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204.お風呂の準備

 おおよその形は思いついたので、作る場所を探す。


 ――ちゃんと浴槽の間には壁を作るけど、他に人目があるわけじゃないし、湖が見えるようにそっちの壁はなくてもいいかな?


 そう思いながらキョロキョロとあたりを見ると、ちょうどいい場所があったのでドラードに声をかける


「あのあたりに作ってもいい?」


「あぁ、いいぞ。もうすぐ洗い終わるから、先に始めててくれ」


 そう許可を貰った俺は、少しドラードから離れてしゃがみこむ。


 ――水自体は川からひいた方がいいかな? いや、ドラードも手伝ってくれそうだし魔法でいいか。


 そう思いながら土魔法を唱え、まずは熱いお湯をためておく場所を少しだけ高くなるように作る。


貯湯槽(ちょとうそう)っていうんだっけ……いや、タンクとじゃないし、この場合は湯溜(ゆだ)めの方が合ってるかな? まぁ名称は今はいいか。っと、これくらい固めればちゃんと溜まってくれるかなぁ……?」


 目に見えて分かるほど水が抜けるようでは意味がないので、いったん確認するように魔法を唱えて半分くらいまで水を貯める。


「…………うん。大丈夫かな? すぐには分からない程度で減ってるかもしれないけど、お風呂に入ってる間になくならなきゃ問題ないわけだし。【ロッククリエイト】」


 納得した俺は、続けて浴槽となる部分を近くに作る。


 ドラードと相談した通り3人で入れるくらいのものを作ったのだが、父さんはガタイもいいし、ドラードも身長が高いのでそれなりに大きい。


 広い分にはとくに問題はないので、壁を設置するようの間を空けて同じサイズのものをもう1つ作る。


「おぉ? もうほとんどできてるな」


「うん。あ、ドラード、ちょっと浴槽の中で座ってくれない?」


「うん? まぁいいが」


 広さはともかく、ちょうどいい深さを把握したかったので、様子を見にきたドラードに座ってもらって確認する。


 ――身長が高いドラードだと、結構水面から出ちゃいそうだなぁ……となると、同じくらいの父さんもそうなっちゃうよなぁ。


「もうちょっと深い方がいい?」


「いや、これくらいでいいんじゃないか? 今は普通に座ってるが、これだけ広ければ足も伸ばせるから十分つかれるだろ」


 そう言いながら浴槽から出てきたドラードに「そうだね」と返事をして、作業を再開する。


 温度調節用の湯溜めから浴槽へつながる20センチほどの小さい水路を作ると、試しに貯めておいた水が流れ込んでくる。


 その水をせき止める用の板を作り、水の出口付近に作った溝にはめて塞ぐ。


 ――さすがにそこまでキッチリ作らなくてもいいしな。少し水が流れてるけど、これくらいなら問題ないかな。


 板はほとんどの水を止めてくれているが、そこまで精密に作っているわけではないので、わずかな隙間からチョロチョロと水が流れている。


 もう1つの浴槽にも同じように設置して、もう一度確認も兼ねて湯溜めに水を満たす。


 相変わらず隙間から水が少し流れているが、湯溜めの水量が増えてもその程度なので問題ないと判断して、次の作業へ移った。


 ――川や湖までは少し距離があるから直接流れるようなことはないだろうけど、念のためにっと。


 そう思いながら、浴槽からあふれた水が流れるように傾斜と浅い溝を作って、その先にドラードがやっていたように、土を固めずに小さい穴を掘る。


 それができると様子を見ていたドラードに、湯溜めに水を張るのをお願いして別の作業をする。


 脱衣所というほどしっかりしたものではないが、湯船の近くを素足で歩いたときに、汚れない程度に地面を固めていく。


「よし、あとは壁を作れば完成かな?」


 素足で歩く部分を手で触って確認しながらそう呟くと、水を入れ終わったドラードが声をかけてきた。


「こっちの浴槽の方にも水を入れておくか?」


