39.夕飯
稽古を終えた兄さんたちが汗を流した後、旅の汚れを落とすという事で夕食の前にみんな入浴することになった。
さすがに入浴は慣れたと思っていたが今日はヘリシアばあちゃんもいたため多少緊張し、お風呂で見たものは早く忘れようと思った。
――ばあちゃんは顔にも皴がなくて若々しいって思ってたけど、顔だけ化粧とかで隠してるわけじゃなくて全身若々しいんだな……兄さんが6歳だから母さんは20代半ばくらいと考えて、母さんには兄がいるらしいからその伯父さんにあたる人は30手前くらいか? それらを考慮すると40は過ぎてて、50歳くらいになるんじゃないのか? 見た目が若すぎるだろ……
そんなことを考えつつ、なされるがままのお風呂の時間が終わって支度が整うと、今度はみんなでリビングに集まった。
昼食の時は形式にのっとってダイニングで食事をしたが、身内のみなので夕食からはリビングで食べるらしい。
いつもは両親の対面には子供たちが座っているが今日は母さんの横に並んで座っており、対面にはヒオレスじいちゃんとヘリシアばあちゃんが座っている。
俺は普段は母さんが食べ終わるまで隣でリデーナに食べさせてもらっているのだが、今回はじいちゃん側のばあちゃんの隣の席でリデーナに抱かれている。
――まぁ元々リデーナはじいちゃん所の使用人でもあったわけだし、一緒に座ったり席の場所とかは気にしないのかな。
そんなことを思っているとロレイナートがワゴンを引いて入ってきた。
「カーリーン、おばあちゃんの所においで。リデーナは準備をお願いね」
「かしこまりました」
若々しいゆえにその言葉に違和感を覚えてしまうヘリシアばあちゃんがそう言うと、リデーナは俺をばあちゃんに預けて配膳の手伝いをする。
運ばれてきた料理はいつにもまして美味しそうで、飾りつけも多くて見た目も華やかである。
――おぉ……ドラードがああ言うだけあるなぁ。めちゃくちゃ美味しそう……普段の食事の時も匂いだけで食欲がかなり刺激されているし、離乳食として出してもらっている野菜や穀物で作られたものも美味しいから、普通の料理もかなり美味しいんだろうな……
配膳が終わって再度リデーナに抱かれながら、隣に座っているばあちゃんの前の料理を見ながらそう思う。
いつもは交代で食事に行っているリデーナとロレイナートだが、じいちゃんたちがいる間は食事が終わるまでリビングにいるようだ。
「ふふ。普段見ないような飾り気のある料理だから、カーリーンは気になるようね」
今日は対面に母さんがいるため、離乳食を貰いながら料理を見ていたのに気が付いて笑っている。
――普段は隣か膝の上だから俺の視線には気が付かなかったんだろうけど、普段から美味しそうだなぁって思いながら結構見てます……
兄さんは自分の前に置かれた料理をいつも通りに見ているが、姉さんは俺と同じようにあまり見ない料理にはしゃいでいるようだった。
「もう離乳食もしっかりしたものを食べているのだし、柔らかいものなら食べられるんじゃないの?」
「そうねぇ。もう1歳になるし、歯も結構生えてきてるから食べられるかしらね」
「ポテトなら大丈夫かしら? 食べさせてみてもいい?」
「えぇ、お願いします」
ヘリシアばあちゃんが母さんに許可を取ると、椅子を少し下げて俺の方に向きやすくする。
――おぉ! これでちゃんと食べることができれば、徐々に普通の料理も出してもらえるようになるかも!
