215.遭遇
話の区切りがついたところで、ステラが立ち止まる。
「このあたりはあまり採られてないわね」
「結構奥まで来たね……」
「私もあまりここまでは来ないわ」
「危なくはないんだよね?」
「まだ村の近くの森だし平気よ。それに守ってあげるって言ったじゃない」
――そういえば、イヴと会った日にそんなことも言ってたなぁ。
「魔法は使えるって知ってるけど……ちゃんと戦闘もできるの?」
「当たり前じゃない。どれだけヒトとして地上にいると思ってるのよ。今の体でもこの森くらいなら消し飛ばすこともできるわよ? まぁ、そんな大魔法を使いつつ、その魔法からあなたを守る魔法を使ったりすると、間違いなく魔力が切れて死ぬでしょうけど」
「いや、それはダメでしょ……ルナが悲しむよ……」
「もちろんそんなつもりは全然ないわよ! そういう魔法も使えるんだから安心しなさいってことよ」
――まぁ兄姉だけでもっと奥まで行っても平気なんだし、そこと比べるとこの辺りはもっと安全だろうしな。
「話は変わるけど、あなた結構体力はあるのね?」
「まぁ少しは稽古に参加してるからね」
兄姉と一緒に運動をして、体力がしっかりとついてきているのを実感しがならそう答える。
「なるほどね。そういえば、あなたの兄や姉はたまに剣を持ってるのを見かけるけど、あなたも剣を習うつもりなの?」
「うぅ~ん……俺は魔法が好きだからなぁ……でも少しはやると思うよ。魔力が切れたときとか、いざというときに習っておいた方がいいだろうし」
「まぁそうね。あの父親から習えるなら、習っておいた方がいいわよ」
「兄さんたちを見かけるときがあるって言ってたけど、話したりするの?」
「いいえ? 近くを通ったら挨拶する程度よ」
――そういえば姉さんと一緒のときは、ステラとは会ったことがないか。
「ルナさんとは結構話すみたいだけど?」
「まぁあの子は私より町にいる時間が長いからね。進んで手伝いもしてくれるし、本当にいい子よ」
「しっかりしてるしね」
「えぇ。まぁあなたも――といってもあなたは転生者だから当たり前なんだけど、あなたの兄弟もかなりしっかりしてるわよ」
「それは俺も思ってた……しかも強いし……いまだにこの世界の人たちの力には驚かされるときがあるよ……」
「無意識の気力での強化ね。まぁとくにあなたの姉は異常なほど才能があるみたいだから、あの子を基準にしたらダメよ。でも、あなたの前の世界がどんな感じなのか知らないけど、力が強い子もいれば弱い子もいたでしょ?」
「それはそうだけど、だいたい体つき相応って感じだよ」
「ふぅ~ん。そうなのね」
ステラは俺の元いた世界の話には興味があまりないのか、そう言いながら足元にあった山菜を採り始めたので、近くで同じようにしゃがむ。
「さっきも言ったけど、山菜には詳しくないから、どれが食べられるやつか教えて」
「食べられるって意味なら、この辺りのほとんどがそうだけど?」
「煮たり焼いたりすればそうかもしれないけど……」
「あ、その薄い紫のやつは煮て食べたらお腹を壊すわよ。生なら平気だけどかなり苦いわ。その横のギザギザした葉のやつは、茎は平気だけど葉の方はダメね。あなたの足元にあるやつは、害虫駆除に有用だけど人体には悪影響ね」
「結構ダメなものあるじゃん!?」
「それなりに処理すれば平気だし、薬の材料になる物でもあるのよ。それに近くに見えるやつで、今言ったやつ以外は普通に食べられるわよ。まぁ他のも少し食べたくらいじゃ死なないわ」
「いや、もっとこう家庭的というか、普通のやつを……」
「ここらのは一通り私は食べたことあるけど」
「いや、そうじゃなくて、美味しく食べられるからって理由で、昔から採られてきたものでお願いします」
「アレとか程よい苦みがあって、いいと思うけど。うちのお父さんは好きだし」
「そういうのが好きな人もいるだろうけど……あ~、ステラがルナさんに食べさせたいと思うやつで」
「あ、それならこれとかオススメね。焼いても程よい食感が残り、食べ応えもあるわ」
そう言って採って差し出したステラの手には、20センチくらいのアスパラガスのようなものが乗っている。
「そうだよ、こういうのでいいんだよ……」
――なんというか、本当に今の家族を大事にしてるんだなぁ。最初の食べられるっていう条件は、神様から人になったころからの経験だろうから、"死なないなら大丈夫"みたいな感覚のものなんだろうな……。
そう思いながらステラの近くで、教えてもらった山菜を採っていく。
畑の野菜と違ってそこまでまとまった数があるわけでもなく、せっかくなので色んなものを採って帰ろうと思ってステラに聞いてみる。
「うぅ~ん……そうねぇ……苦いのとか辛いのが平気か分からないし……」
「癖がスゴイものじゃなければ大丈夫だと思うよ。というか、最終的にドラードに任せるからそこでうまくやってくれるし。さすがに薬になるようなものや、有害なものを持って帰るとからかわれそうだから、常識的な範囲のもので……」
俺の言葉を聞いて、ステラは周りを見ながら選んでくれていると、近くの茂みでガサッという音がした。
明らかに風などで鳴った音ではなかったので、驚きながらバッとその方向を見ると、そこには金髪の女性が立っていた。
その女性は編みカゴを持っており、俺たちと同じように山菜でも採りに来たのだろう。
「こんにちは。あなたたちも山菜を採りに?」
「は、はい」
「でも子供だけで、このあたりまで採りに来るのは危ないわよ?」
茂みから出てきながらそう注意してくるが、優し気に微笑んでいるからか本気で注意をしている感じはしない。
――まぁこの人も見た感じそこまで戦えるとは思えないし……この場所はまだ安全な方なんだろうな。というかこの辺りに山菜採りに来るってことは、ステラが知ってる人かな?
