44.神様
温かい家族の下へ転生させてくれたことに感謝しつつ、記憶が戻るのが早すぎて少し苦労したと多少の苦情を祈りに混ぜていると、光が当たったように瞼の裏が明るくなる。
高い位置にあった窓から日が差し込んできて、それが当たり始めたのかと思っていたが、両親の息遣いや周りの音も聞こえなくなっていたため、おかしいと思いゆっくりと目を開けた。
そこは教会ではなく、何もない真っ白い空間だった。
その空間には見覚えがある、というよりは異様過ぎたのと、この世界の神と出会ったという場所なので忘れるはずもなかった。
――何もない真っ白い空間だし、1度見たら覚えてるよな……って、なんでまたここに?
「ようこそ、さっきぶりだね。あ、ボク達とは時間の感覚が違うから久しぶり、になるのかな?」
声がした方を見てみると、長い金色の髪を揺らしながら白いワンピースを着た少女が歩いてきていた。
「神様! あれ、話せる?」
「あはは、そりゃあここは肉体が来られる場所じゃないからね。ちゃんと自我があって記憶や知識もあるなら、現世での姿なんて関係ないよ」
「そういうものなのか……」
この世界に転生する際に、別に敬語は必要ないと言われたのを覚えていたので、砕けた口調で気楽に話す。
「それで、新しい世界はどうだい? 祈りに来たのを感じて、話をしたくて呼んだんだけど」
「家族みんな温かいし、とても楽しく過ごさせてもらっております」
そう言って頭を下げたつもりでいるが、視界には光の球の一部が見えたため、今の俺の姿はヒト型ではないのだろう。
「よかったよかった。記憶もちゃんと覚醒してるみたいだしね」
「その記憶の事で一言……」
「うん? もしかして完全に思い出せてない? それなら徐々に思い出してくると思うから心配いらないよ」
「いえ、前世のことを含め、ここで神様と話したことも覚えてるから大丈夫だと思うんだが……」
「ふむふむ?」
長い金髪少女の姿の神様は、手を顎にあてて他の可能性を考えている。
「"せめて乳離れしてから覚醒するように"と記憶を封印してくれていたはずなのに、まだ生まれる前の胎内や、半年そこらで記憶が戻ったのはなぜなんですか!」
「え?」
「え?」
神様が予想外の事を言われて、少し驚いて固まった。
「う、うん? あれって神様がわざと早く記憶を戻したんじゃないんですか?」
「いやいや! さすがに記憶のある状態で胎内とか、話すどころか動くこともままならないし、ある種の拷問じゃん!?」
「胎内ではすぐにまた眠るように気が遠くなったからいいんだが、確かにあのままだったらキツすぎる……」
「え、それに記憶が半年くらいで覚醒したの? ヒトの子ってその頃はまだお乳貰ってるよね?」
「あ、あぁ。だからこそ家族の事とかを知っているから今普通に話せているわけだが……まだたまに授乳されてるし……」
「うーん? ……ごめんねぇ?」
「いやまぁ、もう慣れてしまったしいいよ……俺の方こそ"楽しいことは大好きな神様"の事だから、わざと早めに覚醒させて反応を楽しんでいるのでは、とか思ってすみません……」
「流石にそこまではしないよ!? ヒトの子と約束した内容を反故にするとか、神託を下ろしたのに別の事を起こすようなもんじゃん! それじゃあまるで邪神じゃないか……」
――神様からすればそうなるのか。という事は神様のせいではなかったか……ごめんなさい。
「うぅーん……ボクもヒトの子に記憶の封印をするのは初めてだったからねぇ……安定してなくて、現世の魔力と干渉しちゃったのかなぁ」
再び顎に手を当てて原因を考えている神様は、急にニヤっと笑って俺に視線を向ける。
「もしかすると、キミの"早くこの世界を満喫したい"という気持ちが強すぎたのかもしれないねぇ?」
「そ、そんなことは……確かにそう思ってたが……」
「あはは、冗談だよ」
「それにしても、俺の記憶が戻ったことを知らなかったという事は、別に見てたりするわけじゃないんだ?」
「そうだね。特に君が来てからはエネルギーを受け取るパイプの固定に難儀してたからね……なんとか終わって、キミの様子でも見ようかとしていたらちょうど来たんだよ」
「なるほど、お疲れ様です」
