203.夕食と食後
魚が焼ける美味しそうな匂いを感じながら話していると、そろそろいい感じに焼き目がついてきたのでドラードを呼んだ。
「いい感じだな、監視ありがとな。さぁ、夕飯にするから席についていいぞ~」
ドラードはニカッと笑いながら子供たちにそう言うので、返事をしてみんなが座っている机へ向かい、リデーナから飲み物を受け取ってそれを飲みながら話していると、次々と料理が並べられていく。
言っていた通り、スープにも魚の切り身が入っており、昼間に泳いだりしてお腹がすいていたので、かなり食欲をそそられる。
それ以外にもサラダや、肉を薄く切って焼いたものなどもあるが、メインは魚と言える感じだ。
――前世の記憶があるから、焼き魚にパンって合うのかなって思ってたけど意外と合うし、慣れるものだなぁ。そういえば米ってみたことないけど、あるのだろうか……。
目の前に置かれたパンを見ながらそんなことを思っていると、最後に子供たちが釣った焼き魚がそれぞれの前に並べられ、父さんが「さぁ、いただこうか」と言うとみんな食べ始めた。
今日はキャンプという特別な場所での食事ということもあり、ドラードやリデーナも同じ席について一緒に食べるようだ。
「おいしそうねぇ」
ばあちゃんが紫色の糸のついた焼き魚を見て、アリーシアに微笑みながらそう言う。
どうやら火元からアレくらい離れていればあまり焼けることはない、特殊な糸だったらしい。
といっても、俺の魚は尾ひれに少し青色の糸が引っかかって残っているくらいで、ほとんどが焼けているので完全ではないようだが。
――まぁ焼く前に分かっていれば、無くなっても場所で分かるから問題はないしなぁ。そもそも、こういうこと以外で、わざわざ火元に糸を近づける状況ってそうそうないだろうし……。
そう思いながら、食べやすいようにナイフとフォークで身を分ける。
それぞれに配膳された際に串を抜くかどうかを聞かれており、俺や兄さんやアリーシア、母さんとばあちゃんは串を外してもらったのだが、父さんやじいちゃん、姉さんは串を持って直接口に運んでいる。
――父さんたちを真似してかぶりつきたかったのかな。俺もそうしてもよかったけど、さすがに大きいからなぁ……それに多分父さんにあげることになるし……。
程よい塩加減の新鮮な焼き魚はすごく美味しく、みんなも美味しそうに食べていると、アリーシアがポツリと呟いた。
「……お父さまとお母さまにも食べてもらいたかったです」
「その用意まではしていなかったな……というか、さすがに距離があり過ぎるからなぁ……」
「えぇ、分かってます」
少し困ったように言うじいちゃんの言葉に、アリーシアはそう答える。
完全に冷凍すればなんとか持ち帰れるかもしれないが、そうしたとしても鮮度が落ちてしまい、今食べているものとは別物になってしまいかねない。
アリーシアはそのあたりも理解しているようで、言葉の割には寂しそうな表情ではない。
「まぁ、今度王都の近くでも釣りが出来そうな場所を探しておこう」
じいちゃんのその言葉に、アリーシアが嬉しそうに返事をしているのを見ていると、隣から声をかけられた。
「カーリーン様は本当にキレイに食べられますね」
俺はまだ幼く、食事のときには取り分けてもらったりするために、いつも近くにはリデーナかロレイがいるのだが、今回は一緒に食事をしているので俺の隣に座っている。
そのリデーナが、俺がナイフとフォークで小骨などをうまく取り除き、キレイに食べているのをみて感心したようにそう言ってきた。
「うん。結構慣れてきたからね。魚美味しい?」
まだ手伝いが必要なときもあるので見られるのも仕方ないのだが、すこし気まずいので話題をそらす。
「はい、とても美味しいです。ありがとうございます」
リデーナの前にある焼き魚には青色の糸がついており、リデーナも俺が釣った魚だと知っているので微笑んでそう答えてくれる。
「私の釣った魚はどう?」
「えぇ。美味しいわよ」
俺たちの話が耳に入った姉さんがそう言うと、母さんがそう答える。
「今度はドラードに負けないくらい大きいの釣ってみせるわ!」
