43.感謝の礼拝
じいちゃん達が来てから1週間が経った。
書類整理が忙しい時期を終えて、朝から稽古が出来るようになってから姉さんはイキイキとしているが、それはヒオレスじいちゃんも同じようで、稽古に参加して教えたり一緒に素振りをしたりしている。
3日ほど前に父さんとヒオレスじいちゃんは、屋敷の前に広がっている森へと入って行ったようだが、遠くから爆発音に似た音などが聞こえてきたため、本当に森で手合わせをしていたのだろう。
帰ってきた時に衣類は土埃などでボロボロだったが、怪我などはしていないようで安心した。
――まぁあの時は、2人が森に行ったのを知らなかったから爆発音に驚いてたけど、帰ってきた時の服装やヒオレスじいちゃんのスッキリした表情を見れば察するよね。
そして、今日はいよいよ俺の誕生日ということで、朝から使用人たちも準備をしているようだ。
誕生日で準備となると、パーティー的なことを思い浮かべるが、幼い頃の誕生日は家族や身内だけで祝うらしい。
7歳の誕生日あたりからは、他の貴族への紹介も兼ねて呼ぶこともあるらしいが、うちは辺境も辺境、東の海側の端っこなため、移動が大変過ぎて大々的にするつもりはないらしい。
――王都からでも2週間くらい見積もらないといけない距離なんだもんな……移動経費もそうだけど、滞在する場所とかも必要だし、王都を挟んだ反対側からともなるともっと大変で、現実的に来れないだろうし。
ただ、貴族であるため紹介の場は必要なようで、そういう時は王都の別邸を使うらしい。
ライニクス兄さんは今年で7歳になるため、父さんと王都へ行く予定となっている。
3歳くらいになるまでは本人の体力的にも、お守り的にもそんな遠出は難しいため、俺はもちろんお留守番で、母さんも魔漏病だと思っている俺の世話をしないといけないため家に残る。
姉さんは行ってもいいのだが、俺が残るということで行かないつもりらしい。
――まぁ母さんはそういう貴族のパーティーとか苦手みたいだしな……俺が病気じゃなくても何かと理由を付けて辞退してそうだ……
王都へ行く予定を話し終えた後、母さん自身がそのようなことを、俺にだけ聞こえるように言っていたのを思い出す。
「さぁ、準備できたか?」
「えぇ、カーリーンも出来たわ」
「あい」
朝食を摂った後、両親と俺はキッチリした服装に着替えてリビングに戻り、俺の髪をまとめたりしつつ最終チェックをする。
両親にしては珍しく、少し飾りのついている貴族らしい服装を着ているが、俺はヒオレスじいちゃん達が来た日のような普通の幼児服に、姉さんからもらったリボンと飾り気は殆ど無い。
「ん〜! カーリーンかわいい!」
「ほらほら、せっかくキレイに縛ったリボンがほどけちゃうでしょ」
母さんの膝の上に座らされて髪をまとめ終ると、姉さんが抱きついてくる。
「旦那様、馬車の用意が出来ました」
「わかった。さぁいこうか」
茶髪のリデーナがリビングに来てそう伝えると、両親は俺を抱いて席を立つ。
「それでは行ってきます」
「あぁ、私等は孫たちと遊んでいよう」
「いってらっしゃい」
じいちゃん達に挨拶をすると、リデーナと一緒に玄関から外へ出る。
今日は町にある教会へ向かうらしい。
この世界では1歳未満で亡くなることが少なくなかったため、1歳を迎えると神に感謝しに行くという慣しがあるようだ。
馬車に乗り込み、リデーナの御者で町へと向かう。
――久しぶりの町だ! まだ屋敷の敷地外には連れ出してもらえてないからなぁ……父さんは外へ行く時あるけど、母さんは俺がいるからか町へは行かないし……兄さん達はたまに父さんと一緒に出かけてるみたいだし、俺もちゃんと歩けるようになったら連れてってもらおう。
などと考えつつ馬車に揺られていると、徐々に畑が見えてきて建物が増えてくる。
屋敷から町へと向かうと、畑が多く見えてきてから徐々に民家が多くなり、村のような雰囲気の場所へ着く。
その村の側を流れている幅20メートル程の川をこえると、壁のある町となる。