「いやいや、そのためにキミを巻き込んだようなものだしね。……そんなキミとの約束を破ってしまったわけだが……」
神様は腕をダランと下げて肩を落とし、見るからに落ち込んでいる。
「も、もう気にしてないから大丈夫だよ。そ、そうだ、神様の名前を当てるっていう話をしてたよね?」
危険な目にあったわけではないし、神様が意図的にやったことじゃないことでここまで落ち込まれるのはさすがに申し訳なくなってきたので、話題を変えてみる。
「む、そうだったね。ちゃんと覚えているようでボクは嬉しいよ。それで、分かったのかな?」
神様が期待しているように目を輝かせつつ、微笑みながら俺の答えを待つ。
――今のところ知っている神様は創造神イヴラーシェ様、生命神ライチ様、豊穣神グラルート様の3柱なんだけど……この神様のやってることはどう考えても創造神だよなぁ……豊穣神はまず違うとして、生命神は可能性があるけど、別世界からのエネルギーのパイプは扱わないだろう……
「創造神イヴラーシェ様」
「うん、正解だよ! まぁヒントが多すぎたかな……」
「そうですね。と言っても後はライチ様とグラルート様しか名前もしらないんだけど」
「という事は農地の近くの、あまり大きくない教会かな? それじゃあ当てられても仕方ない」
「うちから1番近い教会がそこだったからね」
「ふむふむ。さて、選択肢が少なかったとはいえ正解したキミには、ボクの事をイヴと呼ぶことを許そう!」
イヴラーシェが満面の笑みで唐突にそのようなことを言う。
「い、イヴ様?」
「様もいらないよ。せっかくヒトの子のように短く愛称というものを呼ばせてあげるのに、そこに敬称とかつけられたら距離感が遠くなるじゃん」
「そ、そうか。それじゃあこれからはイヴと呼ばせてもらう」
「うん!」
そう言う神様は、その見た目に似合う顔全体で笑って返事をする。
「ただ、そうそう呼ぶ事があるか?」
「……キミはこういう儀式でもないと教会に来ないつもり?」
さっきまでの笑顔が崩れ、むくれた表情で不満を表す。
「いやそういうつもりじゃないが……町に来られるようになったらちゃんと来るよ」
「それならいいじゃん。それにボクも作業が終わって時間ができたからね、これからはまた現世の様子も見るし、遊びに行くこともあるだろうからね」
「え、イヴは降りて遊びに行くとかするの?」
「するよ? 他の神もたまに降りてるしね。もちろん普通の人間に紛れて楽しんでるよ」
――俺の知識だと結構大事になりそうなイメージがあるが……まぁ神父さんから聞いた話だと神々の中で立場が1番上なのがイヴらしいし、そんな神様が遊びに降りてるんだから大丈夫なんだろうな。
「さて、キミはもう気にしてないみたいだけど、記憶の件はボクのミスだから何かお詫びをしようと思う。何かあるかい?」
「別に死にそうになったわけじゃないし、おかげで家族の事とかを早めに知ることができたから、本当に気にしなくていいのに」
「い~や。キミはそうでも創造神たるボクが気にするんだよ。他の神への示しがつかないし」
「うぅーん……そう言われてもなぁ」
「なんでもいいんだよ? なんたってボクは創造神だからね! あ、世界を壊すようなことは無しだよ」
からかうようにニヤニヤしながらそう提案してくるという事は、俺はそういうことを望まないと信頼してくれているのだろう。
――生活面も問題ないし、そもそも転生させてくれた時に魔法適性も貰っちゃってるしなぁ……こんな幼いころから記憶も覚醒してるから、魔力面は鍛錬次第でどうにか出来るみたいだし、なにかあるかな……
しばらく考えてふと思いついたことがあったため、それを提案してみる。
「現世に遊びに来る時があったら、会いに来てほしいかな……?」
「えぇ……?」
全く予想できなかった俺の言葉に目を見開いて固まっている。
――この短時間で2度も固まらしちゃったが、そんな予想外な事ばかり言ってるかな……
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書きたかったネタですが、1話で終わらせるつもりがちょっと長くなりそうなので2話に分けます。
ただその関係でちょっと追加で色々書くので、後日読み直して少し調整するかもしれませんがご了承ください。