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218.帰宅

 用意してもらった水を飲みながら、少し周りを見る。


 玄関から入ってすぐにこの大部屋があり、ここで食事や接客をしているようで、奥には炊事場も見える。


 近くの棚には今日収穫したのか貰ったものかは分からないが、野菜が入ったカゴや鎌も置いてあり、ここで先ほどのように作業などもしているのだろう。


 ――奥というか、裏に物置きを作ったって言ってたし、そこに持って行ったのかな? 2階には寝室とかがあるんだろうし、この部屋から動かない方がいいな。


 そう思っていると2階から足音が聞こえ、ステラが降りてきた。


「水を入れ終わ――あれ? お母さんは?」


「布とかを片付けにいったよ」


「そう。まぁカーリーンも貴族だし、気疲れするのかしら」


「まぁそのあたりは仕方ないよね……」


「昔色々あったみたいだけど、そこまで気にしなくてもいいのに」


「それをステラが言うんだ……? まぁトラウマみたいなものは、そう簡単に消えるものじゃないしね」


「……それもそうね?」


 ステラはあまり納得していないようだが、記憶を保持したまま何回も転生しているので、そう思うのかもしれない。


「……ステラが教会に近寄らないのもそういう感情からでしょ?」


「……それもそうね……まぁいいわ! さっさと始めましょ」


 ステラはそう言いながらカゴから山菜を取り出していくので、俺も同じようにカゴを机の上に置く。


「そのまま机に出していいの?」


「別にいいわよ? あとで掃除するし、そうできるようにお母さんも片づけたんだろうし」


 ステラは机の上に土が落ちようが、それを気にすることなく次々と取り出していく。


「まぁステラがそう言うなら……」


 そう言ってカゴから取り出していくと、部屋は森の香りにつつまれ、机の上には立派な山菜が種類ごとに並べられた。


 ちょうどそのタイミングで、ステラのお母さんが桶を持って戻ってきた。


「……カゴから出した状態で見ると本当に立派ね……しかもほぼ全部がそうだなんて……」


「いいものばかりを採ったから、また採りに行っても同じようには採れないと思うけど」


「そうでしょうね。さすがに毎回こんな上物をこの量採れるわけないわよ。カーリーン様、どれをお持ちになられますか?」


「うぅ~ん……あまり山菜には詳しくないから、任せてもいい?」


 ――まぁほとんどが豊穣神が用意したものだし、その中からステラが選んだものだから、どれを選んでも間違いないと思うけど、ここまで立派なものばかりだと本当に分からないしな……。


「それならコレとコレと……この苦いのはどうする?」


「苦いのは少な目で。あと小ぶりなのも少しは欲しいかな」


「苦いのはまぁ好き嫌いがあるでしょうけど、小ぶりなのが欲しいのはなんで?」


「他のが立派過ぎて俺にはまだ大きいし、小ぶりなのだったら丸々焼いたものとか食べられるかなって」


「そう。それじゃあコレはそっちで」


 そんな話をしながら仕分けをしている光景を、ステラの母親は少しハラハラした様子で眺めている。


 ――自分の娘が貴族相手にやらかさないか不安なんだろうけど……まぁこの調子で話してたら慣れてくれるかな?