まるで城塞都市と農村が、川を挟んで共存しているような見た目をしている。
――街道整備の時に通って思ったけど、町の方は活気があるし、村の方はのんびりとした空気だよなぁ。まぁ町の方には冒険者ギルドがあるみたいだし、治安維持のために分けているのか、畑が広くなりすぎて自然とこっち側にも集落ができたのかは知らないけど……
外を眺めながらそんな事を考えていると、村の中心の方まで来た。
曲がると橋があって街の方へ向かう交差路を直進して、そのまま村へと入る。
教会の前に到着したようで、馬車が止まるとリデーナが扉を開けてくれて、父さんが降りた後俺を抱いた母さんが降りる。
村の中心の方といっても、今は丁度畑仕事の時間のようで人は少ないが、教会の近くに住んでいる人から挨拶をされる。
「あら、領主様おはようございます」
「今日もいい天気ですねぇ」
「あぁおはよう。はやく涼しくならないものかと思ってるよ……」
「あはは。まだ収穫が終わってないから、もう少しだけ暑い日が続いてほしいわ。冷え込むと駄目になるものがまだなのよ……旦那に急ぐように言ってるんですけどねぇ」
「ははは。なんなら手伝うから、また声をかけてくれ」
「いえいえ。流石にそこまでギリギリじゃないので大丈夫ですよ。ありがとうございます」
――父さんは"また"って言ってるし、今までも手伝ったことあるんだろうなぁ。こっちの農村の方だと皆家族みたいな雰囲気だし、居心地は良さそうだ。
「カレアリナン様、お久しぶりです。その子が3番目のお子様ですね? なんとも可愛らしい」
「えぇ。カーリーンも1歳になるからね。また町へも顔を出すと思うわ」
「あらあら、もう1歳ですかぁ。そりゃあ私もおばちゃんになるわけですよ」
「ふふふ。またそんなこと言って。またまだ若々しいし元気じゃない」
「元気は元気ですけどねぇ、あっはっは」
「悪いが、そろそろいかないと」
「あら、そうよねぇ。引き止めてしまってごめんなさいね」
「すまんな。また時間のある時に」
「それじゃぁまたね」
両親がそう言うと、話に来ていた人たちも自分の作業へ戻った。
教会へ入って近くにいたシスターさんに声をかけると、奥へ神父さんを呼びに行った。
入るとすぐお祈りをする広間があり、その奥には3つの像が並んでいる。
出てきた神父さんに挨拶して、俺が1歳になったことを伝えると、神々の説明を始めた。
どうやら1歳になった時の、感謝の礼拝の儀というのを執り行うらしい。
神父さんの話によると、真ん中が創造神イヴラーシェ様、向かって左が生命神ライチ様、反対側が豊穣神グラルート様の像らしい。
イヴラーシェ様とライチ様の像はどの教会にも祀られているが、他の神像は場所によって異なるらしい。
この教会のある場所は農村のようになっているため豊穣神が祀られているが、隣の町の方にある教会には狩猟神などが祀られているという。
説明が終わると次に聖水を飲むらしく、神像の前にある白地に金の装飾がされた陶器の水桶から、手の平くらいの小さな銀色の器に液体を汲んで持ってくる。
「それでは聖水を。吐き出せば、内なる汚れを同時に吐き出して身を清め。飲み干せば清らかな証拠になるでしょう」
――1歳だとまだうまく飲めるかわからないもんなぁ。まぁそれを言ったら、神々の説明も子供にはわからないだろうけど、3回目の説明も両親は何も言わず聞いていたし、儀式というくらいだから子供に聞かせる事自体が重要なんだろうな。
そんな事を思いつつ、神父さんが持っている器を口元に持ってきてくれたので、それを口をつけて飲み干す。
「それでは感謝の祈りを」
俺が聖水を飲み干す様子を見て微笑んでくれた後、そう言いながら神像の方を手で示す。
それに従って神像へと近づき、父さんは指を組み、母さんは俺を抱いているためそのまま目を閉じでお祈りを始めたので、俺もそれにならって目を閉じた。
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