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196.テント

 荷台で揺られながら話をしていると、木々の間を抜けてそのまま少し移動し、父さんの声がするのと同時に止まる。


「さぁ到着したぞ」


 その声を聞いて前の方を見ると、広い湖が見えた。


「わぁ! キレイね」


 アリーシアも俺と同じようにして湖を見たようで、横からそんな声が聞こえる。


 荷台から降ろしてもらった俺とアリーシアはみんなのところへ向かい、俺たちが合流したのを確認した父さんが口を開く。


「さて、このあたりが今日泊まる場所だ。道中にも言ったが、森には獣もいるから1人で勝手に入らないようにな」


 その言葉に返事をして、まわりをみる。


 湖の周りには点々と木が生えていたりするが、森自体からはある程度距離があり、急に襲われるような心配はなさそうだ。


 ――まわりにある木の下とかは陰になってて休憩にちょうどよさそうだし、いい場所だなぁ。


 視界一杯に広がる、日の光をキラキラと反射している湖を眺めながらそう思う。


「さっそく泳ぎましょ!」


「まぁ待て待て。まずはちゃんとテントを張る場所を決めて、荷物を降ろしてからだ」


 そう言われた姉さんは、唇をとがらせながらもいい場所がないかと周りをみる。


「あ。あそこでいいんじゃない?」


 姉さんがそう言いながら指さした場所には、湖の周りにある他の木と比べると大きな木が生えており、その周りはほどよく平らになっている。


 ――木かげから湖の様子をみられるような距離だし、森からもしっかり離れてるからちょうど良さそうだなぁ。近くに川もあるからあっちで涼むのもよさそうだ。


「そうだな。あそこにするか」


 父さんも同じように思ったようで、そう言って移動したあと荷物を降ろし始める。


 今回は馬車がないので、子供たちもテントで寝る予定だ。


 そのためドラードとリデーナは1人用のもの、両親とじいちゃんばあちゃんは2人用の広いテントをそれぞれが使い、同じくらいの大きさのものを子供たち用に2つ持ってきていた。


「えっと、こっちを引っ張って、こっちを広げてたっけ?」


「違うよエル、そっちを引っ張るんだよ」


 今回のキャンプは野営の練習という面もあるので、両親が教えながら自分たち用のテントを設営し、そのあと兄姉が教わりながらテントを張っていく。


 ――こういうテントの張り方なんて知らないからなぁ……興味はあったから少し調べたことはあったけど、結局そんな機会はなかったから覚えてないし……。


 前世の記憶を思い出していると、そのときに知ったことで気になったことがあったので父さんに聞いてみることにした。


「場所はここでいいの?」


「うん? どうしてだ?」


「いや、木が近いから倒れてきたら危ないかなぁと……」


「ははは。大丈夫だ。さっき見てきたらあの木はまだまだ元気だしな」


 父さんはそういって俺の頭をワシワシとなでる。


 ――それなら倒れる心配はないか。上の枝が落ちて来ても大丈夫なくらいには離れてるし。雨は降らないらしいから水害の方は心配しなくてもいいしな。


 そう納得して、テントの準備を手伝えるように兄姉に近づく。


「ここを固定すればいいのね?」


「うん。出来たら教えて」


 そう言われた姉さんは、地面に固定した杭にロープを縛り付け、兄さんに合図を出している。


 ――この地面に固定するための杭とかも魔法を使えば少しは楽にできるかな? というか、建物とまではいかなくても、このテントくらいのサイズであれば魔法で作れるのでは?


