23.親方
親方は予め街道の下見に行っており、正確な位置や必要な人員、大まかな工事期間の見積もりもしてくれてきていたようで、話は順調に進んでいた。
街の南西の森までは荷物等を積んだ馬車でも大体2時間もあれば着くらしい。
森を抜けてまた同じほど移動すれば隣の領都につくらしく、その森が境界線になっているようだ。
なので隣の領主と相談して進めていたようで、あちらからも土木屋が参加すると言っていた。
「ちょっとした林くらいならサクッと終わるんだがなぁ」
「あの森を歩いて通ると1時間ほどかかるからな……」
「向こうからも土木屋が来ると聞いたが、どっちから始めるかとか決まったのか?」
「あぁ、向こうの領主とやり取りをして、うちの方からでいいらしい。ただ木材は半々に分けるようになるから、森の外が近い方に出しておいてくれ」
「んじゃあわかりやすいように、初日は真ん中を少し伐採しておくか」
「ある程度伐採が進んだら少しずつ運んで場所を空けるから、溜まってきたら連絡をくれ」
「お? 運ぶのは任せていいのか? うちから出すつもりだったから、それなら作業期間も短くなるな」
「結構な規模になるからもちろん手伝えることはするさ。ただ、木をまるまる一本浮かせられるような重力魔法を使えるやつはそんなにいないから、冒険者ギルドにも持ちかけることになる」
「そのへんは任せる」
「ちょうどよく重力魔法の使える冒険者が来てるといいのだけれど……」
「最近はまた増えてるみたいで、買い出しに行くとよく見かけるがなぁ。その割には特に何も聞かないが何かあったのか?」
「いや、あれだ。毎年恒例の港町でのんびりしたい奴らがいるんだ。まだ時期じゃないからそれまではこの街で稼ぐと言ってたぞ。そんな奴らが今年は多いみたいだな」
「なるほどなぁ。森は特に変わりはねぇのか? 俺等はあっちの森は行かないから知らねぇんだが」
あっちの森というのは山脈の間から入ることができる、街の北西にある大森林のことらしい。
話を聞いているとその森は頻繁にモンスターに出くわすような危険な森で、父さんが討伐して英雄になることになった魔竜もその森の奥地から来たらしい。
冒険者やハンターはそのモンスターを狩り、魔石や素材を卸して生計を立てているようだ。
「この間行ってきたが、特に異変らしいものはなかったから安心してくれ。なんなら冒険者が増えてるおかげで街道付近は去年より安全なくらいだ」
「がっはっは。そりゃあいい。拡張工事中も安心して作業ができるってもんだ」
「次は寝泊まり関係か」
「あなた、その前にお昼にしましょ。親方も食べていって」
「おぉもうそんな時間か。断るのももったいねぇし、ご馳走になる」
そう言うとロレイナートを先頭に、リビングへ続く廊下の別の部屋のドアを開ける。
そこはいつもは使っていないダイニングで、壁や暖炉の上には置物が飾られており、リビングにあるものより広い机や装飾が施されている天井ランプが設置されている。
「準備してまいりますので、ごゆるりとおくつろぎください」
ロレイナートはみんなの前にお茶を用意したあと、ワゴンを引いて退出する。
少ししてからノックされ、子ども達を連れた茶髪のリデーナが入ってきた。子ども達が入ったあと、一言挨拶してからドアの前にあるティーポットの乗ったワゴンの横で待機している。
――そっか、親方がいるから今日はその姿なのか。久しぶりに見たけど、髪色が変わるとイメージはガラッと変わるなぁ。顔つきがそのままだから分かりはするんだけど。
「親方さんお久しぶりです」
「おひさしぶりです!」
「おぉおぉ! 坊っちゃんに嬢ちゃん、元気だったか?」
「「はい!」」
「作ってやった椅子の調子はどうだ嬢ちゃん」
「まだこわれてないし、つかいやすい! ありがとー!」
「がっはっは。小さく感じたら言ってくれ。調整して作り直してやるからよ」
「うん!」
「坊っちゃんは剣の方はどうだ? そろそろ小さくなってきたんじゃないか?」
「折れてもいませんし、まだ身体にあってる……と思います」
「そうかそうか、遠慮するなよ?」
「はい!」
姉さんの部屋にある椅子や、稽古で使っている木剣は親方が作ったものらしい。ドワーフといえば鍛冶やモノづくりのイメージがあるので、何も不思議ではない。
――むしろ、ドワーフ産のモノというだけで羨ましい! 俺も稽古するようになったら作ってくれるのかな?
