214.森へ
ステラとはよく話すことがあるうえに、お互いの事情も知っているので、敬称無しで呼び合うくらい気楽に接することが出来ている。
といっても、ステラは最初から俺のことを"カーリーン"と呼んでルナに注意されていたが、俺が許可したことで今ではそれもなくなっている。
――ちゃんと場合によっては敬称付きで呼んでるみたいだしなぁ。大人たちばかりの場所で父さんたちのことを呼ぶときは"領主様"とか"様"をつけて言ってるみたいだし。それに元とはいえ、ステラが神様だって知ってるから、俺の方が"様"とかつけて呼んだ方がいいんだろうけど、不自然だからって断られたしな。まぁ創造神をイヴって呼んでるからアレだけど……。
そんなステラと、湖の近くでキャンプをしたことを話しながら、森へと歩いて行く。
「そんなことしてたのね。まぁ一緒に行った人たちのことを考えると、危なくなるようなことなんてないメンバーだけど」
「まぁ兄さんや姉さんだけで入るのを許可されてるような場所だったしね」
「町の子供だけだと危ない場所なんだけど……まぁあなたの兄や姉なら平気でしょうね。それにしてもお風呂まで作るなんて、贅沢というかなんというか」
ステラは呆れた表情でそう言う。
「母さんたちも野営時に作ることはないだろうって言ってたね」
「まぁ魔力も使うし無防備になるし。それにお風呂自体、一般家庭にはあまりないのよ?」
「そうなの?」
「そりゃそうでしょ。そんな大量の水を用意したうえで、それを温めるのにどれだけ手間がかかるか。作ったあなたなら分かるでしょ」
「あー……それもそうか……」
――俺は魔法を使ったけど、魔力量もあって魔力操作も十分できるからできただけだもんな。水道がないから井戸から水をくむか、魔道具や魔法で水を出してる家庭だと、そもそも人が浸かれるような量を用意すること自体が大変だよな……。
「まぁ、私の家にはあるけれど」
「あるんだ……」
「この体になる前に、山奥の温泉に入ったことがあってね。それで気持ちよさを知ってるから、親に頼んで作ってもらったのよ」
「てことは、前までなかったんだ」
「えぇ、貯水樽を作ってもらうときに一緒に作ってもらったわ」
「貯水樽? 雨水とかを貯めるの?」
「そういう家もあるけど、うちは私が魔法で水を貯めてるわね。上の階に設置して、下の階で使えるようにするのよ」
「あー、なるほど。そういうのもあるんだ」
「魔法で作った水だからそのまま飲んでも心配ないし、料理にも使えるからお母さんは喜んでいたわ」
ステラが"母親"とかではなく"お母さん"と言っているあたり、本当に馴染んでいるなと思いながら「そうだろうね」と答える。
「魔道具の魔力をチャージする店があるように、貯水桶とかに水を貯めることを仕事にしてる人もいるからね。私は魔力量が多いって両親は分かっているから、そういうのは頼んだことがないけど」
「畑の水やりとかもしてるって言ってたもんね」
「えぇ。だからその樽を作ってもらうときに、"用意は私がするから"って頼んで、一緒にお風呂も作ってもらったのよ。まぁ大きくはなくてお父さん1人分くらいだけど、そもそも置く場所なんて元からあるわけないから、家の中にあった物置を改装して作ったのよね」
「町なかだと庭とか外に作るのもね……」
「まぁその物置に置いてた、薪やら道具やらを置く場所がなくなって、裏手に新しく作る羽目になってたけど仕方ないわね」
そう言ってステラは軽く笑う。
「結構な作業量になったと思うけど、お風呂を喜んでくれてるならよかったんじゃない?」
「もとは私が入りたいからって頼んだんだけど、みんな喜んでるようだからね。まぁ畑の水やりをして貯水樽に水を貯めて、他にも魔力を使うことがあるし、毎日やってるとさすがに変に思われそうだから、毎日ってわけじゃないけどね」
「それはそっか」
