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217.町へ

 色んな種類の山菜を順番に採っていき、ある程度カゴの中が満たされると、ステラが伸びをしながら声をあげた。


「これくらいで十分かしらね」


「そうだね」


「それだけでいいの?」


「余らせて食べてもらえないってなるのは、あなたも嫌でしょ?」


「それもそうね」


 グラルートは納得したように軽く頷き、残っている山菜たちを見る。


「それじゃあ、私はこの子たちが眠るのを見届けてから帰るわ」


「そう、分かったわ……そういえば、グラルートは今回みたいに結構地上に来たりするの?」


 ステラの言葉を聞いて、グラルートはからかうようにニマーッと笑う。


「あら? なに? 寂しいの?」


「そんなわけないでしょ! 村とかであなたと会ったらどう反応しようか考えてたのよ!」


「ふふふ。そうねぇ~。町の知り合いか、冒険者とでも言っておけばいいわよ」


「その姿で冒険者は無理があるでしょ……」


「それなら次はそれっぽい服装にするわ」


「また来ることは確定してるのね……」


 ステラは呆れたようにそういうが、表情はどこか嬉しそうである。


「それじゃあ、転生者くんもまたお話ししましょうね」


「うん」


「森とかで呼んでくれれば、多分私に届くから」


「いや、そんな気軽には……」


「教会でイヴラーシェを呼んで話してるあなたが何を言ってるんだか」


 ステラが呆れたようなジト目で、そう言いながら見てくる。


「ふふふ。それなら、なおさらたまには私ともおしゃべりしてほしいわねぇ?」


「わ、分かったよ……」


「楽しみにしているわ。アマリンゴも1つくらい私にもおすそ分けしてね? それじゃあ、またね」


 グラルートがそう言うと、神界に移動するときのように視界が白く染まり、再び見えるようになったころには最初に山菜を採ったあたりに立っていた。


 ――アマリンゴのおすそ分けといわれても……また森で見つけたらおすそ分け、いや、お供え? でもしておこう。


 軽く首をかしげながらそんなことを思い、カゴを持って帰る準備をすませる。


「それにしても、まさか豊穣神様と出会うとは……」


「グラルートに"様"なんて敬称いらないわよ」


「いや、まぁ本人もそんなこと言ってたけどさ……会ったばかりの神様だし……」


「まぁいいわ、帰りましょ。あ、それと、帰りにちょっとうちに来なさい」


「え、なんで?」


「最初に採った山菜はうちに置いて、グラルートのところで採ったいいものを持って帰りなさい。どうせあなたと山菜採りに行ったって話はするから、そのときに領主様のところにはいいものを渡したのかって聞かれるでしょうし」


「別に気にしないんだけどなぁ……」


「まぁ実際あの領主様たちならそうでしょうけど、うちが気にするのよ。それにグラルートのおかげでかなり時間は余ってるし」


「うぅ~ん。わかったよ、それじゃあ少しだけお邪魔させてもらうね」


「えぇ、それじゃあ帰りましょう」


 そう言って前を歩くステラの案内で町へと戻る。


 前に聞いていた通り、ステラの家は村から町へつながる橋を渡ったすぐそばにあり、村の教会からも近く、ドラードの買い物が先に終わったとしても、あまり待たせることはないだろう。