「そうだ親方。エルの木剣を頼みたいんだが」
「お。もう剣の稽古始めてるのか?」
「それどころじゃないわ、気力による身体強化も使えるようになってるのよ」
そう。ここ数日で姉さんは短時間ではあるが気力での身体強化が出来るようになっていたのだ。
そのおかげで姉さんが使うにはでかい、兄さんのお下がりの木剣をきちんと振る事が出来ており、今ではそれで打ち込み稽古にも参加している。
「そりゃたまげた……その年でもう使えるのか!?」
「ライも気力こそまだ使えないが、負けず劣らず成長しているし、そろそろ使えるだろう」
「よし! 分かった。嬢ちゃんこっちに来てくれ、手のサイズを測ろう」
「うん!!」
自分の木剣を作ってくれると分かっているので、輝くような笑顔で返事をして親方の所へ駆け寄る。
「ふむふむ。握りはこれくらいで……ちょっと両手で構えてみてくれ」
「こう?」
「そうだ。柄の長さはこんくらいか。あ、フェディのスタイルだから片手主体の長さのほうがいいのか?」
「あー、それなんだがなぁ……」
「今のお兄ちゃんのけんより、すこしながいやつがいい!」
「……らしいんだ」
「それだと嬢ちゃんの背と殆ど変わらないぞ?」
「それでいい!」
「いいのか、フェディ」
「そうでもしないとリーチの差で負けるらしいからな」
「がっはっはっは! そうかそうかなるほどなぁ!」
「土人形への打ち込みしかしていないのに、そういう考えに至ったらしいわ」
「まぁ俺自身、なにも片手剣だけしか使えないわけじゃないからな。子ども達のやりたいようにさせてやりたい」
「了解した。それなら柄も少し長めにしたほうが安定するか。具体的にはどれくらいの長さがいいんだ嬢ちゃん」
「わたしくらいのながさがいい!」
「そうすると、少し太くなるがいいか?」
「うん! そのほうが強そう!」
「そうか強そうか、了解した! 坊っちゃんもなにか注文あるか?」
「い、いえ、僕は父さんと同じ片手剣のスタイルで行きます」
「わたしもおとーさんと同じがいいんだけど、はやくフーゴみたいに強くなりたいもん!」
「がっはっは! そうかフーゴみたいにか。それじゃあ親父みたいに強くならないとなぁ?」
「うん! がんばる!」
「よかったなぁフェディ。坊っちゃんに続いて嬢ちゃんにも稽古つけられるようになって。昔言ってた夢が叶いっぱなしじゃねぇか」
「ははは。そうだな」
――父さんの昔のことを知ってるし、呼ぶときも母さんに対してはきちんと呼ぶのに、父さんには愛称呼びだし、親方は父さんとは付き合いが長いんだな。そして、あの本の存在と元になった人物を知ってるな……
「だーーう」
「あら、どうしたの?」
「おーえ!」
「はいはい。ちょっと失礼するわね。先に用意ができたら食べ始めてていいから」
「分かった」
リデーナにもひとこと告げてから俺を抱いて寝室へ向かう。
「親方の分もあるからいつもより時間かかるだろうし、準備ができるまでに色々と済ませておきましょうね」
――たしかにトイレも行きたかったし、時間があるならそのほうがいいか……
「【魔力視】……【魔力譲渡】。今日はあんまり減ってないように観えたんだけど、実際に受け渡すと結構減ってるわね……」
「だーーう?」
「ふふふ。なぁに? 大丈夫よ。ほら、トイレもしたいなら今のうちにしちゃいなさい?」
「あぶ……」
そう言われて、なるべく覚えておきたくない一連の流れを済ませて、ダイニングへと戻った。
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気力の扱いに関して妹に先を越されましたが、兄もがんばってます!