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28.料理人

 リビングから廊下に出て、少しだけ移動したところにあるドアを開く。


 基本的に両親がいるであろう部屋や応接室のような場所でなければ、ノックをせずに出入りしているようだ。


 リデーナが開けたドアの先には、推測通り広々としたキッチンがあった。


 作業したり出来上がった料理を余裕をもって置ける大きな机、家族達だけであればそこまでではないが、来客があった時やパーティー的なことをした際に、短時間で大量に調理できるように竈などが複数設置してある。


 ――うちで働く人たちの昼食や、住み込みの人たちの夕飯とかも必要だもんな。そりゃこれだけ広くないと不便だよな。


 鍋などが竈に置いてあり机には野菜も出した状態なのだが、それを準備したであろう人影が見当たらない。


「ドラード、ベルフ、どちらもいないのですか?」


 リデーナが厨房を見渡して名前を呼んだので、この家の料理人達の名前なのだろう。


「おー。ちょっと待ってくれ」


 入口近くにあった別のドアから男性の声が聞こえ、少ししてからドアを肩で押しながら木箱を持った黒髪の男性が出てきた。


 その男性は父さんよりも背が高く、頭には生え際辺りから後ろに向けて立派な深紫色の角が生えている。


 ――角!? てことはこの人も亜人なのか! 角も生えてるし純ヒト族ではないよな。それにしても、ただでさえ高身長なのに、その角のせいでなおさら背が高く感じられる……


「悪い悪い、食材を取りにな。ベルフなら畑だ。お? なんだリデーナ、今日は()()()なのか」


 男性が出てきた部屋は食料庫らしく、ドアが開いたときにヒヤリとした空気を感じた。


 ゴトっと机に置かれた木箱には肉と一緒に、調味料や粉物が入っているであろう小袋も入っていて、それらを取り出しながら俺に気が付いてリデーナに聞いてくる。


「今日は稽古があるので、その間はカーリーン様のお世話(・・・)です」


「そうかそうか。ってことはその子が例の魔法を使った子だな?」


「えぇ、そうですが」


「ほほぉー。俺は幼い頃を知らないが、お前たちが言ってた通り成長したらカレアにそっくりになりそうだな」


 箱から食材などを出し終えた後、近寄ってきて目の前にしゃがんで顔を見られる。


 ――俺の容姿に関してはみんな同じ意見らしいな……母さんは可愛いしそんな人に似るのは悪くはないと思うんだけど、一応男だから何とも言えない気持ちになる。ていうかこの人は母さんを"カレア"って呼ぶってことはかなり親しい間柄の人なのか。


「本当にそっくりですよ。奥様を幼いころからお世話していた私が断言します。それはそれとして、いい加減奥様のことを愛称で呼ぶのを止めた方が良いかと」


「いいじゃねぇか。町の連中だってフェディを愛称で呼んでるやつもいるだろ?」


「旦那様は元々平民ですしこの町では仕方ありませんが、奥様は違います。雇われてる以上そのあたりはきっちりするべきでは?」


「フェディもカレアもこれでいいって言ってるし、いまさら敬称付きで呼んだら気味悪がられるわ」


「一応忠告はしましたから。せめてお客様の前ではちゃんとして下さいね」


「料理人の俺が客の前に出ることなんてないだろう」


「万が一です。わかりましたか?」


 リデーナは微笑んでるし口調も丁寧なのだが、声色から圧を感じる。


「へいへい。それにしても、カーリーンだったか? まだ1歳にもなってないこんな子が魔法をなぁ」


 ドラードは顎に手を当てながら更にまじまじと見てくる。


「えぇ。それだけ才能があるのでしょう。病気を患ってしまいましたがそちらは問題ありませんし、そのせいで魔力量も多くなっているようですので、きっと素晴らしい魔法使いになるかと思います」


 敬称を付けなかったことに対しては"言っても無駄"と判断したのか何も言わず、リデーナは微笑みながら俺のことを話し始める。


「どれ。【ライト】」


 ドラードは顎に当てていた手を放して、俺の目の前で【ライト】を発現させる。


「ほらカーリーン、ライトだライト。言ってみ?」


「ちょ、ちょっと止めてください」


 それほどまぶしくない光の球を見ながら困惑していると、魔法を使ってみろと言わんばかりに復唱させようとしてくる。


 ――まぁ【ライト】なら危険がないから使ったとしても平気って言ってたし、そこまで言うならみせてあげようじゃないか!


