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36.打ち込み稽古の見学

 武具を取りに行っていた子供たちと一緒に、ロレイナートも戻ってきた。


 子供たちだけでは父さんの分の武具を持ってこられなかったようで、手伝いに行っていたようだ。


 兄さんは軽い革製の肘あてなどの最低限の防具もつけてきてもらっており、盾も持ってきている。


 隣にいる姉さんは、親方に作ってもらった自分の木剣を、大事そうに抱いて小走りで戻ってきた。


「おや? エルにその木剣はでかくないか?」


「いいの!」


 じいちゃんが不思議そうな顔で姉さんに聞くと、自分専用の木剣が未だに嬉しいらしく元気に答えている。


 そんな姉さんが持っている木剣は、自分の背の高さほどある。


 始めたての頃は兄さんのおさがりを使っていて、それも体格差があるため姉さんには大きかったのだが、今持っている姉さん専用の木剣は今の兄さんの木剣よりも長く、握りは姉さんの手の大きさで、多少長く作られているのでバランスは悪くない。


 あえて言うのであれば木で作られている以上、耐久性に問題があるようで、刀身にあたる部分は長さのわりに細目なことくらいだ。


 ただ、姉さんがその木剣をしっかりと両手で握って構えている姿はすごく様になっており、問題はないように見える。


「まだ子供だからしかたないのだが、リーチが欲しかったらしくてな」


「かっはっは! その年齢でそうたどり着くか! 無意識に使ってる身体強化のおかげもあってしっかりしているようだし、これからが楽しみだな」


 今日はヒオレスじいちゃんたちも見学しているため、俺も母さんに抱かれた状態で稽古の様子を見れている。


 いつもの流れで、走り込みから準備運動と素振りを終えて、土人形への打ち込み稽古を始めるようだ。


 兄さんは父さんと同じく盾を左腕につけており、剣を片手で振ったり、力が必要な時はしっかりと盾を付けている左手でも握って振り下ろしている。


「よし、次は気力で強化して打ち込んでみるか。まずはライからだ。じいさんたちにいい所見せてやれ」


「はい!」


 兄さんが少し緊張した面持ちで返事をして土人形の前に立つ。


 気力の稽古という事でこれは同時にやらせず、ひとりひとりちゃんと見て指導しているらしい。


 兄さんが集中しているようなのでみんな静かにその様子を見守っていると、掛け声とともに両手で持った剣を素早く上げて右上から左下へ振り下ろした。


 ガッという音とともに木剣が土人形の肩の部分を大きく凹ませ、兄さんは剣を引いて元の姿勢に戻る。


 ――おぉ! 素早い振りであんだけ凹ませられるのか! 兄さんもちゃんと成長しているなぁ。


「上出来だ」


「はい!」


 嬉しそうに兄さんが返事をすると父さんの方へ寄っていった。


「ほぉ。あれほど凹ませられるのか。ちょっと軽く振ってもいいか?」


「どうぞ」


 ヒオレスじいちゃんがそう言うと父さんから木剣を受け取って、兄さんが切り付けた反対側の肩を狙って振り下ろす。


 綺麗な剣筋で振り下ろされた木剣は、ガッと先ほどより大きな鈍い音がすると、木剣の刀身の幅の分しっかり埋まっていた。


「ほぉ! 予想以上に頑丈に作っておるな! ロレイよ」


 強度が分からなかったため斬り付けてみたかったじいちゃんは、思ったより頑丈に作られている土人形に驚いている。


「はい。旦那様が見取り稽古をさせるとき用に少し硬くしております。ご子息たちも充分成長なさりましたので、これくらいの硬さでもお怪我をされないと判断いたしまして」


「この耐久性のものをあれだけ凹ませられるか。凄いな、ライ」


 そう言って嬉しそうにじいちゃんが兄さんの頭を撫でるが、兄さんは若干照れつつもそこまで喜んでいるようには見えない。


「いえ、まだまだです。エルがいますので……」


 そう言いつつ、困ったような表情で姉さんに顔を向ける。


 ――そうだった。以前土人形をぶった斬った姉さんがいるんだもんな。凹ませたくらいじゃ素直に喜べないか……


「素振りを見ていた限りしっかり出来ているし、兄妹揃って良い素質を持っていると思うが」


「エルは、そんなものじゃないと思いますよ」


「ほう。それは楽しみだ」


「それじゃあ、エルの番だな」


「うん!」


 姉さんは嬉しそうに返事をした後土人形の前に立った。


