216.山菜採り
ステラとグラルートに聞きながら山菜を採っていると、少し移動することになった。
どうやらこの近くにいろんな種類が群生している場所があるらしい。
――さすが豊穣神……いや、森や山菜まで管轄なのかは知らないけど……それでも場所も知ってるし、食べられる植物に関してはすぐに答えてくれるから助かるなぁ。
そう思いながら一緒に歩いているグラルートをチラッとみる。
農村に住んでいる奥さんという感じの地味な服を着ているが、キレイな金髪に緑色の瞳をしており、そのとても整った顔やふくよかな胸部に目がいき、着ている服なんてそうそう気にならないだろう。
「それにしても、本当にかわいらしくなっちゃって~。一部は相変わらずみたいだけど」
「うるさいわね。あなたも相変わらず無駄に目立つ胸をぶら下げて。地上に降りるときに調整できるんだから、少しくらい変えればもう少し目立たなくなって馴染めるでしょうに」
「羽とかは隠してるんだから大丈夫でしょ」
「そういう種族もいるから、あったところでそこまで気にされないでしょ……まぁこの地域には少ないから、その方がいいでしょうけど」
なんとも参加しにくい会話を聞きながら歩いていると、話はステラのことに変わり、地上で生活している理由を簡単に説明している。
「――あ~。そういえばそんなこともあったわね。それで今地上で暮らしてるのね」
ステラの事情を聞いたグラルートは、なんとも言えない表情でそう言っている。
「最初はさすがに堪えたけど、今は幸せに暮らせてるから逆にありがたいわ。あのまま天界にいても、暇してるだけだったし」
「まぁ、ステラの場合はそうでしょうねぇ……転生者くんが来てくれたから、大仕事もなくなっちゃったしね」
――大仕事か……この世界を破壊することになるかもしれなかっただよなぁ……そんなステラが今のんびりと山菜採りを……というか、普段のステラしか知らないから、破壊神としての役割の方がピンとこないけどさ。
「えぇ、そうね。あんな仕事やりたくてやるもんじゃないし」
「あら。あなたからそんな言葉を聞くなんてねぇ」
「うるさいわね。そりゃあ、"こんな世界滅んでしまえばいい"って思うくらい酷い目にあったこともあるけど……すくなくとも今はそう思わないわ。いい人たちも多いって分かってるもの」
「ふふふ。そうねぇ」
グラルートは優し気に言いながらステラの頭をなでる。
「っだぁ! やめなさい! それで!! まだ着かないの!?」
ステラは照れ隠しをしているかのようにその手を払いのけながら、声を荒げる。
「もう少し歩いたところよ」
「ふん。先に行くわ」
そう言ってステラは前を歩き出す。
「ふふふ。本当にかわいらしくなっちゃって。破壊神だったころなら、なでた私の腕ごと周りを消し飛ばしてたでしょうねぇ」
「そこまで……?」
「えぇ。まぁ神界であればそれくらいすぐに直せるし、今のステラにはそこまでの力はないでしょう」
「この森くらいなら消し飛ばせるって言ってたけど……」
「全力を出せば可能でしょうね」
――まぁ照れ隠し程度の動きで吹き飛ばすのとはわけが違うか……。
「というか、昔からステラの頭をなでたりしてたの?」
「そうねぇ。創造神が創ったものを破壊するということで、立場的には創造神の次くらいって感じなんだけど、生まれたのは私や生命神たちとだいたい同じだから、姉妹みたいなものなのよ」
「なるほど」
「立場上私たちが忙しかったときも、ステラはやることもなくて孤独だったのかもしれないわね……やらかした罰で地上にいるわけだけど、今のステラを見てるとこれでよかったんだと思うわ。大切な家族もいるみたいだし、転生者くんみたいな友達もいるようだしね」
「友達……まぁ友達だよな。会ったらよく話すし」
「ふふふ。それでいいのよ」
「ちょっとグラルート!! なによこれ!?」
先を歩いていたステラが、驚いたような叱るような声でそう叫ぶ。
「ふふふ。見つけたようね。行きましょうか」
グラルートがそう言って手を差し出してくるので、無意識にその手を掴み、ステラの声がした方へ歩いて行く。