 兄姉が作業しているのを見ながらそう思った俺は、再び両親のもとへ向かう。


「あら? 今度はどうしたの?」


「魔法であのテントくらいの大きさのものを作ってもいいかなって」


「それはいいけれど……」


「そういうことする人はいなかったの?」


 どこか返答に困っている様子の母さんにそう聞いてみる。


「いないことはないわ。でも普通の野営時って警戒もしなきゃいけないし、戦闘になった際に魔力はあった方がいいから、あまりやらないのはたしかね」


「魔法使いとしては体力を温存できるし、いいこともあると思うんだけど」


「うふふ。そういうときもあるだろうけど、テントを張るくらいの体力が気になるなら、そういう場所にはいかないと思うわ」


「たしかに……野営するような場所での活動してるなら体力はあるだろうし、それくらいは気にしないか……」


「まぁやってみたいなら作ってみてもいいわよ。カーリーンなら魔力量は問題ないし、こうやってちゃんと聞きに来てくれるから安心できるわ」


 ――まぁ急にやらかして驚かれたりするのも気まずいからなぁ……。


 そう思いながら返事をして兄さんのところへ向かう。


「ねぇ兄さん。母さんに魔法でテントを作る許可を貰ったんだけど、どのあたりなら邪魔にならない?」


「うぅ~ん。正面なら平気だよ」


 今まで机やボールなども作っているからか、俺が魔法でテントを作ることに驚くこともなくそう答えてくれたので、返事をして兄姉が張っているテントの入り口から少し離れた場所でしゃがむ。


 ――さて、形はあんな感じか……いや、別に四角くてもいいか? 内装は何もなくていいかな。あ、一応ランプが置けるくらいの棚は作っておくか。


 構想が決まったので、地面に手をついて【ロッククリエイト】と唱える。


 今まで作ったものの中では一番大きなものではあるが、王都のナルメラドの屋敷で作った机も十分大きかったのでそこまで差はない。


 ――うん。まぁ見事な豆腐ハウスだな。


 出来あがった、土でできた真四角のものを見ながらそう思う。


「カーリーン、何作ったの?」


 俺が魔法を使ったことで興味津々な様子で姉さんが近づいてきた。


「テント――いや、今日寝る場所?」


 日の光や雨風を遮るという意味ではテントでも合っていると思うが、土魔法で作ったのでそう言いなおす。


「へぇ~。これならみんなで寝られそうね!」


 姉さんが中を覗き込んで嬉しそうにそう言ってくる。


 大きさ自体は両親用のテントを見て作ったので、高さは大人が中腰で入れるくらいなのだが、こっちは四角いため内部空間が広く感じられる。


 扉までは作っていないのであとから布などを設置する必要はあるが、壁には風や日の光を取り入れるための窓も作っているので、薄暗くて息苦しい感じもしない。


「強度は十分なようだな」


 父さんはテントの裏にまわり、壁部分などをグッと押したあとにそう言ってくる。


「耐水性はちょっとわからないけど、雨は降らないって言ってたし、頑丈に作ったつもりだよ」


「これだけ薄いのに、十分に硬いしな」


「そんなに薄い?」


 俺としては薄すぎるのはちょっと不安で、それなりに分厚くしたつもりだったので、父さんの言葉に聞き返してしまう。


「あー、いや……昔、カレアも同じように作ろうとしたことがあってな?」


「土魔法が苦手な母さんが……?」


「あぁ……屋根にするだけならまだいいんだが、今回のカーリーンのように作ろうとした結果、頑丈なんだがものすごくぶ厚い壁でなぁ……外から見たらこれくらいなんだが、内部は1人寝られるかどうかっていうくらいになってたなぁ」


「砦とか即席の防衛基地をつくるのにはよさそうだね……」


「はっはっは。まぁたしかにそれで助けられたときもあったからな」


 父さんとそんな話をしているとテントの入り口の方から、少し照れているような母さんの声が聞こえる。


「もう! 今はその話はいいのよ。それより、中は広くて棚もあるし、なかなか快適そうねぇ?」


 ――なんか秘密基地を紹介してる気分になって少し気恥ずかしいな……構造を考えたのは俺だし、内容的にはそんなに差はないんだけどさ……。


 結局俺の作った土のテントでも寝る許可がもらえたので、子供たちのテントは1つだけ設置して、寝る場所の用意が終わった。

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