 兄さんと違って緊張している様子もなく、すごく楽しそうな笑みさえ浮かべている。


 ――さて、以前ぶった斬った時は残骸を見ただけで、斬った瞬間を見ていなかったからどんな感じなのか……


「やぁ!!」


 姉さんが叫びながら自分の背丈ほどある剣を、左からまっすぐ右へ振り抜く。


 ゴシャアっという音と共に木剣がめり込んでいき、その後は剣速が落ちること無く土人形を両断した。


 ――マジか!? 剣を構えている姿や、素振りをしている姿はかなり様になっていたが、よくよく考えたらまだ3歳だぞ……?


「今日はできた!」


「おぉ! 良くできたな!」


「ふむ。エルティリーナ様には、別の土人形を用意したほうが良いかもしれませんね」


 姉さんはすごく嬉しそうに父さんに駆け寄って撫でてもらい、ロレイナートは土人形を改良すべきか悩んでいる。


「ね? おじい様、言ったでしょ?」


 何が起きたのか理解できずに呆然としていたじいちゃん達は、苦笑している兄さんの言葉で我に返った。


「まてまてまて……」


「まぁ……!」


 ばあちゃんは手を口に当てて驚きつつも喜んでいるようだが、じいちゃんは手を目元に当てて、眼の前で起きた予想外の出来事を、なんとか飲み込もうとしているようだ。


 ――じいちゃん、俺もきっと同じ気持ちだよ……気力による強化があるから、見た目以上に力があることは分かっていたつもりだったが、実際あの小さな体であの大きさの木剣を振り抜き、土人形を両断する姿は受け入れるのに時間がかかるよね……


「エルは僕と比べ物にならないくらいすごいでしょ?」


「あ、あぁ……いや! ライも斬りつけるまでの時間が短く、速さを見るなら充分過ぎるくらいだぞ?」


「あ、ありがとうございます」


 姉さんはまだ父さんに構ってもらっているため、代わりに妹の自慢をしていた兄さんだったが、ちゃんと自分も褒めてもらえたことに照れている。


「フェデリーゴ、ちょっと話がしたい」


 そう言いながら、ヒオレスじいちゃんは父さんの方へ歩いていく。


「まさかこれほどとは……」


「エルティリーナ様は、武の才能がお有りのようですからねぇ」


 母さんとばあちゃんの後ろに待機していた執事たちの話が聞こえてくる。


「ただの才能というには非凡すぎませんかな……ロレイナート殿の事ですから、しっかり全体を同じ強度で作られているでしょう?」


「えぇ、もちろん。ナルメラド家に仕えていた頃同様、毎回きちんと作っております」


 ――ロレイナートはこの執事さんと知り合いかな? ロレイナートの()()()()()は同年代くらいに見えるけれど、仕えていた頃はどういう関係だったのだろう。まぁ他家に仕えることになったってことは、ロレイナートのほうが下だったのかな? 


「ふふふ。初めて見た時は私も驚いたわ。まさかあの年であそこまで力が出せるとは思わなかったもの」


()()()()()()の貴族としては安心できるわね。ライも力こそエルに負けているようだけれど、あの速さは素晴らしいわ」


「それにエルは魔法が苦手なようだからねぇ……ライは魔法も使えるようになってきたのだけれど……」


「まだエルは幼いのだから、これからよ。あなたもエルの年の頃は勉強から逃げてたもの。いつの間にか魔法を使えるようになっていたから驚いたものだわ」


「……そうでしたね……エルもなにかのきっかけで魔法が使えるようになって、勉強も頑張ってくれると良いのですが……」


「まぁアナタ自身、家より外にいる子でしたから、あまり期待はしてはいけませんよ」


「わ、私だって勉強はしました!」


「魔法は勉強より実践だったあなたが、大人になって真面目に勉強し始めたのはフェデリーゴのおかげでしょ? 感謝しなきゃね」


「う゛。あまりからかわないでくださいお母様……」


 ――貴族ではなかった父さんの代わりに、一緒になった時に問題がないように勉強したのかな……だとしたら大人しくなったのもそのあたりからなのだろうか……


 その頃を知っているヘリシアばあちゃんと執事たちに温かい目で見られ、顔を赤くして俯く母さんだった。

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エルティリーナの土人形両断はまだ毎回成功しているわけではないです。

成長して気力の使い方が馴染んでくれば……

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