会話を聞いていたリデーナは離乳食を取っていたスプーンを置いて、ばあちゃんの方に俺を向けて座りなおす。
「まだお肉は無理だろうから、食べられそうなお野菜だけだけどどうかしら? はい、カーリーン」
そう言うとフォークで少しつぶして柔らかくしたポテトを少し冷まし、一緒の皿にあるステーキ用のソースを少しつけたものを口元に持ってきてもらう。
今までは離れた位置でしか嗅ぐことがなかった香ばしいソースの匂いが、口元にあるだけでよだれが分泌される。
持ってきてもらったフォークをパクっと咥えて、ポテトを口に入れてちゃんと咀嚼する。
――ん! 美味しい! 離乳食は優しい味でアレはアレで美味しいんだけど、仕方ないとはいえ塩分は控えめだから、しっかりとステーキ用に作られたこのソースがすごく美味しく感じる……
この世界で初めてと言ってもいい、しっかりと塩気の効いた味を堪能しつつゆっくりと咀嚼して食べる。
――今後の俺の食事が変わるかもしれないから、ここはしっかりと噛んで食べないと……こんなに美味しいんだから、早くちゃんと食べてみたい。
モグモグとちゃんと食べている姿を、みんなに温かい目で見守られながらちゃんと飲み込む。
「あーー」
ちゃんと飲み込めたことを教えるためと、次を催促するために口を開けてヘリシアばあちゃんを見上げる。
「ちゃんと食べられるようね」
微笑みながらそう言うと、野菜を少しつぶして次の準備をしてくれる。
「目が輝いているわね。初めての味でビックリしたのかしら?」
「ドラードの料理は美味いからな」
自覚はないがしっかりとした味付けに感動しているのは仕方ないと思いつつ、次のひと口をばあちゃんにもらってモグモグと食べる。
「明日から液状の離乳食じゃなくしてもらいましょうか」
「それでいいだろうな」
「あの喜んでいる顔を見たらそうしてあげたくなるわよね」
「あぁ」
両親が美味しそうに食べる俺を見てそう話していたので、俺は離乳食が次のステップに移ったと分かって嬉しくなった。
食事が終わって食器が下げられた後、つまみになるものとお酒を乗せたワゴンが代わりに運ばれてきた。
父さんとヒオレスじいちゃんは話しながら飲むようで、母さんも1杯だけもらっているが、ヘリシアばあちゃんは飲まないらしく、子供たちと同じ紅茶を出してもらって会話をしていた。
ロレイナートとリデーナは交代で夕飯を食べに行くため、今はばあちゃんの膝の上に抱かれている。
姉さんはいつもは食後にお菓子を食べるために量を少なめにしてもらっているのだが、今日は特別で通常の量を出されていたため満腹なようで、お菓子を出してもらうのを止めていたし、俺も今日は夕飯にポテトを貰ったりしてお腹がいっぱいなので、お菓子は貰っていない。
しばらくみんなの話を聞いていると、若干眠くなってきて目をこする。
「あら、カーリーンはもう眠いみたいね。今日はお父様達がきているからか、お昼寝しなかったものね」
「ライとエルはまだ眠くないのか?」
「まだ大丈夫です」
「じいちゃんとまだ話すー!」
姉さんも話しているうちにかなり慣れたようで、笑顔でヒオレスじいちゃんに答えると、じいちゃんも嬉しそうな顔で「そうかそうか」と笑っている。
「それじゃあ、ちょっと寝かせてくるわね」
母さんがそう言うと席を立って、ばあちゃんの膝から俺を抱き上げて寝室へと向かった。
寝室に入っておしめを替えられた後、日課になっている魔力チェックをしてもらう。
「【魔力視】……【魔力譲渡】。昼間にライトを使わせたから少し心配だったけれど、やっぱり大丈夫そうね。なんなら今日は少ないくらいね」
母さんは俺に魔力を渡した後、そういいながらベビーベッドに俺を寝かせる。
――そういえばあのライトの件のあと、厨房でドラード達と話したりしてたから空撃ちするの忘れてたな……リビングではじいちゃん達がいるから、念のため使うの控えてたし。
「あーーう」
「ご飯おいしかった?」
「あい!」
「ふふ。それじゃあまたドラードにお願いしなきゃね」
「あい」
母さんの言葉に反応しながら寝る前の準備をしてもらい、薄目の布団を掛けてもらう。
いつもは寝る前に睡魔が来るまで魔力を空撃ちしているが、今日は母さんの言う通り昼寝をしていなかったためか、普通に眠気がきている。
「お母さんはまたおじいちゃんの所に戻るけれど、その間リデーナが来るからね」
「あーい……」
ウトウトしつつそう返事すると目を閉じてすぐに眠りについた。
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お腹がく時間に食事の話を書くと空腹感が加速しますね……読んだりしててもそうだけど……
(´・ω・`)