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34.祖父祖母

 翌朝、早朝の稽古はほどほどにして、祖父たちを迎えるための準備をしていた。


 いくら身内といっても貴族であることには変わりないので、きちっとした服装で迎えるためのようだ。


 姉さんくらいの年齢になるとちゃんとした飾り気のあるドレスなどもあるのだが、ギリギリ1歳にもなっていない俺は、普通の綺麗な幼児服といった感じだ。


 そんな俺にも少し飾り気のあるものを身に纏わせられている。


 それが髪を縛るリボンである。


 日ごろから母さんに似ていると言われる俺には短髪が似合わないと思われたのか、家族は俺の髪を伸ばす方針でいるようで、まだ姉さんのように背中まであるわけじゃないにしろ、この時期は首元に熱がこもって暑い。


 そこで本格的に夏が始まったあたりから、ポニーテールのように髪を縛ってもらっているのだが、そこに姉さんが持っている縁に刺繍が入ってある綺麗な赤い紐をくれたので、それで髪をまとめているというわけだ。


 ――どこまで伸ばすことになるのだろうか……貴族の男性でも長髪の人はいるみたいだし、別におかしくないなら長髪でもいいんだけど、暑いのはいやだなぁ。


 前世ではずっと短髪だったため多少煩わしく感じるときもあるが、両親たちがこの方がいいと思うのであれば長髪でも平気ではある。


 ――今みたいに縛れば煩わしさも緩和されるし、短髪だったころは髪型なんて固定だったから、髪型を変えられるのが少し楽しみでもあるしな。


 せっかく縛ってくれた髪がほどけない程度に軽く触りながらそんな事を考えていると、リデーナがリビングに入ってきた。


「ナルメラド家の馬車がお見えになりました」


「わかった。さぁお前たちもいくぞー」


「はい」「はーい」


 父さんは席を立って子供たちに付いてくるように促した後、ロレイナートに服装におかしなところがないかの最終チェックをしてもらってから玄関ホールへ向かった。


 玄関から外へでるとちょうど門が開けられるところで、そこを豪華な装飾のついた馬車が入ってくるのが見える。


 その後ろにもう1台入ってきたが、こちらは比較的シンプルな作りなので、使用人たちが乗っているのだろうと推測する。


 その推測通り後ろの馬車が停車すると、ロレイナートと同じような執事服を着た男性が馬車から降りて、玄関前に停めた豪華な馬車の扉を開ける。


「どうぞ」


 執事の人がそう言うと「うむ」と一言言って初老の男性が下りてくる。


 皴はほんの少しある程度で、整えられた髭と短めに揃えられたきれいな金色の髪には白髪はほとんど見えず、かなり若く見える。


 ――この人がじいちゃん? 執事の人が開けてたしそれ以外ありえないよな……かなり若くみえるなぁ。いや子供を授かるのが早いこの世界だと、こんなものなのか?


「さぁ、お手をどうぞ?」


「えぇ、ありがとうあなた」


 先に降りた男性が手を差し出して、後から降りてくる女性の手を取る。


 "あなた"と言っていたことから、男性の奥さん、つまりばあちゃんにあたる人が降りてきたのだが、こちらは更に若く見える。


 ――母さんに似てるし間違いなく血縁は血縁なんだろうけれど……本当に母さんの母親なのか? 母さんがかなり幼……若く見えるのは血筋か。ちょっと歳の離れた姉妹と言われても信じるぞ。


「お出迎えありがとう」


「ようこそお越しくださりました」


「お父様、お母様お久しぶりです」


 母さんが俺を抱いたまま空いている方の手でドレスを摘まみカーテシーをする。


 ――やっぱりこの2人がじいちゃんとばあちゃんなのか。2人とも母さんと同じ金髪で、暑いから薄着だとは言え、じいちゃんは服の上からでも分かるくらい鍛えられてる肉体だなぁ。ばあちゃんに関しては綺麗な人で、記憶がある俺からすると母親と言われてもしっくりくるほど若く見える。


