35.お昼
俺はばあちゃんに撫でられたりしながら、父さんとじいちゃんが話をしているのを聞いていた。
じいちゃんの名前はヒオレス・ナルメラド。母さんと同じ金髪で整えられた髭もあってかなりダンディな男性だ。父さんと手合わせをするという事で推測はしていたが、かなり鍛えられている肉体をしている。
辺境伯という地位を持っている父さんが丁寧な言葉づかいになっていたことや、爵位を貰うときに口添えをしていることから、ヒオレスじいちゃんは高位貴族なのは間違いないと思うが、爵位の話はまだ出ていないし、単に母さんの父親だから丁寧になっているという事も考えられる。
じいちゃんは自分の領地は持っておらず、王都に住んで軍部や騎士団などに関する戦闘関係の役職で城で働いていたらしい。
――武人のようだし顔つきは若干強面だけど、話しているとこを見ていると優しいじいちゃんみたいだな。まぁ武人という事だし、戦いや武術面では厳しそうではあるけれども。
ばあちゃんの名前はヘリシア・ナルメラド。ヒオレスじいちゃんと同じく金髪で、皴もなく若々しい。
母さんはヘリシアばあちゃんに似ているので、並んでいると親子というよりは少し年の離れた姉妹のようにさえ見える。
――ヘリシアばあちゃんは母さんのように穏やかな性格みたいだし、そこがまた姉妹感を強くしている要因かもしれないなぁ。まぁ母さんは"今は"こういう性格だけど昔は違ったみたいだし、そっちはヒオレスじいちゃん譲りなのかもな……
しばらく話をしているとドアがノックされたので、父さんが許可を出してリデーナが入室してくる。
「護衛達の案内が済みましたので、ご報告にまいりました」
「そうかご苦労」
「リデーナもロレイも久しぶりだな。変わりないか?」
「はい。こちらで働かせていただいて感謝しております」
リデーナとロレイナートは元々母さんの実家であるナルメラド家の使用人だ。
父さんとの話も一区切りついて、2人がそろったので近況を聞いておきたかったのだろう。
「それにしてもその姿は本当に久しぶりだな」
玄関にいた時はヒオレスじいちゃんの護衛や使用人がいたため茶髪状態であったが、この部屋には元主と現主の家族しかいない。
正確にはナルメラド家の執事が1人いるが、事情を知っているため問題ないらしく、いつもの緑髪の姿で入室してきた。
「そうね。ライとエルの時にも来たけれど、その時はずっと茶髪だったものね」
「子供たちが成長するまで、あの姿でいるつもりじゃなかったのか?」
「カーリーン様に魔道具のことがバレまして、ご子息たちも"言いふらすようなようなことはしない"と約束してくださりましたので」
――まてまて、俺にバレたってなんか誤解を生みそうなんだが……いや確かに何か違和感を覚えて見てたのは確かなんだが……
「そうか、カーリーンにバレたか」
「赤ん坊の頃は何かと鋭いことが多々あるものね。カーリーンはもう魔法を使えるようだし」
「そのことなんだが……手紙で大丈夫だと書いてあったし、今も元気そうだからそこまでの心配はしていないんだが……何か必要なものとかはないか?」
ヒオレスじいちゃんが俺の病気のことを気にして、必要なものがあれば用意すると言ってくれているが、俺としては仮病のような状態なので申し訳なくなる。
「大丈夫よお父様。ちゃんと魔力を確認して枯渇させないようにすれば問題ないわ」
「そうか。何かあればすぐに頼ってくれていいからな」
ヒオレスじいちゃんはそういうとヘリシアばあちゃんの膝の上に抱かれている俺を、大きな手で撫でてくれる。
「旦那様、昼食のご用意ができました」
「あぁ、用意してくれ」
ドアの傍にいたロレイナートがそう言うので、廊下側から彼にだけ聞こえるような合図があったのだろう。
今日はじいちゃんばあちゃんもいるので、ナルメラド家の執事も昼食の準備を手伝い、手紙では書ききれなかったことや、兄さん姉さんと話しながら楽しく食べていた。
昼食が終わりみんなでリビングの方へ移動してきた。
そのままダイニングで食休みをするのかと思ったが、やはり寛ぐときはこちらの部屋らしい。
――まぁじいちゃん達だからっていうのもあるか。他のお客さんなら割り当てた部屋とかでくつろいでもらうことになるだろうし、ここはあくまで家族の部屋って感じだもんな。
