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219.冬

 秋もおわり、時折雪が降るような寒い時期になった。


 寒くなったとはいえ、母さんは家で仕事をするのがほとんどだし、父さんも視察などで森に行くのは相変わらずなので、とくに生活に大きな変化はない。


 母さんたちの会話を聞いていると、たまに積雪の影響で事故が起きていたり、足止めを食らった人たちで宿が溢れかえったりしているようではあるが。


 ――まぁ事故自体は季節関係なく起きてるだろうけど、この時期はそれに加えてこの寒さがあるから、最悪命を落とすこともあるみたいだしなぁ……。


 今は、朝食後にゆっくりとしている時間で、両親が話していることを聞きながらそう思う。


 この時期は日が昇るのが遅く、父さんが森へ行くとしてもその分遅い時間からになるということもあり、稽古も夏と比べると遅い時間から始まる。


 外はかなり寒く、体を動かすとある程度温まるとはいえ、俺は剣の稽古には参加しないのですぐに冷える。


 といっても、母さんが自分の周りを温かくしてくれているので、魔法の稽古をしているときは快適な温度の中でできるのだが。


「カーリーン、お兄ちゃんと庭にでるけど、暇なら一緒に出ましょ?」


 そう誘ってくる姉さんの手には木剣が握られているので、兄さんと自主稽古をするのだろう。


「えぇ……寒いよ……?」


 寒いよりは暑い方が苦手ではあるが、さすがにこの寒さの中、何の目的もなく外に出るほど寒いのが平気というわけではない。


「動いてたら暖かくなるわよ?」


 姉さんは不思議そうな表情で、首をかしげながらそう言う。


 ――まぁあれだけ激しく動いてたらそうだろうね……姉さんは寒いのも暑いのも平気みたいだけど、動いたあとの熱で寒さを緩和して、その熱に対する耐性で暑さも平気になってるんだろうか……。


「それに兄さんも寒いの苦手でしょ?」


 部屋は基本的に母さんやリデーナが魔法で快適な温度にしてくれているが、この時期は更に暖炉も焚いている。


 兄さんはこの部屋にいるときは、その暖炉に一番近いソファーで本を読み、稽古が始まる前には少し震えているのを知っているのでそう言うと、苦笑いが返ってくる。


「あはは、まぁね……でも、エルじゃないけど、動いていればある程度平気だから」


「まぁそうだろうけど……でも姉さんたちは剣の自主練でしょ? 俺が行ったところですることないじゃん」


「魔法を撃ってほしいのよ」


「えぇ……また【ウォーターボール】?」


「そう」


「せっかく着替えたのに?」


 稽古で姉さんたちに向けて撃つようになってから、姉さんはそれが楽しいらしく、よく自主訓練でも頼んでくるようになった。


 この時期の稽古では、寒いのでやめるか別の魔法で試す予定だったのだが、あの水の球を斬るというのが体感的にも視覚的にも楽しいらしい。


 今朝もやっていたのだが、毎回やるたびに濡れているので、さすがに夏場と比べると回数は減らされている。


 といっても、姉さんが俺の魔法を全く斬れずに濡れているわけではなく、複数回やっていくうちに散った水滴によって、だんだんと濡れていってるという感じなのだが。


「また着替えればいいわよ。どうせ汗もかくし」


「……それはそうかもだけど……」


 そう言いながら母さんをチラッと見ると目が合う。


「いいわよ、今日はとくに予定もないし、行ってきなさい。あまり濡れないようにね」


 自主訓練などで外に出ることもよくあり、基本的に屋敷の敷地内であれば許可など必要はない。


 今回は"寒いので止めてほしい"という思いで視線を送ったのだが、母さんは微笑んでそう言ってきた。


 ――この様子だと、母さんは出てこなさそうだし、寒いから一応魔法の使用許可も貰っておくか。


「……【ヒーター】は使っていい?」


「えぇ、もうあの手の魔法は安定しているようだし、いいわよ」


「分かった。それじゃあ行くよ」


 そう言いながら席を立つと、姉さんは嬉しそうに「うん!」と返事をして、速足で庭に向かう。


 ダイニングから直接外に出られるドアを開けると、冷たい空気が体を包み、無意識に少し震えてしまう。


「【ヒーター】」


 外に出ると同時に魔法を使い、自分の周りを温かくする。


「やっぱり外は寒いね……」


「あはは。でもその魔法があるから、結構快適だよ?」


「でも強い風とかがくると流されちゃってすごく寒い……」


「まぁそれは仕方ないね……」


 ――バリアや結界みたいなもので遮断してるわけじゃないしなぁ……それができれば風に流されるようなこともないだろうけど……消費魔力も増えるし、これでも十分だから母さんもやらないのかな?


