29.母さんに報告
前の話の投稿から間隔が短いのでご注意ください。
ドラードからお菓子を貰っていると、庭につながっているドアが開いて男性が入って来る。
「ドラード、採ってきたがこれでいいか? お? リデーナさんとカーリーン様いらっしゃい」
レタスのような野菜を手に持った茶髪で小太りのおじさんが、俺たちに気が付いて話しかけてくる。
と言っても俺は話せないので、リデーナが用件をいう程度なのだが。
「おかえりベルフ、見せてくれ」
そう言うとお菓子の残りを皿にのせてリデーナの傍に置き、ベルフと呼ばれた男性の下へいく。
ベルフからレタスを受け取って葉の状態などを確認していた。
「相変わらず上等な野菜だな。あぁそうだ。カーリーンの離乳食なんだが、もう少し固めでもいいらしいぞ」
「おや。もうですか」
ベルフは土のついた手袋を作業着のポケットにしまいながら俺の方を見る。
「あの菓子も普通に食べられてるし、大丈夫そうだぞ」
「なるほど、それなら平気ですな。ドラード、手伝いはいるかい?」
「いや、今日は大丈夫だ。あ、フェディ達の稽古が休憩に入るから、飲み物をワゴンに準備しておいてくれ」
「はいよっと」
そう言うとベルフは壁際にあったワゴンを机の近くまでもっていって、グラスを準備し始める。
「それでは私はカーリーン様とリビングに戻りますので、よろしくお願いします。もう少ししたらロレイが取りに来ると思いますので」
「おう」
「はい、わかりました」
そういうと、俺たちは厨房から出てドアを閉めた。
――まぁリデーナは俺のお守りをしなきゃいけないから何も手伝えないし、あのままいても邪魔になるだけだもんな。ベルフさんは優しそうなおじさんだったなぁ。野菜を採ってきてたってことは前にちらっと見えてた畑はあの人が管理してるのかな?
などと考えているうちにリビングに戻ってきた。
外では相変わらず兄姉の掛け声とともに、木剣が何かを殴る音が聞こえているので休憩はまだだったようだ。
リデーナはソファに座る前に俺用のミルクを用意してから、厨房に行く前に座っていた場所へ座る。
――前半は父さんによる剣の稽古だからその間はまだ母さんに見てもらうこともできただろうけど、兄さんも姉さんも魔力が分かったみたいだし、今日からは小休憩の時にも魔法の稽古を挟んでるのかな? 兄さんはもちろんのこと、姉さんも勉強が嫌でやる気がなかったのに【ライト】が使えたから一気にやる気上がってたもんなぁ。
しばらくリデーナが話しかけてくる言葉に対して、返事をするように反応しつつ舌を鍛えているとロレイナートが入ってきた。
「そろそろ休憩?」
「えぇ。体力自体は余ってそうですが、今日は一休みするときにも生活魔法を使って魔法の稽古をしていたので、さすがにお疲れのようです」
「そりゃそうよね。ライニクス様もエルティリーナ様もまだ子供だもの」
「お二方はここ数日で一気に成長しましたし、私もこれからが楽しみです。それでは飲み物を取りに行ってきますね」
「えぇ。分かったわ」
そういうとロレイナートは厨房へと向かう。
――リデーナは普段から常に丁寧な言葉づかいで話すけど、ロレイに対してだけはすごい砕けた口調で話すよなぁ。同じエルフだし昔から母さんの実家で使用人をしていたってことは付き合いも長いだろうから、仲はいいのかな? ロレイはリデーナ相手でも丁寧な言葉づかいのままだけど……父さんにも打ち明けてないくらい変装しっぱなしみたいだし、なりきるための方法だったりするのかな?
「リデーナ、カーリーンの様子はどう?」
ロレイナートがリビングから出ていくと同時に、母さんがテラスから俺の様子を見に入ってくる。
「今日も大人し……いえ、ドラードに誘導されて【ライト】を厨房で使いました」
「ふふふ。ドラードの性格ならそうなるんじゃないかと思っていたわ」
「未だに奥様のことを愛称で呼んでおりますし……注意しているのですが……」
「別にいいのよ、家の者だけのときならね。むしろリデーナ、貴方にこそ名前で呼んでほしいのだけれど?」
「……注意した以上私がそのような事するわけには……」
「それじゃあ、ベルフ達も巻き込んでしまいましょうか」
「ベルフは私にさえ敬称を付けて話す人ですよ。頑なに拒むでしょうし、かわいそうなのでやめてあげてください」
「ふふ、冗談よ。まぁドラードの件は分かったわ。さぁカーリーン、ちょっと休憩中だからおいでー」
母さんは話しながらリデーナの隣にすわり、俺の両脇に手を入れて抱き上げる。
「今日はあんまりお菓子たべなかったの? それともこれはお代わりかしら?」
俺にお菓子を食べさせようとした母さんが、リデーナが座っていたところの前に置いてあったお皿からお菓子を1つ取って様子を聞く。
「いえ、厨房へ行ったときにドラードが出してきたものを食べていたので、こちらのが減っていないだけです」
「ドラードも喜んでいたでしょう?」
「えぇそれはもう。ニコニコしながらカーリーン様に食べさせてましたね」
「ふふ、結構軽そうにみえるけれど、昔から世話好きだからねドラードは。ドラードのお菓子美味しかった?」
「あーーい!」
「それは良かったわ。今度本人の前で聞いて返事を聞かせてあげましょうね」
「あーーう」
親子の時間を過ごしていると、ロレイナートがワゴンを引いて戻ってきたので、一緒にテラスに出ることになった。
すぐに魔法の稽古に移るわけではないので、それまでは一緒にいることにしたようだ。
「あ、カーリーン、いーこにしてた?」
姉さんが飲み物を貰って勢いよく飲んだ後、俺に近寄ってくる。
しかし俺はその姉さんの後ろの方に見える土人形が気になって仕方なかった。
――2人いるんだから2つに増えてるのは良いんだが、なんで片方は真ん中から上がないんだ……近くに落ちてるあの土の山がソレか……?