「お? エル嬢、それならまた今度勝負だな」
「うん!」
ドラードの提案に姉さんは嬉しそうに答えて、自分の釣った魚を食べて満足そうな表情をしている。
結局俺は、焼き魚の半分を父さんにあげることになったが、お腹がすいていたのもあってそれ以外はちゃんと食べきることができた。
お腹いっぱいになった夕食の時間も終わり、寝るまでは自由時間になっている。
自由時間と言っても日が落ちているので、離れて遊ぶわけにはいかないのだが。
――今日は月もキレイに出てるからそれほど暗くは感じないけど、泳ぐのは怖いし、今から走り回ったりする気はさすがに起きないしなぁ。なにより、森もあるから離れると心配かけそうだし……。
そう思いつつ、川の方へ食器を洗いに行っているドラードのところへ向かう。
「話はもういいのか?」
さっきまで森のことや、昔父さんたちが湖に行ったときの話などをしていたので、ドラードがそう聞いてくる。
「うん。一区切りついたからね」
「そうかそうか」
ドラードはそう言いながら、川から汲んだ水で食器を洗い、汚れた水を地面に掘ったくぼみに流していく。
――そのまま下流に流したりはしないんだなぁ。まぁこの川は町につながってるみたいだしな。
捨てられた直後はある程度溜まっていた水が、徐々に減っていくのを見ながらそう思う。
「……地面を固めてお風呂でも作ろうかな……」
「ぷはっはっはっは。風呂か、そりゃいいなぁ」
「んえ!? 口に出てた?」
「あぁ、思いっきりな」
月明りを反射しているくぼみに溜まった水を見て、ふと思いついたことを口走っていたことに若干の気恥ずかしさを感じながらも、ドラードに相談する。
「そう言うってことは、別に作るつもりはなかったってこと?」
「まぁなぁ。いくら安全だと言っても、こういう場所で作るという発想がなかなかな。それにこの時期なら水で冷えすぎるってこともないから、どうしても気になるときに水魔法や川の水でサッと流す程度だ」
「まぁそうだよね」
「旅の途中とかならなおさらな。魔力は温存したいし、ずぶ濡れも避けたいから湿らせた布で拭くだけとか、2、3日ならそれすらしないこともあるくらいだぞ? まぁ魔力量に問題がないなら【クリーン】とかの魔法を使うことはあるが、さすがにわざわざ風呂を作ろうとはしないな。っと、この辺りの話は、前に王都に向かう途中でもしたか?」
ドラードはくつくつと笑いながら、そう教えてくれる。
「浴槽作って水を出して、それを温めてってなると消費量もそれなりだもんね……それなら、作らない方がいい?」
「いや? 今回は何も問題ないんじゃないか? そもそもそんな危険な場所じゃないし、念のための見張りをする人数も十分いるしな」
――そっか。今回は遊びで来てるからあれだけど、普通野営をするときってそれだけ町から離れてて、町とかと比べると危ない場所にいることのほうが多いだろうし、そんな場所でいちいちお風呂なんて作らないよな……。
「まぁ作るならそのへんで作っていいぞ。あるならオレも入りたいし、みといてやるから」
「うん、分かった。ただ、どれくらいの大きさで作ろう……屋敷にあるサイズだと大きすぎるよね……」
「まぁなぁ。それに今回はアリーシア嬢もいるし、ライ坊はカレアと入らないだろうし、3人分くらいのを2つ作ればいいんじゃないか?」
――しれっと複数作るように言ってきたけど、ドラードは俺の魔力量なら問題ないと知ってるし、土魔法が十分うまくつかえるのも知ってるからいまさらか……。
そう思いつつドラードの言葉に同意して、どんなふうに作るか考える。
――水を張って、火魔法をぶち込むのが手っ取り早い? いや、火力次第では爆発しそうだし危ないか? それに熱すぎるなら水を入れるだけだけど、ぬるくなったときに調節が面倒か? そうなると、別のところにお湯として貯めておいて、流し込んで調節がいいかな?
どうしようかと悩んでいる俺の姿を、ドラードが食器を洗いながら微笑ましい表情で見ていた。
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