「あ~。それもお願いしたいけど、ちょっと試してからでいい?」


「何を試すんだ?」


「湯溜めの方の水を熱いお湯にする方法。ドラード、何かいい方法しってる?」


「まぁ知ってるが……カー坊は何か案があるのか?」


「一応……」


「ほお? それじゃあ、それを試してみてくれ」


「え、うん。火属性魔法使うけどいいの?」


「あぁ、ちゃんと見ててやるから安心しろ。危なそうだったらちゃんと止めるから」


 ドラードはそう言ってニカッと笑う。


 許可を貰った俺は湯溜めの方へ向かい、思いついていた方法をもう一度確認する。


 ――多分【ファイヤーボール】を直接ぶち込むのは止めといた方がいいよな……元が爆発する系だし、そうならないように調整したら変に思われるかもしれないしなぁ。それに、水蒸気爆発とか起きるかもしれないし……そうなると、【ファイヤーボール】を待機させて水面付近に置いておくって言うのが無難か?


 そう結論を出した俺は確認のためにドラードを見ると、"やっていいぞ"というふうに頷いてくれたので、湯溜めに向けて手をかざす。


「【ファイヤーボール】」


 人の頭くらいの大きさの火の玉を出現させ、ゆっくり水面に近づけていく。


 火の玉に触れた水がジュアーッと音をあげ、熱せられているのが分かる。


 ――思ったより大丈夫そうかな? 魔法で作ってるからかな……。


 すでに火の玉は半分くらい沈んでいるのだが、爆発どころか、まわりの水が破裂して散る様子もない。


「なるほどなぁ。全部は沈めないのか?」


「そうしたら爆発するかもしれないじゃん」


「ははは。分かってるんだな。ちゃんと調節してやればそうならないようにもできるが」


「え? そうなの? まぁ、これでも十分温められそうだから今回はこれでいいや。結構蒸発すると思うから、水が減ったら追加で入れてくれる?」


「あぁ、分かった」


 ドラードはそう言って俺の横でしゃがみこみ、一緒に湯溜めの様子をみる。


 混ぜた方が早く終わるだろうが、今は火魔法にそれなりに集中しているので、そこは火の玉の方を動かして広い範囲を温めていく。


 そうしていると、母さんが近づいてきて話しかけてきた。


「何をしているのかと思ったら、お風呂を作っていたのね」


「え、あ、う、うん」


 ドラードに許可は貰ったが、母さんに"火魔法は勝手に使ったらダメ"だと言われていたのに、一声かけなかったので気まずくなってそんな返事になる。


「うふふ。別に怒ってはいないわよ。ドラードも見てるようだしね。それで、【ファイヤーボール】をそうやって使ってるのは、カーリーンの案?」


「うん。温めるならこれが早いかなぁって思って」


「なるほどねぇ。ちゃんと待機させられる技術もそうだけど、水に沈めても維持できている魔力操作と魔力量はさすがねぇ」


 母さんはどこか呆れたような表情で笑いながら撫でてくる。


「……もっと簡単な方法があるの?」


「そうねぇ。今やってる方法が単純で分かりやすいけれど、水を温めるのに使うなら【ウォーム】や【ヒート】とかがあるわねぇ。【ウォーム】は生活魔法に近くて、【ヒート】と比べると温度はそこまで高くないけれど、この時期ならそれでも十分なくらいね」


 ――あぁ~、直接温める魔法もあるのか……そういう温め方ってなんか電子レンジを思い出しちゃって、今回みたいな広さで使うって考えつかなかった……。


 そう思いながら「なるほど……」と呟く。


「まぁ安定はしているみたいだから、今回はそれでやっていいわよ。また今度教えてあげるわ」


 母さんは微笑みながらそう言ったあと少し離れて、浴槽や固めた地面などを確認している。


 俺の隣に戻ってきた母さんは、楽しみにしているような表情をしていたので、早く出来上がるように2つ目の【ファイヤーボール】を出して作業を続けた。

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