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211.身体強化?

 馬車から離れるにつれ、草木が多くなって歩きにくくなっていく。


 といっても、なるべくそういったところを歩かないようにはしてくれているし、草の高さも俺の腰程くらいなので迷子になるような不安はない。


 ――蛇とかいたら怖いけど……まぁ父さんも一緒だし、対処はしてくれるよね……?


 そう思いながら前で枝を払い、歩きやすくしてから進んでいく兄さんの背中を見る。


「見つからないねぇ」


「まぁこれくらいで見つけられてたら、湖へ向かうときにエルが気づいてると思うよ」


「それはそうかも……」


 俺と兄さんの話を聞いて、後ろで父さんが笑っている。


「父さんも見つけたことがあるんだよね?」


「うん? まぁあるが、この森では見つけたことはないなぁ」


「え、そうなの? というか町の近くの森以外にも生えるんだ?」


「あぁ。それこそ魔の森にすらあったりするしな。南の森にも生えることがあるみたいだし、オルティエン領内の森なら可能性があるって感じだなぁ」


 ――そんな広範囲なんだ……まぁ神様関係のものだしなぁ……。


「そうなると、なおさら見つけるのは難しいかもしれないね」


「そうだなぁ。さっきも言ったが、とくに目印になるようなものがあるわけでもないし、見た目も普通のリンゴだからなぁ……」


「見つけたとしても、自然になってる普通のリンゴの木かもしれないのかぁ……」


「リンゴの甘い匂いが強めだとはいえ、リンゴ畑のように密集してないとそもそも広がりにくいからなぁ」


 ――匂い……匂いかぁ……魔力なら見えるかもしれないのになぁ……うん? そういえば、身体強化って嗅覚とか聴覚にも反映させられるのかな? できれば匂いで場所が分かるかもしれないけど……。


 そう思った俺は、父さんや兄さんにバレないようにこっそりと魔法で身体強化を施す。


 しかし、とくに嗅覚や聴覚が強化されたようには感じなかった。


 ――さすがに弱すぎたかな?


 身体強化の具合を確かめるために、途中で拾っていた木の枝を強く握ってみる。


 折ったり砕けるようなことはないが、わずかにミシッという感触が手のひらに伝わってきたので、強化自体はされているようだ。


 ――まぁ力以外が上がっても、使いどころが限られるだろうしな……ポイントを割り振ってる感じだとすれば、無駄に嗅覚とかを強化するくらいなら、その分全部を力に回した方がいいだろうし。そうなると、意識して嗅覚強化すればできそうか?


 早速試そうと一旦魔法を解除して、再度嗅覚を意識して身体強化をかけなおす。


 今度はうまくいったようで、草の匂いがさきほどよりかなり強く感じられる。


 ――うおう……これは加減しないときついかも……。


 近くで通りやすいようにと草木を払ってくれていることもあり、思っていた以上の強烈な青臭さを嗅いで顔をしかめる。


 ――そんなに強く魔法をかけたつもりはないんだけどなぁ……まぁ使ってるうちに慣れてくるかもしれないか……それに今はこれくらい匂いが分かれば、見つけるのに役立ちそうだし。


