21.魔力視
リデーナが子どもたちをリビングに連れて行ったあと、執務室では両親とロレイナートが残っていた。
「魔漏症は伝染病ではないので、普通に接していただいて大丈夫でございます」
「そうなのか」
「はい。命に関わることもある病気ですが、伝染病でもなく発症の原因も不明ですので、症例が少なくてあまり知られていない病気なのです」
「広まらない上に原因も不明となれば難しいものね……」
「なにか外傷があるわけでもなく、ただただ魔力が抜けていくという謎の多い病気なのです。まぁ原因は分からずとも、"魔力が抜ける"という症状は分かっておりますので、先程お伝えした通り対処法は確立しておりますが」
「あなたがいてくれてよかったわ、ロレイ」
「そこそこ長く生きていますからな」
はっはっはと笑うロレイを、彼の本当の姿を知らない父さんは不思議そうに見ていた。
――父さんと比べると少し年上に見えるが、おじいちゃんと言うにはまだ若いくらいだもんな……
「だーーう」
「カーリーン様も落ち着かれたようで、ようございました」
そう言って微笑むロレイナートを素直にカッコイイと思った。
「それでは、ご子息方にも伝染らない事を説明してまいります」
「わかったわ」
ロレイナートが退室したあと、俺を抱いて座っている母さんの正面に父さんが胡座をかいて座った。
父さんは身長が高く床に座っていても母さんの胸くらいの位置に頭があるので、目線が俺よりは少し高いがある程度合わせてくれているようだ。
「はぁ……病気と聞いたときは肝が冷えた……」
「あなたからそんな言葉を聞くのはいつ以来かしらね」
「……ライが産まれる時か……?」
「いいえ。私は無事に出産したから、あなたはそんなこと一言も言わなかったよ。むしろまだ首が据わっていない頃の抱き方にこっちの肝が冷えてたわ?」
「そ、そうか……」
「まぁ無事に治ることを祈りましょう」
そう言いながら母さんは俺のおでこに軽くキスをする。
「あぁ。魔力譲渡はカレアしか出来ないからそれは完全に任せることになるが、他に何かできることがあったら言ってくれ」
「今でも充分色々とやってくれているわよ。ありがとうね」
今度は父さんの頬に手を伸ばし、前にかがんで父さんの頬にもキスをする。
「当たり前だ。おまえと子どもたちのためならドラゴンの肝だって取ってきてやる」
「ふふ。あなたなら可能でしょうね」
先ほどまでの深刻な雰囲気が嘘のように、執務室は両親による甘い空気に満たされていった。
あの後も今後の事を話し合ったり、両親の仲睦まじい姿を眺めているうちに昼食となった。
リビングの前まで行くと中にいたロレイナートがドアを開けてくれて、中に入ると子供たちが席を立って駆け寄ってきた。
「も、もうカーリーンは大丈夫なんですよね!?」
「しんじゃわないよね?」
ロレイナートから病気のことを聞いてはいるようだが、一番苦しそうにしていたタイミングを見ているためすごく不安になっているようだ。
「えぇ。大丈夫よ。もうなんともないから2人とも心配しなくていいわ」
「でも、あんなカーリーンの泣き声は久しぶりに聞きました……」
「ね……」
――は、恥ずかしい……そうだよな、みんないるタイミングだったもんな……
「ふふ。そうね。本当にもう大丈夫だから、もうちょっと大きくなったら一緒に遊んであげてね? 稽古の時も混ざりたそうにあなたたちの事見てるくらいなんだから」
「もちろんです!」
「けいこ! カーリーン早く大きくなっていっしょにけいこしましょうね!」
そう言って2人は俺の頭を撫でてくれる。
「さぁお前たち、お昼食べたらその稽古が待っているぞー?」
子どもたちが父さんの言葉に元気よく返事をした後、みんなで昼食を食べた。
昼食を終えて一息入れた後、いつものようにみんなで外に出る。
普段から稽古を頑張っている2人だが、先ほどの件があったためより一層頑張っているように見える。
「リデーナ、カーリーンを診てくれるかしら?」
「かしこまりました」