「その子がカーリーンね?」


「あい」


 ばあちゃんが母さんに抱かれている俺を見てほほ笑みながら聞いてくるので、返事をする。


「おぉ、もう返事をするのか」


「エルも初めて会った時にしてたでしょ?」


「そういえばそうだったか。同じころに王都にいる親しい友人のところにも生まれてな、どうも成長具合を比べてしまう。ライニクスもエルティリーナも元気だったか?」


「はい」


「う、は、はい!」


「はっはっは。無理に丁寧に話さなくてもいいぞ? 普段通りでいい。私たちは家族なんだからな」


「う、うん!」


 じいちゃんがそう言うと、姉さんは笑顔で返事をする。


「カーリーンを抱かせてもらっていいかしら?」


「えぇ、もちろん。抱いてあげてください」


 そう言うと俺は母さんからばあちゃんの腕の中に移動させられる。


「まぁまぁ。見てあなた。手紙に書いてあった通りカレアにそっくりよ」


 ばあちゃんは俺の顔を見て嬉しそうにじいちゃんに報告する。


「おぉ。本当だなぁ。髪や目の色だけでなく、顔つきまでカレアの小さい頃そっくりだ。男の子なのが惜しいなぁ」


「もう、お父様"惜しい"なんて言わないでください」


「そうですよ。男の子でもいいじゃないですか」


「す、すまん……いや、男の子だからそのうちライニクスと一緒に稽古をつけてやろうと思ったんだが、その見た目だとやりにくいなと」


「あら。私には稽古つけてくれたのに?」


「あれはお前が大人しくしていなかったからだ! 今のカーリーンと同じ年齢の頃にはすでに落ち着きがなかった。それに比べてカーリーンは大人しそうだからな」


 ――母さん……今とは違って本当にやんちゃだったんだな。落ち着きがないから稽古をつけられた……あれ? 聞いてた話だとじいちゃんは剣を使うのに、母さんは剣を使えないよな? となると基礎体力とか護身術の稽古だったのかもしれないな。


「まま、いく」


「ん、おいでー」


 母さんを見ていると目が合ったので、母さんのところに戻ることにした。


「ヒオレス様、ヘリシア様、どうぞ中へお入りください」


 いつまでも立ち話をしているわけにもいかないので、父さんがじいちゃんたちを招き入れ、ロレイナートがダイニングルームへと案内する。


「護衛の者たちを離れの家に案内頼んだぞ、リデーナ」


「かしこまりました」


 そう言うとリデーナは外へ行き、じいちゃんとばあちゃん、それに執事の人と一緒にダイニングルームへ向かった。


 こういう場合座る場所もある程度決まっていると思うのだが、俺と母さんはじいちゃんたち側に座り、対面の父さんの横の母さんがいつもいる場所には姉さんが座っている。


 ――まぁ家族だけだしいちいち座る場所なんて気にしないのかもな。さすがにこれが正式な座る場所でもないだろうし。


 こちら側は上座からじいちゃん、ばあちゃん、母さんと座っており、今はばあちゃんの膝の上で話を聞いている状態だ。


「あら、このリボンはエルティリーナに贈ったものかしら?」


「えぇ。エルがカーリーンにはまだちゃんとした服がないからって貸してくれたのよ」


「あらあら。優しいわねぇ。とても似合っているわよ」


「あい!」


 そんな俺たちの様子を微笑みながら見ていたじいちゃんが口を開いた。


「……あのカレアがここまで大人しくなるなんてな……感謝している、フェデリーゴ」


「そんな……大人しくなったのは子供たちのおかげですよ」


「そうかもしれんが、こんな幸せそうな娘を見られるのだ。お前のところに嫁がせたのは間違いじゃなかったという事だ」


「それは義父上(ちちうえ)の助力があってこそです。何しろいきなり平民が辺境伯なんて地位になれたのですから……」


「なに、それだけの働きをしてくれたのも事実。()()を放っておいたら国がなくなっていたやもしれん。それにお前は領主としても充分やってくれている」


「ありがとうございます」


「そういえば街道を広げたのだな」


「えぇ。1本の倒木でふさがれることもありましたから、あの道を通る人は多いようなので広くしました」


「そうかそうか。手紙では多少工事も手伝ったと書いてあったが?」


「えぇ、私もカレアも力はありますからね。まぁカレアは結構派手にやっておりましたが、久々に外で魔法が使えるのが楽しかったのでしょう……」


「……そうか、やはり娘は娘だったか……苦労を掛ける……」


「とんでもない。私としても楽しいですし、苦労なんてそんな」


「そうだったな、お前も娘と同じタイプだったな。丁寧な口調と領主としての手腕に惑わされるところだったわ。もう公の場でなければ砕けた口調で構わんぞ。そうでもしてくれんとまた惑わされかねん」


 じいちゃんはハァっとため息を吐いた後、母さんと父さんを少し困ったような感じで見ていたが、瞳からは優しさが感じ取れた。

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祖父祖母の登場です。武人の祖父と"今のカレアリナン"のようなのんびりとした性格の祖母。執事は次回あたりに紹介かと。

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