197.休憩
台車から荷物を降ろして必要なものをテントに運ぶのを手伝い、ひと段落したところで子供たちは遊んでもいいと許可を貰った。
しかし、移動してきてすぐにテントを張ったり、荷下ろしを手伝ったりしたうえ、もうすぐお昼ご飯の時間ということもあり、遊びには行かずに近くで話したりして休憩するようだ。
主に休憩が必要なのはアリーシアで、その話し相手に姉さんが付き添い、兄さんはそのまま両親と荷下ろしを手伝っているので、暇になった俺はドラードのところへ向かった。
「何か手伝うことある?」
調理用に作ったらしき机にマジックボックスを乗せ、中身を出しているドラードにそう聞く。
「お? そっちはいいのか?」
「自分たちのは終わったから、遊んでいいって言われたけど、もうすぐお昼でしょ?」
「はは。まぁそうだな。それじゃあ、みんなが座れる机を作ってくれるか?」
「うん。分かった」
そう言って近くに机を魔法で作り出す。
人数分の椅子も作り終わってドラードの方を見ると、ドラードも土魔法でかまどなどを作っていた。
「そこまでしっかりあると、もう立派な調理場だよね……屋根はないけど」
前に俺が作ったようなコの字型のかまどに加え、パンなどを焼くような石窯まで作ってある。
「はは。カー坊には言われたくないなぁ。今はあれくらいのサイズだが、そのうちさらに大きいものが作れるようになれば、もうテントというより小屋とか建物だろう?」
ドラードの視線の先には、さっき俺が魔法で作った石のテントがある。
――まぁあの石のテントを作っただけじゃ魔力の消費を感じられなかったから、今でももっと大きいのは作れそうだけど……。
「……父さんたちと旅をしてるころも、こんな感じで料理してたの?」
「うぅ~ん。場所によるなぁ。火を恐れる獣は寄ってこないが、料理の匂いにつられて寄ってくるモンスターもいるしなぁ。今回のように安全な場所だと分かってるときは、こんな風にしてたときもあるが」
「それは街道の付近とか?」
「そうだな。まぁ匂いにつられてくるのはモンスターばかりじゃないから、目立ってたときもあるが」
「そりゃそうだろうね……テント代わりの建物すら魔法で作る冒険者はあまりいないって言ってたのに、こんな石窯まで作ってたら目立つよ……」
「ははは。まぁな」
ドラードはそう言って笑いながら、必要なものを取り出し終えたマジックボックスを抱える。
「さて、そんじゃあ、できるのはもうすこし後だから、カー坊もエル嬢たちと休憩してきな」
「は~い」
ドラードがそう言うなら、邪魔にならないようにとそう返事をしてその場を離れる。
チラッと両親の方を見ると、荷下ろしはもう終わったようで、テントの中に寝具を敷いているようだった。
寝袋などもありはするが、この時期だと暑いので使わないことも多いらしく、代わりに下に敷く用のクッション性のあるマットのようなもの使うこともあるらしい。
今回もそういう敷物をこの人数分持ってきていたのだが、マジックボックスに入れているものもあるので、見た目的にはそこまで大荷物にはならなかった。
――ドラードも結構道具を持ってきてたし、その分の重さはしっかりとあるはずなんだけど、さすがシラヒメってところかな。そうだ、時間はあるしシラヒメに魔力をあげようかな。
そう思った俺は、シラヒメがいる木の近くに向かう。
「シラヒメ、おつかれさま」
『ううん。私は平気だよ』
木陰に用意された水桶から顔をあげたシラヒメはそう答える。
「そっか。さすがシラヒメだね」
『もうやることは終わったの?』
「まぁ俺はね。だからシラヒメに魔力をあげようかなと」
『ほんと!? やったあ!』
シラヒメはロープなどで繋がれているわけではないので、俺の近くまで駆け寄ってきて頭を擦りつける。
「あはは。ここは広いし、またあとでみんなで遊ぼう」
『うんうん!』
そんな話をして、俺はシラヒメの頭に触れて魔力をあげていると、姉さんとアリーシアが近づいてきた。
「魔力をあげてるの?」
