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210.帰路へ

 日が徐々にのぼり、早めの昼食を摂ることになった。


 朝食が早い時間だったこともあるが、帰り道はアマリンゴを探しながら移動するので、来たときと比べて時間も必要となり、その分早めに出発することになったからだ。


 道中で再びかまどなどを作っていると結局それで時間も取られるので、ちゃんとしたご飯は先に食べておくらしい。


 一応道中でも食べられる軽食も作るらしく、用意に時間がかかるようなので、ドラードが昼食などを作ってくれている間にテントなどの片付けをすることになった。


 敷いてあったマットなどを荷台に持っていき、魔法を解除して石製のテントを崩す。


 "解除"などと唱えつつ崩しはするが、実際は作るときと同じように土に戻すイメージで魔法を使っているようなものだ。


 とはいえ、自分が作ったものであればすんなりと魔力が通って実行できるが、他人が作ったものの場合、それなりに魔力も消費するし、緻密な魔力操作も必要になるらしい。


 また、こういう野営のときに土魔法でものを作るのはいいが、きちんと解除して帰るのがマナーのようだ。


「――絶対的なものではないけれどね。土魔法で何か作るのに邪魔なら、その時に崩しちゃえばいいわけだし。まぁ余計に魔力を使わされるし、自分が作りたいものじゃないものがあるくらいなら、何もない方がいい場合が多いからね」


 テントを崩したあと、お風呂を崩しに移動しながら母さんがそう教えてくれる。


「まぁこんな壁があったら、視界も悪くなるもんね」


「……そうねぇ。まぁこの規模となると、野営地で作る人は本当にいないんじゃないかしらねぇ……かまどや焚火とかならともかく……あ、机とかもあとで崩しておきなさいね」


「は~い」


 街道沿いにあるような安全な場所とされている広場の場合は、ファイヤーピットなどの"あると助かるもの"は残しておいても問題ないが、今回のように次に訪れるのはいつ誰になるかも分からないような場所では、崩しておいた方がいいらしい。


 ――そこが安全なら再利用できるけど、急いで逃げなきゃいけなくて、後始末が出来なかった形跡って場合もあるみたいだしなぁ。野営自体自己責任だし、安全確保ができていてそこにあればラッキーって感じなのかな。まぁ、前世でも言われてた"来たときよりも美しく"を心がけるのが間違いないか。いや、美的感覚はそれぞれだから、"来たとき通りの姿に"とかの方が正しいかもしれないけど。


 そんなことを考えながら、母さんに色々教わりつつ魔法を解除していった。


 作るときと比べるとすんなりと終わり、お風呂があった場所は、さすがに草までは戻らないので土がむき出しになっており、何かがあった痕跡はあるもののキレイさっぱり平坦な地面に戻った。


「よし、これでいい?」


「えぇ、完璧ね。それじゃあご飯もできたようだし、食べに行きましょうか」


 机の方を見るとドラードとリデーナが食事を並べ始めており、じいちゃんたちや姉さんとアリーシアも席に座っている。


 ――兄さんと俺のテントは俺が崩すだけだったから、兄さんは姉さんたちのテントの片付けも手伝ってたみたいだし、思ったより早かったなぁ。


 お風呂も崩すだけだったので、姉さんたちと同じくらいになると思っていたが、先に座っているのを見てそう思う。


 手伝いをしていた兄さんは、父さんと荷物の整理をしていたみたいだが、そちらももう終わったようだ。


 母さんに「うん」と返事をしてみんなのところへ戻り、そのまま昼食の時間となった。




 食べたあと、食器などが入った箱を荷台に乗せ、ドラードがかまどなどを崩している間に、隣で机などを崩していく。


「よし。後片付けは終わったな」


 あたりを見回しながら父さんがそう言い、荷台から剣を取って腰に携えると、それに続いて兄さんと姉さんも剣を取り、姉さんは背中に、兄さんは腰にそれぞれ携える。


 ――兄さんたちはくるときは手ぶらだったけど、帰りはアマリンゴを探すのに少し森に入るつもりなんだろうなぁ……この森なら素手でも大丈夫って言ってたけど、邪魔な草木を刈るのに便利だろうし。