昨日までは1つでやっていたはずの土人形が増えており、さらには片方は可哀そうなことに下半分しかないので気にならないわけがない。
「あ、あれね! わたしが切ったんだよ!」
俺の視線の先にあるものに気が付いた姉さんが自慢するように俺に報告をするが、その内容をすぐには受け入れられずにいた。
――いや、昨日と同じなら結構な強度あったよな……? 木剣で切り付けても衝撃で手が痛まないように多少は柔らかくしてたみたいだけど、大人サイズであの強度のを両断した……? 姉さんが?
「エル、カーリーンにはまだ分からないよ。それに怖がられるかもしれないよ?」
「え゛! ち、ちがうの! あれはおとーさんがやったの!」
今さら言い逃れをしようとしているが、そもそも伝わっていなきゃ言い訳も無意味だし、伝わっている俺からすれば手遅れである。
「あれはいい斬撃だった。さすが俺の娘だ」
「ちがうもん! あれは兄さんがやってたからだもん!」
「いや、僕の分のダメージもあるとは思うけど、トドメは間違いなくエルだよ」
飲み物をのみつつ一息入れていた父さんと兄さんからそういわれ、焦りつつ母さんに助けを求めるように寄ってくる。
「ふふ。大丈夫よ、怖がられたりしないわよ。すごいことなんだから」
「ほんと?」
「えぇ。本当よ。それじゃあ元気みたいだし、魔法でも同じようなことができるように練習しましょうか」
「エル、次は負けないからね」
「わ、わたしも負けないもん!」
兄さんは姉さんの扱いがうまくなったのか、姉さんの苦手な魔法の稽古を意欲的にやらせることに成功しているようだ。
「それじゃあリデーナ、またしばらくお願いね」
「かしこまりました」
「カーリーンまたあとでねー!」
母さんと姉さんに見送られ、リデーナと一緒にリビングに戻る。
「エルティリーナ様は気力を扱う才能があるようですね。ライニクス様もそろそろ使えるようになりそうですが。カーリーン様は魔法の才能から開花しそうですね」
そう言いながらリデーナは微笑む。
――体を動かすことも嫌いではなかったが、今は魔法のことで頭いっぱいだから俺もそうなると思うよ。
「さて、稽古が終わるまで次は何をしましょうか?」
「あーーう」
――できることなら、この屋敷のいったことのない場所へ行ってみたいが……伝わらないよなぁ。リデーナも自分に問いかけるように言ったようだし。そういえば……お昼からトイレしてなくない……?
記憶がある以上、母親の腕の中では仕方ないと諦めていたが、母さん以外の人に抱かれた状態ではしないように多少我慢できるようにはなっていた。
しかし夕方近くまで続く稽古の間、ずっと我慢できるかと言われると無理だ。
――しかも今日はリビングで待機だから、お菓子と一緒にミルクも結構飲んじゃってる……あぁぁ。考えたらダメだったか……が、我慢……
トイレのことを考えたせいで近くなったそれは、しないように頑張ったが我慢は長続きせず、リデーナの腕の中でしてしまった。
母さん以外の人に抱かれた状態でしてしまった恥ずかしさや、申し訳なさ、そしてさっき母さんに抱かれていた時になんで思い出さなかったのかという後悔の感情が混ざった結果、いつも通りスンっと真顔になる俺だった。
リデーナはそんな俺の表情を見て笑った後、その表情が意味することを母さんの隣で見ていて知っているため、おしめを替える準備を始めてくれた。
「あー……う……」
――ごめんなさい、ありがとうございます……
仰向けに寝かされている俺は、未だに感情がゴチャゴチャ状態の真顔で天井を見上げつつお礼を言った。
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片言でもいいので早くしゃべれるようになるところまで進めたいのですが、まだ書きたいネタがあるのでもうちょっと赤ちゃん状態です……(´・ω・`)