22.日課の変化とお客さん
病気の疑いがかけられてから3日ほどたった。
今までのように睡魔が来るほど魔力を消費して寝るという事はさすがにせずに過ごしている。
――朝昼晩と3回は残量チェックされるうえ、昼寝が増えると不安でチェックされて、結構減ってたら大事になりかねないからなぁ……
これ以上心配をかけたくはないのでそこは自重しているが、夜のチェックが終わって寝る前にはしっかり眠くなるまで消費してから寝ている。
母さんはこの国屈指の魔法使いと言われているようだが、そんな母さんでも常時魔力を観られるわけではないらしく、空撃ちする魔力量を増やしても怪しまれることはなかった。
――これなら重力魔法とか試さずに、消費を増やすだけでよかったなぁ……まぁやっちゃったものは仕方ないし、魔力操作の稽古を受け始めた時にすんなり成功した時の言い訳にもなるとポジティブに考えよう。
ちなみに母さんはすでに【魔力視】の付与魔法を習得しており、そのせいもあって抜き打ちが怖くてこっそり消費するのができなくなったというのもある。
今は朝食が終わり魔力チェックと譲渡に加え、俺への授乳やおしめ交換のために母さんとリデーナと一緒に両親の寝室にいた。
何をやっているか分からないだろうが子ども達を不安にさせないために、魔力譲渡は子ども達に見つからないように行っている。
「ふぅ」
「お疲れ様です奥様」
「そんなことないわよカーリーンのためだもの、当たり前よ。それにしても日に日に渡す魔力が増えていってるわ」
「それは今後が楽しみですね」
「えぇ。きっと私をも上回る魔力量になるわよ」
毎日食事の前後どちらかに確認と魔力譲渡をしてくれているので、俺以上に魔力量の増加が感じ取れているのかもしれない。
「奥様、本日は土木屋の親方様がいらっしゃりますが、いかがなさりますか?」
「カーリーンも同席することになるけれど、一緒に聞いておいた方がよさそうよね。街道の件でしょ?」
「はい、用件はその件と伺っております」
「それならフェディと一緒に聞いておくわ。カーリーンは大人しいから邪魔はしないでしょうし、ねー」
「あーーう!」
最近早く話せるようになるために、よく声を出して舌やあごを鍛えている。
よくしゃべるようになった俺に向かって話しかける回数が増えたのは仕方のないことだ。
――反応が返ってくると話しかけてる身としても嬉しいもんな。それがわが子となると可愛さもあるだろうし。
「まーーー。うーーーー。ばーーー」
こうして色々発音してて思ったことがある。
――歯並びや舌の発達具合が関係してる"サ行""ラ行"がここまで難しいとは……"タ行"もちょっと難しかったけどこっちはまだいけそう。父さん母さんって呼びたいけど、サ行が致命的だしパパママで呼ぶのが早いのも納得だ……
「しゃー、たー、えあーー、ぱーーー、まーーー」
――うん、サ行は要練習。"ら"なんて"エアー"になってるしもっと舌を鍛えなきゃ。あとはハイハイとかで体も鍛えなきゃなんだけど、土足で生活する環境だからなぁ……暖炉付近のカーペットの上とか、寝室じゃないと無理か。そもそも下ろしてくれないし……
「ふふふ。今日はよくおしゃべりするわね」
「いい傾向ではないでしょうか。今までが大人しすぎたのでしょう」
「それもそうね」
そういうと母さんは俺を抱いて寝室を出て、リビングにいる家族の元へと向かった。
10時ごろになって使用人から来客の知らせを受け、父さんと俺を抱いた母さんは客間へと先に移動する。
話を聞いたり母さんに抱かれて家の中を移動しているときに知ったのだが、家族で食事をしている部屋とは別に食事室というかダイニングもちゃんとある。ただ、家族しかいない場合などはそのまま一息入れたりリラックスできるようにリビングで食事を取っているみたいだ。