 来るときも、父さんがたまに枝などを払っていたことを思い出す。


「それじゃあ、出発するか」


 出発の準備が整ったことところで父さんがそう合図を出し、みんなで歩き出した。


 アマリンゴの木を探しながら帰るので、子供たちは列の真ん中の方に集まって移動している。


 森に入って少し歩くと、姉さんが声をあげた。


「見つかるかしら」


「うぅ~ん。なんとも言えんなぁ。この道はあまり使われてないとはいえ、探してるものがアマリンゴの木じゃなぁ」


 苦笑しながら答えた父さんの言葉に、姉さんは「そうよねぇ」と返している。


「何か近くにあるって分かる特徴ってないの? 凄く甘い匂いがする~とか魔力の流れがある~とか」


「匂いに関しては、木になってるときも普通のリンゴより少し匂いがあるってくらいだな。魔力とかに関しては俺は分からんだろうしなぁ」


「採るのにわざわざそういう探し方をしないからねぇ」


 父さんの言葉に続いて、母さんがそう言う。


 ――そうだよなぁ。町の市場にはそれなりの量があるってことは、森で山菜採りとかしてる人たちは、結構見つけてるんだろうしなぁ。普通のリンゴより日持ちはしないみたいだから、頻繁に採れてるってことだし。


「果物屋のおじさんに聞いとくんだったわ」


「ははは。町の人たちが入る森はもう少し東の方が多いからなぁ。聞いても分からないんじゃないか?」


 そんな話を聞きながら、目を凝らして魔力を確認してみる。


 ――うぅ~ん……特にそれらしいものは見えないよなぁ。まぁ魔力の流れで分かるものでもないかもしれないし、そりゃそうか。


 そんなことをしていると、姉さんが「少し離れて探してもいい?」と提案しているのが聞こえた。


「大丈夫だぞ。ただ、荷台を止めると帰るのが遅くなるから、場所が分かる俺かカレアが一緒に行くが、いいか?」


「うん! それじゃあ、お兄ちゃんは右側お願い。私たちは左側に行くわ! アリーシア、行きましょ!」


「え、う、うん」


 ウキウキと目を輝かせる姉さんに勢いよく誘われ、アリーシアは戸惑いながらも、嬉しそうに返事を返す。


「それじゃあ、カーリーンは僕と行く?」


「うん。ちゃんと守ってね」


「あはは。大丈夫だよ」


 そう笑って道から外れていく兄さんのうしろをついて行く。


「それじゃあ、少し離れる。シラヒメなら大丈夫だと分かっているが、義父上(ちちうえ)たちは少しペースを落として進んでてくれ」


 うしろでそのような声が聞こえ、じいちゃんが「あぁ。分かった」と返事している。


「それじゃあ、ライが先導で探してみるか」


「こっちには父さんがくるんだね」


「まぁな。エルはどちらかというと、間違いなく攻撃寄りだからなぁ。複数相手の乱戦や範囲攻撃への対処なら、カレアの防御魔法の方が間違いないからな。ライは防御もうまいし、俺と一緒なら大丈夫だから安心しろ」


 ――そんな危なそうな場所に行くときの組み分けの理由を聞かされても……。


「安心はできるけど……この森でそんなことある?」


 父さんにそう聞くと、一瞬キョトンとした顔をしたあと笑い出す。


「ははははは。まぁ絶対にないなぁ。つい騎士団の連中と入る魔の森のことを思い出してな」


「たまに父さんが言ってることを聞いただけでも、かなり危なそうな森だもんね……」


「まぁな」


 そんな話をしながら荷台から徐々に離れつつ、アマリンゴの木を見逃さないように、まわりを注意深く見ながら歩いて行く。

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