 一番強く感じている草の匂いの中から、木や土のにおいなどを嗅ぎ分けられるように意識して慣らしつつ、兄さんのうしろをついて行く。


「……あ、なんか甘い匂いがする?」


 一瞬フワッと風に乗ってきた匂いを嗅いでそう言うと、兄さんが不思議そうな顔で振り返る。


「そう? 僕は何も匂わなかったけど……」


「……あぁ、多分アレだな。向こうで花がまとまって咲いてるから、それだろう。カーリーンからは見えないか」


 父さんがまわりを見てそう言いながら指さしている方向には、ちょうど背の高い草があるせいで俺からは花が見えない。


「ほら、アレだ。見えるか?」


 父さんはそう言いながら俺を抱き上げ、再度指さした方向を見てみると、遠くで白いキレイな花が咲き誇っていた。


「うん。キレイだね」


「あぁ。そしてカーリーンが言った通り、かなり甘い匂いがするんだよなぁ。大部屋に花瓶を1つ分飾るだけで、十分その部屋の芳香剤代わりになるくらいにな」


「そんなに匂いが強いんだ……」


「だからカーリーンは分かったのかもね」


「あれならもっと浅い場所にも生えてるから、摘むなら帰ってからでも採りに行けるぞ」


 父さんは俺を降ろしてそう言うので、「うん、分かった」と返事をして探索を再開する。


 ――たしかに甘い匂いだったけど、リンゴの匂いではなかったもんな。まぁあの距離の匂いが分かるなら、匂いでアマリンゴを見つけられる可能性は十分にあるな。


「姉さんたちの方はどうかなぁ」


「見つけたらカレアがリデーナにでも伝えて、こちらに連絡がくるだろう」


 そんな話をしながら探索を続けていると、再び一瞬だけ甘い匂いがした。


 しかも今度はリンゴのような匂いも感じ取れたので、バッと顔を上げて父さんに話しかける。


「ねぇ! 今リンゴみたいな匂いがしたんだけど、風の向きとか分かる!?」


 そよ風程度でもあれば俺でもある程度の向きは分かるが、匂いがしたときは風を感じられなかったので、分かりそうな父さんにそう聞いてみる。


「お? 本当か? そうだなぁ、今のだと向こうの方だろう」


 父さんはそう言いながら、俺を抱き上げて指をさす。


「……うぅ~ん……見えない……」


「ははは。まぁ木が多いからな」


「その方向に行ってみる?」


 兄さんも同じ方向を見ながらそう聞いてくる。


「勘違いかもしれないよ?」


「どうせ何の目印もなしに探索してるんだ。勘違いかもしれなくても、手がかりは手がかりだからな」


「そうだよ。何もないよりはいいし、さっきもカーリーンは花の匂いを感じ取ってたしね」


 そう言いながら、匂いが流れてきた方へ進みだす。


 その方向は父さんが言った通り木が多く、兄さんが邪魔な枝を次々と払いながら進んでいくと、少し開けた場所に出た。


 中央には2メートルほどの木が生えており、赤々とキレイな実がなっているのが見える。


「アレ、そうじゃない!?」


「おぉ! たしかにそれっぽいなぁ」


 父さんはそう言いながらリンゴの木に近づいて、果実に触って確かめている。


「あぁ、これはアマリンゴだな」


「やった!」


 アマリンゴの木を見つけられたことに、思わずそう声を上げて喜ぶ。


「せっかくだから、収穫にはエルたちも呼ばないとね」


 兄さんの言葉を聞いて、父さんは確認していた果実から手を放し、「そうだな」と言いながら頷く。


「どうやって知らせるの?」


「うん? そりゃあ、俺が直接伝えに行くんだが」


「ははは。大丈夫だよカーリーン。この森なら何があっても守れるから」


 単に知らせる手段が気になっただけなのだが、"父さんがいなくなることで危なくなるのではないか"と勘違いされたようで、兄さんにそう言われる。


「それじゃあ、エルたちを呼んでくるから、ここで待ってるようにな。すぐ戻るからな」


 父さんもそう言いながら、俺を安心させるように優しくなでてくる。


「う、うん。いってらっしゃい」


 俺がそう言うと、父さんは「あぁ」とだけ返事をして離れていった。


「それにしてもよく分かったね。結構あの場所から歩いたと思うけど」


「……実は身体強化で嗅覚を良くしててさ……それで甘い匂いが分かったんだよね」


「あぁ~。そんなことしてたんだ? それで納得がいったよ」


 兄さんは本当のことを聞いて、苦笑しながらそう言う。


 ――まぁ別にそこまで秘密にするようなことでもないしな。


「まぁでも、そのおかげで見つけられたね」


「やっぱり自分たちでみつけられると、嬉しいね」


 そんな話をしながらアマリンゴの木を眺め、父さんたちが戻って来るのを待った。

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