その他にも商人や他の貴族が訪ねてきたとき用に、飾りなどもしっかり施している応接室、今回のように街の人とかと打ち合わせ等をする際に、気後れしないように飾り気は最小限な客間などもしっかりとあるようだ。
――まだ見たことない部屋も多いもんなぁ……武具とかしまってる倉庫もあるみたいだけど、母さんは用がないからどこにあるかすら知らないし、何なら厨房もおおよその場所は分かってるけど行ったことないもんな。
客間で少し待つと、ロレイナートがお客さんを連れてきたようでドアがノックされた。
ちなみにリデーナはリビングで子供たちのお世話をしている。
父さんが許可を出すとドアを開いてお客さんが先に入り、他のメイドが持ってきたワゴンを引いてロレイナートも入室してドアを閉めた。
入ってきたお客というのは土木の仕事をしている親方と呼ばれているひとで、その土木屋の一番偉い人らしい。
そして俺はその親方さんの見た目を見て、テンションが上がっていた。
――背は思ったより低くはないけど、頭が大きめだからか対比的に小さく見える。そしてあの立派な髭! 胸あたりまで伸ばしてる髭で口元があんまり見えない! もしかしなくてもドワーフなのでは!? いや、こういう人かもしれないからあんまりジロジロ見るのは失礼だな……
「し、失礼いたします領主様。この度は街道の件の打ち合わせにまいりました」
「いらっしゃい親方。いつもの話し方でいいぞ?」
「そうで、そ、そうか? いやぁ……街で話すときは普通に話せるんだが、どうもこの屋敷を見て門をくぐると貴族様なんだなぁって思っちまってな……」
「ふふ。親方はあんまりうちには来ないものね」
「あぁ……あ、カレアリナン様、お茶うまかったぜ。女房もよろこんでいた」
「それは良かったわ。今日も用意してあるから、帰るときにお土産にお渡しするわね」
「それはありがたい」
父さんに座るように促されて、対面のソファに親方が座る。
背は低いが肩幅や腕の太さがあるため、赤ちゃん視点だという事を抜きにしてもかなりでかく見えてしまう。
「それと今日はカーリーンも一緒だけど、邪魔はしない子だから許してほしいわ」
「めっそうもない! カレアリナン様が大丈夫と判断したんなら何も問題はないさ。その子が3番目の子か?」
「あぁ。そうだ」
「奥様ににて可愛らしいな。将来美人に育つぞ。……ってあれ、男の子って聞いたんだが?」
「ふふふ。えぇ、カーリーンは男の子よ」
「そりゃあすまん……」
「かまわないさ」
「……貴族の男児を前に"可愛い"などと不敬じゃないのか普通……」
「はっはっは。わが子を良く言われて怒ったりするものか」
「……そういうものか?」
「まぁ"私たちは"と付け加えておくわね。ありがとう親方」
――姉さんにも言われたことあるけど、あれは家族目線だと思ってたからそこまで気にしなかったが……初対面の家族以外の人に"美人になる"と言われるとは……まだ赤ちゃんだし"可愛い"はまだわかるんだが、そんなに母さんに似ているのだろうか。
「どーーーう」
「お? カーリーン様、俺は土木屋の親方をやってるドワーフ族のもんだ。よろしくな? つってもまだ分からないか」
――やっぱりドワーフなんだ!? リデーナやロレイナートのエルフ族に続いて、ドワーフ族にまでこうも早く会えるとは! しかも土木関係だし色々とイメージ通りです!
「あーーい!」
「おぉ? ちゃんと返事できるんだな」
「あぁ、最近よくしゃべるようになってな」
「がはは。いいことじゃねぇか」
「えぇ、早くお話できるようになって、魔法も練習するのよねー?」
「まーーう!」
「それじゃあ早速打ち合わせを進めるか」
「おうよ」
そういうと父さんと親方がメインで街道整備の件を話し始めたので、邪魔にならないように静かにしつつも魔力を減らすことは忘れずにコッソリと魔力放出を行っていた。
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