」


 母さんが父さんをからかうような口調で俺に同意を求めてきたので、一応返事をすると父さんが少し落ち込んだ。


 ――確かに壁を基準に考えればそこそこ位置は把握できそうだもんな……まぁ壁も見えないような高い建物ばかりの場所に行くとそうなるのかもしれないけど。


「ぐ……カーリーンにまで……」


「フェディも子どもたちに道を教えるついでに、一緒にでかければいいんじゃないか? ここは領都なんだし、領主が迷子とか笑えねえぞ」


「道をちょっと間違えて遠回りになる程度で、迷子にまではならないんだが……まぁそうだな、子ども達を連れて出かけるのもいいかもな」


「子ども達の方が先に正確に道を覚えてて、逆に案内されることになるかもしれないわね?」


「ぬぅ……親としてそれは回避したいから、やはり子どもだけで町に行かせるのはしばらくダメにしておこう」


「なんちゅう理由だ……」


 その後少し世間話をした後、村長の家を出て馬車に乗り、来る時にあった交差路を今度は橋のほうへ向かった。


 町に入って少し走ると、大通りにある大きな家の前に停まった。


 リデーナが先に建物に入って用件を伝えた後、戻ってきて扉を開けてくれるのを待ってから馬車から降りる。


「おはようございます、領主様。中へどうぞ」


 この建物は民家ではなく職場のようで、受付の女性に奥の部屋に案内される。


 受付嬢がドアをノックして来客を伝えると中から反応があり、ドアを開けてくれたので中へ入る。


「これは領主様。本日はいかがされましたか?」


 窓際にある机で書類整理をしていた細身の男性が、手を止め立ち上がって迎えてくれる。


「いや、この子が1歳になったから教会に行ったついでに挨拶にとな」


「おぉ。おめでとうございます」


 ローテーブルのソファに座るように促されたので、お互い座った後に用件を伝える。


「それと1番上の子が1人で町に来るかもしれないから、見かけたらよろしく頼むという報告だな」


「ライニクス様ですね。分かりました」


「それでだな……報告書はちゃんと見ているが、最近の町の様子はどうだ?」


「特に変わりはないですねぇ。あぁ、ライニクス様が来るかもしれないから不安なんですね?」


「ん、んー、まぁそれもある」


「ははは。大丈夫ですよ。この町は至って平和です。実力のある領主様方がおられる上、そんな方に鍛えられている騎士団がいる町で悪さなんてしようと思わないでしょう」


「そうか。町長が言うなら大丈夫だな」


「まぁ、相変わらずといいますか、南西の角の方は要注意ですが……」


「あそこは飲み屋も多いから仕方ないな……」


 ――酔っぱらい同士の喧嘩はやっぱあるよな……しかもそれが日々モンスターと戦ってる人達同士となると、被害もすごそうだ……


「あぁ、そういえば次の報告書に記載しようと思っていたことがありまして……お時間は大丈夫でしょうか?」


「あぁ、今日は特に予定はないから構わない。というより、それも仕事のうちだしな」


 父さんはそう言いながら笑いつつ町長と仕事の話を始めたので、邪魔にならないように静かに過ごした。

ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!


 農村と冒険者達がいる町を1つでまとめると大変そうという理由もあり、それぞれの区に長がいます。

 別に仲が悪いとかそういうことはないです。

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