 魔法の稽古中に、何度か冷たい風を受けたことを思い出しながらそんなことを考える。


「それじゃあ、少し準備運動をしてくるから、カーリーンは待ってて!」


 姉さんは元気よくそう言って駆け出し、そのあとを兄さんがついて行く。


「それが終わってから呼んでくれてもよかったのに……」


 そう呟いてテラスにある椅子に座り、兄姉の様子を眺める。


 走り込みは朝やっているので、軽く体をほぐしたあと、ある程度温まるまで打ち合い稽古をするようだ。


 といっても体を動かすのが目的のようで、本気の打ち合いではないらしい。


 本気の打ち合いであれば、兄さんは姉さんの強力な攻撃をまともに受けずに流したりしているのだが、今はしっかりと受け止め、姉さんが防御しやすいような反撃をしている。


 姉さんが本気を出せば、兄さんの防御もろとも体勢を崩すことはできそうだが、今はそれなりに受け止めやすいように加減をしているようだ。


「……そういえば【ウォーターボール】って、温かい水を出せるのかな……」


 カンッカンッと木剣のぶつかり合う音を聞きながら、たまに吹く風で寒さを感じ、ふとそう思う。


「夏場とかは無意識だったけど、冷たい水だったし……【ウォーターボール】」


 眺めているだけで暇だった俺は、早速魔法を使って試してみる。


 目の前に出した水の球に触れると冷たく、この時期に長時間触れたくないほどだった。


 ――うぅ~ん……冷たいな。そういえばお風呂場の魔道具って、水属性と火属性の両方を使ってるんだっけ……それこそ【ヒーター】とかと組み合わせる感じで使えばいいのか?


 再度魔法を使い、同じように触れてみる。


「お。さっきよりは温かい。でもまぁぬるま湯くらいだから、お風呂とかには使えなさそうかなぁ。かじかんだ手を温めるにはいいかもしれないけど」


 そんなことを試していると兄姉が戻ってきた。


「カーリーンも準備出来てるみたいね! 私からやるから、おねがいね!」


「うん、でもちょっと待ってね。兄さんそこそこ体は温まった?」


「え? うん」


「ちょっとこの【ウォーターボール】に手を入れてみて」


「え……いいけど……」


 せっかく温まったのに、冷たいものに触れるのは気が引けると思うのだが、兄さんはすぐに承諾して手を近づける。


 ――【ヒーター】の効果範囲内にいたとはいえ、体を動かしてない俺だとコレが温かいか分かりにくいからなぁ。


「あれ? 温かいね」


「運動してきた兄さんでそう思うなら、十分かな」


「うぅ~ん、もっと熱くてもいいんじゃない?」


 兄さんの反応を見て、水の球に手を入れた姉さんがそう言う。


「いや、別にお風呂ってわけじゃないんだから……こういう寒い日にかじかんだ手を温められるかなぁって」


「うん。それくらいなら十分そうだね」


「えぇ~もっと熱いのならすぐに温まるし、稽古のときに、冷たさを気にしなくていいからもっと斬れるのに」


「いやいや、温かいのは今だけで、散って濡れたら結局すぐに冷たくなるから一緒でしょ……」


「それもそうね……それじゃあ始めましょう!」


 そう言いながら姉さんは離れていき、木剣を構える。


「兄さんもあとでやる?」


「うぅ~ん。僕はいいかな……」


「寒いもんね」


「カーリーン、いいわよ!」


「うん、撃つよ~」


 そう言って姉さんに向けて【ウォーターボール】を撃ち、朝の稽古のときと同じくらい撃ったころには、予想通り姉さんは結構な飛沫を浴びて濡れることになった。

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