「【あーと】(ライト)」


 使ったことがある魔法だったため、今回は魔力量を調節してそこまで明るくない状態で出すことができた。


 ――ふむふむ。夜とか暗い場所で使うくらいならこれくらいで充分だな。前に使ったときは明るすぎたもんなぁ。日が出てるのに普通に眩しかった……


「おぉ! 本当に使えるんだな! ハハハハ」


 そういうとドラードは魔法を消して笑うので、俺も一緒に魔法を消しておいた。


「カーリーン様は"使える"というよりは、病気のせいで"暴発している"に近いのですよ! そういうことはやめてください!」


「お前も母親みてぇだな……暴発したとしてもライトなら問題ないだろう? カレアもそういう判断だって聞いたが?」


「はぁ……あなたにはカーリーン様が魔法を使ったことは黙っておくべきでした」


 リデーナは自分の額に手を当てながら、呆れたようにため息を吐いた後そうつぶやく。


「まぁ生活魔法と言えど魔法は魔法だ。危険がない魔法でちゃんと監視しているなら、使わせた方が伸びると思うんだが?」


「そうかもしれませんが安全面を考えると、やはりカーリーン様が意図的に魔力操作を行えるようになってからの方が間違いはありません。あなたと違って肉体がつよいわけでもありませんし、なによりそれを決めるのは旦那様と奥様です。あなたが勝手に"魔法を使うように誘導した"と報告はしておきます」


「あいつらなら笑って流してくれそうだがな。しっかし、上の2人も生活魔法を使ったんだろ? 俺の子でも魔法が使えるまでもっとかかったのに、フェディとカレアの子たちは優秀だな」


 ――ドラードは子供がいるのか! 見た感じ"お兄さん"って感じより少し上にみえるから30歳くらいか?


「純ヒト族と竜人とは寿命も時間感覚も違うのですから、成長速度で言えば当たり前かと」


「そういうもんか。まぁ息子も娘もかれこれ50年は会ってないしな。フェディ達の子を見てると会いたくなってくるが、今はどこにいるのやら」


「奥さんにも会っていないでしょう」


「……アレとは極力会いたくはない……」


「まぁあなたの家族は動き回るのが好きなようですし、ここに居着いてる以上そのうち会うでしょう」


「恐ろしいこと言うなよ……」


 ――ドラードは竜人なのか! だから立派な角があるんだなぁ。それにしても50年も子供たちに会っていないという事はそれ以上の年齢なのは確定で、子供達を放っておいたわけじゃないならそれなりに育ってるんだよな? リデーナとかロレイで分かっていたけれど、長命な亜人のいる世界だとなかなか見た目での年齢判断は出来なさそうだ。


「世間話はまた今度するとして、わざわざカーリーンと会わせるために来たんじゃないんだろ?」


「当たり前です。そろそろ稽古が休憩に入りそうなので、飲み物の準備をするように伝えに来ました」


「了解了解」


「それと、カーリーン様のお食事ですが、もう少し固形状態でも平気そうですのでそうして下さい」


「お。そうなのか?」


「よくエルティリーナ様にお出ししているお菓子を美味しそうに食べてますし、大丈夫だと思います」


「それは聞いてたが、そんなに食べてくれてたのか」


 ――この言い方だと、あのボーロはドラードがここで作ったものだったのか。この見た目から料理はまだ分かるんだが、お菓子を作る印象は湧かなかったなぁ。


 "美味しそうに食べていた"と言われて嬉しくなったのか、作り置きしていたお菓子を出してきて口元に持ってきてくれたので、俺はそれを美味しく頂くことにした。

ブックマーク登録、評価やいいねなどありがとうございます!


ブックマーク登録が100件超えていてかなりビックリしてます。ありがとうございます。


出てくる登場人物が亜人ばかりですが、ちゃんと普通の人間の使用人もいます。

一応今後本編でも説明すると思いますが、人間を"純ヒト族"と表現しておりますが、亜人達も人間扱いなのでその差別化のための表記です。

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