ロレイナートは稽古の手伝いをしているため、近くに待機していたリデーナに母さんがそう頼む。
「【魔力視】……今は減っておりませんね」
「そう。あの後結構渡したからまだ大丈夫なのね」
――あ、さすがにあの後すぐに魔力を使うなんて事できなくて減らしてなかった……
「奥さまも【魔力視】を覚えてはいかがでしょうか」
「そうね……これからのこともあるから教えてもらおうかしら」
――"魔力視"というのはおそらく魔力の残量などを観れるようにするものなんだろう。魔力操作の稽古で兄さんの魔力を動かしたりはしてるから、魔力の流れ自体は確認できても残量までは確認できていなかったのか。
「奥さまは付与系はあんまりお使いになられませんものね」
「そうねぇ……フェディと並ぶために身体強化は必須だったから覚えたけど、他はあんまり使っていないわね……」
「それだけの才能があるのにもったいない」
「……今まで必要なかったからよ……それにしても、この年になって新しい魔法を覚えようとすることになるなんてね。原因はあれだけどカーリーンのおかげね」
「えぇ、本当に。お嬢様の口から"付与魔法系統を教えてほしい"と言われる日がこようとは思いもしませんでした。カーリーン様に感謝ですね」
「そうそう! 聞いてリデーナ! カーリーンの魔力量は多いわよ。思ってた以上に渡すことになったもの」
母さんはお嬢様と言われたことが気にならないくらいに嬉しそうにはしゃぎながら話す。
「溢れるまで試したのですか?」
「えぇ。無理やり詰め込むような譲渡じゃなければ、危険はないでしょう?」
「そうですが……そんなに多かったのですか?」
「えぇ。病気のせいで減っては回復を繰り返したせいかしらね……」
そう言いながら少し悲しそうな表情で頭で撫でてくれる。
「ケガの功名ですね。魔力操作さえ習得できれば完治するようですし、治ったときにその魔力量は魔法使いとして大きなアドバンテージとなるでしょう」
「そうね。カーリーンがちゃんと魔法の授業を受けてくれればいいのだけれど……治すためとは言え、無理矢理覚えさせるのは気が引けるから。どうせなら楽しく覚えてほしいものね」
「ご兄姉様が嫌々やっていなければ、自然とそういうものだと理解して覚えてくれるのでは?」
「そうね……ライもエルもやる気になってくれてるから、嫌がられない程度にしっかり覚えてもらいましょう」
――俺もちゃんと頑張るよ。迷惑かけちゃったし、魔法は興味津々だし! 魔法の勉強が確定した姉さんにはちょっと申し訳ないが……まぁ姉さんが嫌々やってたとしても、俺はしっかり受けるから安心してほしい。
「そういえば【魔力視】では魔力の多さとかは分からないの?」
「私の【魔力視】では最大値かどうかと、そこから何割ほど減っているかが確認できる程度ですので、その最大値がほかの人と比べてどう違うかまではわかりません」
「そういうものなのね。でも全体から見てどれくらい使ったか分かるだけでもありがたいわ。これから魔法の稽古をする時にも重宝しそうね」
「確かにそうですね。魔力切れになりそうになったらダルさや眠気が来ますが、最大値に見合わない魔力量の急な消費は酷い頭痛や気絶を引き起こしますからね……」
――執務室には魔法が発動しにくくなる魔道具があるとか言ってたし、そのせいで一気に魔力を使っちゃってああなったのか……
「ライやエルが魔力操作を覚えて、魔法を勉強し始めるまでには私も覚えておかないとね」
「えぇ、お任せください。お嬢様ならすぐに使うことができるでしょう」
「また"お嬢様"に戻ってるわよ?」
「失礼しました奥さま。なにぶん魔法をお教えしていた頃はその呼びかただったので」
「そうね。またあの頃みたいに丁寧に教えてくれると嬉しいわ」
「もちろんでございます」
そう言うと2人は稽古の邪魔にならないように静かに笑った。
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まだちょっと書きたいネタ残ってるので、まだまだ赤ちゃんで過ごしてもらいます