草木の間を抜けると若干開けた場所に出て、ステラがその広場を見ながら立ち尽くしていた。
広場が見渡せる場所に出てステラの見ている方を見ると、見ただけでも瑞々しく元気に育っていると分かる山菜が、その種類ごとにキレイにまとまって生えており、どうみても自然にできた場所ではないと感じさせる。
「グラルート! 力を使ったわね!?」
「さぁ? 何のことかしら?」
グラルートはクスクスと笑いながらそう言っているが、俺でもその言葉が嘘だと分かる。
「あの山菜同士が隣り合わせで自生するわけないでしょ! お互いが枯らし合うはずよ! それに! アレはまだ寒い冬の終わりのころの山菜でしょ!!」
「あら~。ちゃんと知ってるのねぇ」
「あたりまえでしょ! どれだけヒトとして過ごしたと思っているのよ!」
「まぁ、いいじゃない。私と会えた記念だと思って」
「時期違いの山菜なんて持って帰れるわけないでしょ!? 変に思われちゃうわ!」
「たしかに……アマリンゴとかみたいに定着してるものならともかく、山菜の話は聞いたことがないね……」
「あ~。そっかぁ……それは残念ね。それなら今が旬のものだけでも持って帰って頂戴」
「……はぁ……まぁせっかくだからそうさせてもらうわ……」
ステラは言いたいことは言い切ったのか、諦めたように息を吐いて山菜に近づく。
「……まぁギリギリ上物って説明がつくくらいだから、平気かしらね……」
ステラが採っている山菜は、見ただけでも太く大きくイキイキとしているのが分かる。
しかもカゴの中には、先ほど採った同じようなものがあるので、それと比べると一目瞭然だった。
「これ、本当に同じ種類? 似てるけど別名がついてたりしない?」
「残念ながら同じものよ。グラルートならコレに関しては何でもありだから、そのあたりは加減してくれたんじゃないかしらね」
「……量は加減してないみたいだけどね……」
まわりには十数人がかりで収穫するような規模の山菜が群生しており、その量にはさすがの俺も呆れてしまう。
「まぁ全部取る必要はないわよ。カゴいっぱいっていうのもおかしいから、それなりに採ったら帰りましょ」
「みんな"私を食べて~"って言ってるのに?」
「そんなもの私には聞こえないわよ!! だいたいこんな量採りきれないし、仮にこんな良質なものをこの量持って帰ったとしたら、次の日には山菜採りの依頼を受けた人とかで溢れちゃうわよ?」
「うぅ~ん。それで荒れちゃうのは困るわ……しかたないわね、採られなかった子たちは、また誰かが見つけてくれるまで眠ってもらうことにするわ」
「えぇ、それがいいわね。でも今回みたいにまとめて生やすのはやめておいた方がいいわ。またアマリンゴみたいに、謎の"神様のお気に入りの菜園"みたいに伝承が増えるわよ……」
ツッコミに疲れたのか、ステラは一息ついてから山菜採りに戻る。
「あ、そういえばアマリンゴで思い出した。その種を植えようと思ってるんだけどさ、いつ頃植えればいいか教えてもらえない?」
「アマリンゴねぇ~。もともと、少し柔らかいものが食べたいって思って生み出したんだけど……栽培できるようにはしてないわよ?」
「うん。それは聞いてるから大丈夫。だけど、普通のリンゴとかでも植える時期なんて知らないからさ」
「アマリンゴの種であれば、いつでも問題はないわ」
「さすが神様の~ってつくだけあるね……それなら普通のリンゴの種と同じ時期でいいか」
「えぇ、それで大丈夫よ」
グラルートはそう言いながら優しく微笑む。
そんな俺とグラルートの会話を聞いていたステラは、呆れたような表情をしていたが、その意味は俺には分からなかった。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!
※お知らせ※
ツギクルブックス様より、「異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!」の第1巻が発売中です!
どうぞよろしくお願いいたします!