「うん。暇になったからね。アリーシアさんはちゃんと休めた?」
「うん。それでカーリーン君が見えたから、何しているのかなぁと思って」
「シラヒメに魔力をあげる約束をしてたからね。休憩ついでにと」
「それって休憩になってるの……?」
姉さんは魔法が苦手ではあるが、魔力を流すこと自体はできる。
しかし、俺と違ってかなり集中しないとできないからか、そう聞いてくる。
「なってるよ。ここは日陰で涼しいし」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけど……」
「カーリーン君はさっきも魔法でテントを作ってたし、本当にすごいね」
アリーシアが感心したような表情でそう言ってくるので、すこし気恥ずかしい。
「こ、このあたりは広いからシラヒメとも遊べそうだし、あとで遊ぼうって言ってたよ」
「そうね。この付近は安全だし、思い切り走れるような広さもあるものね」
「……"この付近は"って言うってことは、姉さんはもっと奥まで行ったことあるの?」
「えぇ。お兄ちゃんと一緒にだけど」
「危なくないの……?」
「私やお兄ちゃんならなんともないわよ。カーリーンは分かると思うけど、この前狩ってきた大きいウサギもこの先の森で狩ったものだしね」
「ここまで来るのに結構時間かかったけど、さらに奥まで狩りに行ってたんだ……?」
「何言ってるのよ。今日は荷台もあったし移動はゆっくりだったけど、いつもは今日の倍以上の早さで移動してるのよ?」
――たしかに今日は俺やアリーシアも最初は歩いてたし、デコボコ道を荷台を曳いてきたからゆっくりだとは思ってたけど、普段はそんな速度で移動してるのか……まぁあれだけ身体能力が高ければ余裕か。
そう思いながら話を続ける。
「と言うことは、兄さんや姉さんはこの辺りは結構きたこともあるんだよね?」
「えぇ。あるわね」
「アマリンゴの木は見つけたことは?」
「あっ! そういえばないわね……」
今回のキャンプのきっかけとなった話をすると、姉さんは思い出したかのようにハッとする。
「探しにいきましょ!」
姉さんはそう言って俺とアリーシアの手を引っ張る。
「わっ!? ちょ、ちょっと待って。今からじゃなくてもいいんじゃない? 今日はここに泊まるんだから時間はあるんだし」
「……それもそうね」
「それに子供だけで森に行かないように言われたでしょ」
「私なら平気よ?」
「姉さんは平気でも、俺やアリーシアさんは違うよ……森なんて滅多に行かないんだし……」
これだけ森に近い俺ですらこうなのだから、王都に住んでいるアリーシアが森での行動に慣れているわけがなく、急に森へ引っ張って行かれそうになって驚いた彼女は、無言で俺の言葉に同意して頷いている。
「まぁもうすぐお昼ご飯だから、そのときに父さんたちに言ってみよう? それにほら、シラヒメと遊ぶのもそうだし、湖や川で泳いだりもするんでしょ?」
「そうね。やりたいことがいっぱいあるわね……」
姉さんは"何からやろうかしら"とつぶやきつつ考えている。
その表情は悩んでいるというよりも、どれも楽しみにしているような表情で、ワクワクしているようだ。
そんな話をしていると、お昼ご飯の用意が出来たようでみんな集まった。
到着してから調理をする時間は無いと分かっていたのか、あらかじめ屋敷で下ごしらえをしていたものを使ったらしい。
夜の分は、ドラードが作った石窯も使って料理すると言っており、その際に"魚を釣ったらそれも料理してやる"と言われ、姉さんはやりたいことが更に増えたからか、食事中は静かに考えながら食べていた。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!
※お知らせ※
ツギクルブックス様より、「異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!」の第1巻が発売中です!
どうぞよろしくお願いいたします!