「家に誰かいるの?」


「今は多分いないわね」


 玄関先にある棚に道具をしまい終わったステラは、手に着いた土を払いのけながらそう答える。


「仮にいたとしても、別に気にする必要はないわ。山菜を分けるだけだし」


 そう言ってドアを開けると、中から「おかえりなさい」と声が聞こえた。


「いないんじゃなかったの……?」


「"多分"って言ったでしょ。ただいま、お母さん」


 そう言って中に入るステラの横からチラッと見えた女性は、ステラやルナほどではないが、黒っぽい茶色の髪をまとめ、今は机に布を広げて何かを縫っているようだ。


「どう? たくさん採れた?」


「う、うん。ほら」


 ステラは母親に聞かれてカゴの中を見せるが、事情が事情なのでどんな反応をされるか少し緊張しているようだ。


「え!? こんなに採れたの!? しかも凄くいいものじゃない!?」


「たまたま群生地を見つけてね。それに2人で採ったから、早かったの」


 その言葉を聞いて、ステラのうしろにいたから見えていなかった俺に気がついたようで、声をかけてきた。


「あら、あなたが誰かを連れてくるなんて珍しいわね。こんにちは」


「こんにちは、ちょっとお邪魔します」


 そう言ってペコリと頭を下げると、優しげに微笑んでくれる。


「2人で採ったから、ある程度数を合わせようかと思って連れてきたの」


「そうなのね。ゆっくりしていってね。あ、そうだステラ。山菜を分けるときに洗うでしょ? そのついでに水を追加しておいてくれない? そろそろなくなりそうなのよ」


「分かったわ。先にそっちをやるから、カーリーンはちょっと休んでて」


 ステラはそう言ってカゴを机の上に置き、階段をかけ上っていく。


「え、カーリーン……? ルナからもたまに聞く名前だけど……領主様の……いやいや、まさかステラが連れてくるなんてこと……」


 俺の名前を聞いて、ステラの母親はそう呟きながらチラッと俺を見る。


「あ、はい……ここの領主の息子のカーリーンです……」


「え!? ほんとに!?」


 ステラの母親は、先ほどの山菜を見たときもすごく驚いていたが、それを超えるような反応をする。


「し、知らなかったとはいえ、軽々しく口をきいて申し訳ありません!」


「え!? い、いえ! さっきまでの感じで大丈夫ですよ!?」


 焦ったように早口で謝罪をしてくるので、驚いて声が大きくなってしまう。


「そ、そうですか?」


「う、うん。父さんや母さんですら町の人たちと気軽に話してるし、気にしなくてもいいですよ」


「……領主様とは話すどころか、まともにお会いしたことも少ないので……昔暮らしてた町にいたころは、その町を治める領主様と結構お会いすることもあり、言葉使いや態度を大変気にされる方でして……そのころの感覚がどうも抜けず……」


「あ~……そういう貴族もいるんですね……」


「はい……あ! け、決してこの町の領主様を同じように見ているというわけではありませんので! この町は本当に暮らしやすく、近くに魔の森があるにもかかわらず本当に安全で――」


「ちょ、ちょっと、大丈夫ですよ。あと、うちの両親はともかく、俺に対しては普通の子供に接する感じで平気なので」


「わかり――わ、分かったわ……」


 ステラの母親は、どうにか少し落ち着いたようで、椅子に座って水をひと口飲む。


 ――昔住んでた町の領主は、結構権力とかを振りかざすタイプだったのかな……。


「急に来て驚かせたようで、すみません」


「い、いえ、こちらこそ、取り乱してしまって……ルナから話は聞いていたのだけれど、まさか初めてお会いするのが我が家でなんて思ってもいなくて……あ、どうぞ、お座りください」


 そう言って机の上を片付けながら向かいの席を手で示してくれるので、カゴを置いてそこに座る。


「ステラが山菜を分けて、いいものを持って帰れって言うので、その選別をしにお邪魔させてもらいました」


「そうなのですね。あ、私にはもっと砕けた口調で話してもらえると……」


「え、う、うん。分かったよ」


 ――子供だとはいえ、貴族に敬語を使われるのが気になるのかな……まぁ前世を含めると、どう見ても年下だろうし、俺としてはそっちの方が話しやすいんだけども……。


「それにしても、ルナから聞いていた通り、本当にしっかりしてますね」


「あはは、ありがとう」


 俺の分の水も用意してくれて、そのコップを置きながら言ってきた言葉に、内心苦笑いしながらそう答える。


「ちょっと道具を片付けてきますので、狭い家ですが、どうぞおくつろぎください」


 ステラの母親はそう言って軽く頭を下げ、広げていた布などを持って奥へ向かった。

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