談話室のような場所や貴族用の応接室があるにも関わらず、この部屋を使うのはそういうことだろうと納得する。
俺はばあちゃんに抱かれたままソファに座り、隣に母さんと姉さんが座っている。
男性陣はテーブルの方に座り、リデーナに用意してもらったお茶を飲みながら、滞在中の予定を話しているようだ。
「誕生日は来週だし、10日ほど世話になるがかまわないか?」
「あぁ、大丈夫だ。それにしても9日で王都から来ているが、結構無茶をしたんじゃ?」
昼食前に丁寧な言葉づかいは必要ないと言われたこともあって、父さんはいつもの口調で話している。
戦いの中に身を置いたことがある者同士、取り繕った言葉よりこっちの方が性に合っているのかもしれない。
「護衛は体力があるのでそこまででしたが、使用人たちはぐったりしておりましたね。今日は使い物にならなさそうでしたので、ゆっくり休むように伝えておきました」
「義母上はお疲れではありませんか?」
「そうね、それなりに疲れているけれど、孫たちと会えるのだもの。疲れなんて吹き飛ぶわ」
「しばらく一緒にいられるのだから、無理はしないでねお母様」
「えぇ、もちろんよ。私はヒオレスやカレアのように、体力に自信はありませんからね」
「ぐ……若干強行したのは悪かった。次からは気を付ける……」
ヘリシアばあちゃんにそう言われてヒオレスじいちゃんは謝るが、ばあちゃんも孫に早く会いたい気持ちはあったようで、そこまで気にしていないようだ。
――しかし、じいちゃんと同格に言われてる母さんよ……魔法使いはそこまで体力はないイメージだったが、全然違うらしいな……剣は振れないがあれは力の部類だし、運動神経自体はいいんだろう。
「おとーさん、今日はけいこしないの?」
「何? エルにも稽古をつけているのか?」
「やりたいというものだから、ライと一緒に稽古をつけている」
「ほほぉー。どれ、稽古の様子を見せてもらおうか」
「あら、あなた手合わせは良いの?」
「私もさすがに万全じゃない時にやろうとまでは思わん」
「そうか」
「なに、明日には手合わせしてもらう。そのために鍛えてきたのだからな」
じいちゃんは父さんを見てニヤっと笑う。
――母さんが言う通り、時間ができたから鍛錬してるんだろうな……ちゃんと疲労があるときは休むみたいだし、戦闘狂というわけじゃなさそうだな。手合わせは楽しみにしてるみたいだけど。
そう言うとみんな席を立ってテラスから庭へでる。
「……ここも相変わらず綺麗にしているな。使われてはないんだろ?」
「町の住人の緊急避難用に広く作って壁まであるが、今のところソレで使われた事はないな。俺たちが稽古や訓練に使ってるくらいだ」
――やたらと広い庭だと思っていたけれど、そういう役割もあったのか。
「それでいい。町中を通ってきたが活気もあるし、子供たちだけで出歩いている姿も見えた。それだけ平和という事だ。あの頃からは考えられん」
「町が活気づいてからは冒険者も増えたからなぁ」
「あの森はいい収入源になるだろうしな。南の方はどうだ?」
「あっちは相変わらず手つかずだ……まだそこまで余裕はない」
「そりゃそうか。北西の森に比べると重要度は高くないからな」
「南東の浅い所はそこまでモンスターも強くないから、初心者のいい狩場になってるらしい」
「奥まで調査はしていないんだろ? 開拓できれば領土が増えるぞ? その権限も与えられているだろう」
――南には未開の地があるのか。前に見た簡易地図だとそこまで書いていなかったからなぁ。そっちも相当な広さなんだろう。
「今でも十分な広さだよ。まぁ子供たちが大きくなってきたらまた考えることにするさ」
「そうだな。仕事ばかりで家族の時間を蔑ろにするわけにもいかんからな」
「そういうことだ。さぁ、稽古の準備をするぞー。木剣を持っておいで」
「はい!」「はーい!」
父さんに言われて子供たちは、自分たちの稽古に使う道具を取りに走っていった。
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父親が完全にため口になっていますが、おたがい肉体派なので何も気にしていません。義母に対してはさすがにある程度丁寧な口調になってますが。