そんな話をしながら森の中を歩いていると、ステラが立ち止まって周りを見る。
「どうしたの?」
「うぅ~ん。この辺にもいくらか山菜はあるけど、ちょっと少ないわ。他の人が採っちゃったみたいね」
ステラはそう言いながらしゃがみこみ、木の近くに生えている草に触れる。
「それも食べられるやつ?」
「えぇ。でもあまり生えてないわね。ってカーリーンはあまり詳しくないのね?」
「う、うん……」
――前世含めて山菜採りなんてまともにやったことないからなぁ……森にまともに入ったのもキャンプのときくらいだし、王都へ行くときの道中とかも俺は探しに行ってないし……。
「まぁよく考えたらその年齢で貴族の子だし、当たり前よね」
「兄さんたちは、たまに採って帰ってくるみたいだけど」
「……ここの領主の子なら不思議じゃないわね……」
ステラは苦笑しながらそう言って立ち上がる。
「もう少し奥に行けばもっとあるだろうから、移動するわよ」
「さらに奥に行って平気なの?」
「普通の子供だけなら危ないかもしれないけど、私もいるんだから大丈夫よ。あなたの兄や姉はもっと奥まで行ってるんでしょ?」
「まぁ、それもそうか……」
場所的には村から北東に少し進んだくらいで、キャンプに行った森と比べると全然浅い場所ではある。
それに子供だけでは危ないと言われているが、大人であれば戦闘経験がなくとも大丈夫なくらいの場所でもあるので、ステラの提案に同意してさらに奥へ進むことにした。
「そういえば、このあたりにも湖があるんだっけ?」
「もう少し村の近くを東に行ったところね。それもあなたの父親から聞いたの?」
「いや、これは神父さんからだね」
「あぁ~……そういえば釣り竿を持ってるのを見かけるわね……あまり話したことはないけど……」
神父さんとは教会でしか会ったことがないのでその姿は想像できないが、ステラも見たというのであれば、よく釣りに行っているという話は本当なのだろう。
「相変わらず、あまり教会には行ってないの?」
「さすがにまだちょっとねぇ……だから神父さまも"神父"って言うよりは、"釣り好きのおじさん"ってイメージの方が強いのよ……」
「そんなに釣りに行ってるんだ、神父さん……そういえば、ステラは釣りはしないの?」
「あまりしないわね。今度ルナを誘って行ってみようかしら」
「いいね。俺も自由に動けるようになったら行ってみたいな」
「今でも十分自由なんじゃない?」
「まぁねぇ……ドラードなら誘ったら付いてきてくれそうだし」
「まぁ彼1人いれば、護衛としては十分すぎるくらいね」
「やっぱドラードって強い? というか分かるの?」
「今でもある程度は見ただけで分かるわよ。あの人の強さを分かりやすく言うなら……そうねぇ……あなたのお父さんと同格じゃないかしらね」
――"英雄"といわれてる父さんと同格か……俺としては、本当の伯父さんより伯父さん――いや、親戚のお兄さんって感じなんだけどな。
「そうなんだ。まぁ本気で戦ってる姿なんて見たことないからあまりピンとこないけど……」
「それだけ平和ってことでいいじゃない。今のあなたの行動圏内でそんな人たちの本気の戦闘を見ることになってたら、国がどうにかなっちゃってるわよ」
「……それもそうだね。というかサラッと恐ろしいこと言わないでよ」
「別に冗談のつもりはないんだけど? まぁこの国の中でもトップクラスに危険な領内で、これだけ平和に過ごせてることに感謝ね」
ステラは薄く微笑みながらそう言う。
――たしかにそうだな……って、そんな領内の森の奥へ子供だけで行ってるけど、あとで怒られないかな……ステラとだから万が一もないだろうけど……まぁドラードなら大丈夫か。
そう思いながら、ステラの横を歩いて奥へと進んだ。
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