208.朝
隣で動く気配がして、軽く目が覚める。
屋敷の部屋と比べると森が近いからか、鳥の鳴き声がいつもより大きく聞こえ、うっすらと目を開けると兄さんがテントから出ようとしているところだった。
あたりはまだ朝日が昇りきっていないようで若干薄暗くはあるが、もうすぐ明るくなるだろう。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。大丈夫だよ」
寝る前に快適な気温にしておいたのが良かったのか、あれ以降はぐっすりと眠ることができた。
――もしかしたらリデーナとかばあちゃんとかが、母さんみたいにこっそり換気してくれてたのかもしれないけど。
そう思いながら体を起こし、兄さんと一緒にテントから出る。
机の方にいくと、早朝から見張りをしていた両親が座っており、他のみんなはまだ起きていないようだった。
「あら、おはよう」
両親と挨拶を交わして、少し離れた場所で兄さんと一緒に顔を洗い、戻るときにコップを出してから席に着く。
そのまま自分と兄さんのコップに水魔法で水を入れて、それをひと口飲んだ。
「まだみんな起きてないんだね」
「まぁリデーナたちにも十分休むように言っておいたからな。屋敷と違って、朝早く起きてもやることもないだろうし」
「それでも、そろそろ起きてくると思うけれどね」
父さんの言葉に、母さんが笑いながらそう答える。
「……姉さんも同じころに起きてきそう……」
「あはは。そうだね。今日はやることを決めてるし、僕たちより寝てるのが意外だったね」
「昨日はずっと動き回ってたし、その反動かな?」
そんな話をしていると、リデーナとドラードが起きてきて挨拶を交わす。
そのあとドラードたちが顔を洗い終わるころに、予想通り姉さんたちも起きてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
姉さんはスッキリとした表情をしているが、アリーシアはまだ眠そうな顔で挨拶をする。
「アリーシアちゃん、まだ寝ててもいいのよ?」
「いいえ、エルも起きたし、ライお兄さまやカーリーン君の声もしてたので大丈夫です」
――何が大丈夫なのだろうかと思わなくもないけど、まだ少し寝ぼけてるんだろうな。まぁ俺たちが起きているに1人だけ寝ているのも寂しいだろうし。
そう思いながら顔を洗いに行く姉さんたちを見ると、昨日作ったお風呂が目に入った。
「あ、そういえばお風呂を崩すの忘れてた」
「おかげで見張りの交代のときに、もう一度入れて気持ち良かったがな」
俺の声が聞こえていたらしいドラードが、笑いながらそう言ってくる。
「眠気覚ましがてら、サッと入ってきたらどうだ? フェディたちと交代するときに熱くしておいたから、冷たくはなってないと思うが」
"それもいいなぁ"と思いながら父さんの方を見る。
「はは。それじゃあ一緒に入るか?」
どうしようか悩んでいただけなのだが、父さんが乗り気なので「うん」と返事をする。
一応お湯を確認しにいくと、ぬるま湯くらいになっていた。
――これから日が昇って暑くなるしこれでも十分だけど、少しだけ温めておくか。あ、多分姉さんも入るだろうし、女湯の方もやらなくちゃか……いや、もう湯溜めだけ熱くして、各自調節の方が楽だな。
そう結論付けた俺は、手早く湯溜めに残っていたお湯を温めなおして、みんなのところへ戻る。
兄さんはこなかったのだが、予想通り姉さんが入ると言い出し、姉さんに誘われたアリーシアも入ることになったので、"ぬるかったら湯溜めからお湯を足して調節してね"と伝えておく。
寝ている間に汗もかいているだろうがそこまでではないので、体をサッと流すだけにして湯船につかる。
「はぁ~。朝焼けを見ながらの風呂もいいものだなぁ~」
父さんが空を見上げながらそう言うので、同じように息を吐きながら同意する。
「朝にお風呂に入るなんて滅多にないもんね」
「みんなが入り終わったらお湯を抜くし、準備が大変だからなぁ。それで、今日は何をする予定なんだ? 帰りにアマリンゴの木を探すって話は聞いてるが」
「うぅ~ん。テントに行ってからわりとすぐに寝ちゃったから、全然決まってないんだよね」