「あ、ステラ、ソレはそっちが多めでいいよ。ルナさんも好きなんでしょソレ」


「まぁ食べやすいからね。それじゃあ代わりにコレを多めにあげる。調理に手間がかかるけど大丈夫でしょ?」


「まぁドラードなら多分大丈夫」


「それじゃあ、こんなところかしらね。サッと洗っちゃいましょ」


「洗うのは私がやるので、カーリーン様はおくつろぎください」


「あ、いやぁ、さすがに見てるだけってのも暇だから、水は出すよ」


「そうね。私はさっき貯水樽に水を入れてきたばかりだから、お願いするわ」


「そ、それじゃあお願いします」


 ステラの母親は、若干申し訳なさそうにしているが断りはしてこなかったので、椅子に膝立ちをして身を乗り出し、桶の近くで両手をかざす。


「【ウォーター】」


 そう唱えて両方の手から水を出す。


「あまり無理はしないでくださいね」


「大丈夫だよ、俺は魔力量が多いみたいだから」


 普通に出すと桶がすぐ一杯になってしまうし、山菜自体そこまで汚れているわけではないからチョロチョロと出しているので、これくらいであれば何時間でも平気だろう。


「そうよ。カーリーンの母親も水属性の適性があるし、魔力量も受け継いでるそうだし」


「母さんが水属性の適性持ってるの知ってるんだ……?」


「そりゃそうでしょ。英雄夫妻なのよ? それくらいの噂は流れてるわ」


「そうなると、父さんは魔法がほとんど使えないのも知ってるんじゃ……?」


「まぁね。でも魔力量自体はあるんじゃないのかしらね?」


 ――そういえばイヴもそんなこと言ってたな……魔力量はあるけど魔力が使えないタイプだって……。


「ほら、ステラ、手が止まってるわよ」


「は~い。あ、もう少し水多めにちょうだい」


「うん。分かった」


 そんな話をしながら山菜を洗い、軽く水気を飛ばしたあとそれぞれのカゴに入れていく。


「よし、これで終わりっと。水ありがとね」


「それはいいんだけど、こんなに貰っていいの?」


 机の上に置いてある俺のカゴを見ると、森から帰ったときより増えている。


「もちろんよ。うちは4人だし、そっちの方が多いでしょ」


「カーリーン様、こちらもお持ちください。今朝採れたものです」


 桶を炊事場に持って行ったステラの母親が、野菜をいくつか持って戻ってきてカゴに入れる。


「いいの?」


「えぇ、水を出して手伝ってくださりましたし、今日はこの山菜もあるので是非」


「そういうことなら。ありがとう!」


「それじゃあ、送ってくるわ。いってきます」


 ステラはそう言って、野菜が増えたことで重くなった俺のカゴを持ってくれる。


「えぇ、気を付けてね」


「お邪魔しました」


「いえいえ、今回はなんのおもてなしもできず……またいらしてくださいね」


 ステラの母親は、俺が貴族と分かったときの態度とは打って変わって、自然な微笑みで見送ってくれた。


「お母さんも結構慣れてくれたね」


「まぁあなたが貴族らしくないから」


「いや、他の貴族なんて知らないし……」


「まぁそのうち分かるわよ」


「あんまり知りたくないなぁ……」


 そんな話をしながらドラードと待ち合わせをしている教会に近づくと、すでにドラードは待っており、こちらに気がついて歩いてくる。


「遅かったな?」


「早めに帰ったから、ステラの家でサッと洗わせてもらってたんだよ」


「なるほどなぁ。どれどれ~?」


 そう言ってドラードはステラからカゴを受け取り、中を覗く。


「は? カー坊?」


「え、な、なに?」


「野菜もいいものなんだが、それよりもなんだこの山菜……買ったとかじゃないんだよな? いや、買うにしてもなかなか売りに出ないだろこんなの……」


 ドラードは話は振ってくるが、視線はカゴの中にくぎ付けのようで、そのまま手に取って眺める。


「うお。しかもこんなのばかりなのかよ。おまえら……どんな秘境に行ってきたんだ……?」


「いつもより奥には行ったけど、村の近くよ? 私がカーリーンを連れて、そんな奥まで行くと思うのかしら?」


「い、いや、そうだよなぁ? しっかし、これほどのものが近くの森で採れるのか……」


「た、たまたま見つけたってだけで、採りきったから、探しに行ってももう見つからないと思う」


「まぁそうだろうなぁ。よっし! 帰ったらすぐに下処理して、夕飯には出してやるからな。嬢ちゃんもありがとうな」


「いいわよ。うちも同じくらい貰ってるし、カーリーンの運に感謝ね」


 ステラはどこか含みのある笑みを浮かべてそう言う。


「このレベルのがもう1カゴあんのかよ……」


 ドラードが呆れたように笑いながら、出していた山菜をカゴに戻す。


「それじゃあ、カゴも渡したし、私は帰るわ」


「うん、今日はありがとう」


「こちらこそ」


 ステラはそう言って離れていった。


「さて、オレらも帰るか。ベルフもコレを見たら驚くだろうよ」


 その日の夕飯は、ステラの家から貰った野菜と山菜づくしというメニューで、どれも食べ応えがあり、すごく美味しかった。


 ステラの父親が好きという苦い山菜は、父さんは美味しそうに食べていたが、兄姉はもちろん、母さんも苦手なようだ。


 俺も前世で苦いものはわりと平気だったので食べさせてもらったのだが、体が子供だからか少ししか食べられなかった。


 それでも食べた俺を見て、兄姉が驚いていたのが少し面白かったが。

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