「あ~、ステラ――この人が対処できるみたいなんで大丈夫です。ね、ステラ?」
そう言いながらステラを見ると、なにやら怪訝な表情でその女性を見ている。
「うん? あなた、ステラっていうのね?」
金髪の女性は何かを思い出すかのように、口元に手を当ててそう言いながら近づいてくる。
――ステラも何も言わないし、村に住んでる普通の女性って雰囲気で、危険な人じゃないとは思うんだけど……。
そう思っていると、ステラは驚いた表情をして声を上げた。
「グラルート!?」
「えっ!? なんで私の名前……あ!? ステラってあのステラ!?」
「なんであなたがここに……って、まぁあなたなら別におかしくないわね……」
「そうよ、むしろそれはこっちのセリフよ!? 最近いないと思ったら、地上にいるなんて!」
「イヴラーシェから何も聞いてないのね……」
――グラルートっていうと……豊穣神!? イヴの名前も出てるから間違いないと思うけど、なんで!?
「え、えぇっと……?」
「あぁ、ごめんなさいね。あなたのことはイヴラーシェから聞いているわ、転生者くん。あらためまして、私は豊穣神グラルートよ。よろしくね」
グラルートは優し気な笑顔でそう挨拶をしてくる。
「あ、は、はい。よろしくおねがいします。えっと……本日はどのようなご用件で?」
「ふふふ、そんなに硬くならなくていいわよ? イヴラーシェと話すときみたいな感じで平気よ」
「そ、そう? イヴと話すときってかなり砕けた感じで話してるけど……」
「"イヴ"ね。創造神であるイヴラーシェとそうやって話せるなら、これから会う他の神にも同じような話し方で大丈夫よ」
「……そんなに神様と会う機会なんてないと思うけど……」
「まぁもしもの話よ。話し方に困ってたみたいだからね」
「う、うん、分かったよ」
「それで、グラルート。あなたは何をしにきたのよ」
「たまたま地上に来たら、イヴラーシェが言ってた子の気配がしたから、挨拶をしようかなぁって」
「そんな軽いノリで神様と遭遇することになんてある?」
「ふふふ。これからもあると思うわよ? まぁそれで近づいたら他の子もいたから、いつものように町の住人を装って話だけでもしようと思ってたのよ。まさかステラだなんて思いもしなかったけど」
「いつものようにって……イヴラーシェもそうだったけど、こんなに近づくまで神気を感じとれないなんて……感覚が鈍ってるのかしらね……」
ステラはそう言いながら肩を落とす。
「どんな影響があるか分からないから、地上にいるときは極力おさえてるからね。って、イヴラーシェには会ったの?」
「えぇ。だからさっき"私の話を聞いてないか"って言ったのよ」
「うぅ~ん。転生者くんのことは聞いてたけど、最近イヴラーシェとは話してなかったから……」
「そう。まぁいいわ。ちょうどあなたもカゴを持ってるし、山菜採りを手伝いなさいよ」
「ふふふふ。えぇ、まぁいいわよ。色々話したいこともあるしね」
グラルートは笑いながらそう言って、ステラの横でしゃがみこむ。
――神様、しかも豊穣神に山菜採りを手伝ってもらうって……まぁ本人がいいならいいんだけど……。
そう思いながら、山菜採りを再開した。
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