「そうなのか? おまえとエルのことだから、しばらく起きて話してると思ってたが」
「……俺ってそんな夜更かししてるイメージあるの?」
「ははは。そういうわけじゃないが、エルのテンションが高かったからなぁ。それに付き合わされてると思ったんだ」
「テントを涼しくしてあげてからすぐに戻ったよ。昨日は疲れてたからね」
「そうか」
「予定といえば、稽古とかはしないの? 昨日はずっと遊んでたから姉さんがやりたそうだけど」
「やりたいわ!」
壁の向こうから姉さんの元気な声が聞こえてくる。
――そういえば向こうにいるんだったな……。
「うぅーん。まぁ少しくらいならしてもいいんだが、帰りもあるしなぁ。ライやエルは平気だろうが、おまえとアリーシアが木を探しながら帰る体力がな……」
父さんはすこし言いづらそうに、苦笑しながらそう言ってくる。
「来るときも荷台にお世話になったからね……」
「す、すみません……」
再び壁の向こうから、申し訳なさそうなアリーシアの声が聞こえてくる。
「まぁ歩き慣れない道だったから仕方ないさ」
「そうよ。それに最初の頃に比べたら、アリーシアも十分体力はついているわよ!」
父さんと姉さんの言葉を聞いて、アリーシアは照れた声色で「そ、そうかな?」と言っている。
「それなら、やるにしても剣だけかな? その間は俺とアリーシアさんは魔法の稽古で。そのあとは、シラヒメと遊ぶよ」
「そうだな。そうするか。あとでカレアにもそう言っておこう」
そう決まったあとはのんびりと湯船につかり、さすがに長湯はせずに父さんと一緒にお風呂を出る。
みんなのところに戻ったころには、じいちゃんたちも起きてきており、少し話をしていると朝食もできあがった。
「まだ朝食には早い時間だが、みんなそろったしせっかくだから頂こうか」
あたりはようやく朝日が昇って明るくなってきたころ合いで、夏場なのでまだ早い時間なのは確かだろう。
しかし、みんなもそろっているし朝食もできているので、誰も異論はなかった。
食事中にこのあとの予定を相談し、食事が終わるとそれぞれが少しだけ稽古をすることになった。
今回は森へ行くということもあり、兄姉も自分の剣を持ってきていたので、それを持って父さんと一緒に離れた場所へ移動する。
屋敷の庭も広さは十分にあるのだが、地面を抉るような攻撃の練習をすると、後片付けが大変なのであまりやっていない。
しかし、"ここであればあまり気にしなくてもいい"という話になり、いつもは見せないような大技を見せることにしたようだ。
――屋敷だと基本的な動きがメインだもんなぁ。まぁ斬撃を飛ばすとか魔法のような武技を見せてるときもあるけど……もっと派手なものか……母さんも【ファイヤーボール】くらいの爆発する魔法はたまに見せてくれるけど、もっと派手なやつを見せてくれるのかな?
父さんと同じ理由で母さんの魔法にも期待したのだが、さすがに"まだ早い"ということで、こちらはほぼほぼいつもと同じ稽古内容になりそうだった。
チラチラと父さんの方を見ていると、いつもの数倍の大きさの斬撃を空に放ったり、剣を地面に振り下ろすと同時に数メートル先まで衝撃で土煙が上がったりしている。
「うわぁ……」
「うふふ。あれくらいなら、ライやエルならすぐにできるようになるかもしれないわねぇ」
「"あれくらい"って言うってことは、母さんから見てアレは初級って感じなの……?」
「それはそうよ。フェディなら数十メートルは余裕だし、実際に倒木で通れなかったそれくらいの距離の道を、一振りでキレイにしたこともあるわよ」
――そんなに……いや、前にじいちゃんと森で手合わせしてたときとか爆発音みたいなのもしてたしな……。
「そりゃあ、屋敷で見せられないわけだよね……」
「えぇそうね。まぁあなたがもう少し大きくなったら、同じようにもっと派手な魔法も見せてあげるわ」
「屋敷で見る【ファイヤーボール】でも十分派手だけどね」
「うふふ。それは実際に見せたときの反応が楽しみだわ」
母さんはそう笑いながら頭を撫でてくる。
そのあとも、父さんが放ついつも以上に派手な武技などを見ながら、魔法の稽古を続けた。
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