195.移動
翌朝、リデーナに起こされてそのまま着替えを手伝ってもらったあと、リビングに向かうと姉さんたちもすでに席についていた。
こういうときの姉さんがスッキリ早起きなのは分かっているので、そのことには触れず「おはよう」と挨拶をして、自分の席に座る。
「今日は天気もいいからよかったね」
「ははは。まぁ数日は大丈夫だと思うぞ。すくなくともキャンプ中に天候が崩れることは無いだろう」
全員が揃ったことで朝食の準備がされ、今日の話をしながらみんなで食べる。
食べ終わって少し食休みをし、みんなで出かける準備を始めた。
といってもすでにドラードとリデーナが、小さめな荷台にテントや食材の入った箱を積み込んでいたので、ほとんど準備は終わっていたのだが。
父さんも準備を手伝っている中、子供たちは母さんと一緒にシラヒメを迎えに厩舎へ向かう。
「おはよう、シラヒメ」
『うん。おはよう』
「今日は泊りでキャンプに行くんだけどさ、荷台を引いてもらいたいんだけど……」
『いいよ~。昨日の夜、君のお父さんから聞いてるよ』
シラヒメの言葉は俺にしか分からないが、動きで是非が分かるので軽い意思疎通はできる。
「そっか。それなら話は早いや。よろしくね」
そう言いながら撫でると、シラヒメは『うん!』と嬉しそうに返事をする。
俺に続いて姉さんやアリーシアにも撫でられ、上機嫌のシラヒメを連れて玄関先に向かう。
『これを曳けばいいの?』
「うん。お願いね」
テントやある程度の調理器具、さらにそこに10人分の食料もあるのでそれなりに多い。
しかし水や机などは魔法で用意できるので、人数のわりには少なく感じる。
――これなら父さんとかじいちゃんなら普通に曳けそうだもんなぁ。まぁせっかくだからシラヒメとも遊びたいし、一緒に行くなら曳いてもらった方が楽だしな。シラヒメは馬車や荷台を曳くことを楽しんでるようだし。
荷台を曳くように準備されているシラヒメは、尻尾を振りながら嬉しそうに見えるので思う。
「よし、それじゃあ出発するか。今から向かえば昼頃には着くだろう」
父さんがそう言うと子供たちが返事をする。
「モンスターが出ない森とはいえ、獣はいるからあまり気を抜くなよ。まぁ前には俺、うしろにはドラードもいるから、遭遇したとしても落ち着いてカレアか義母上の近くにいるように」
父さんとじいちゃんは剣を腰に携えており、それをポンッと叩いて主に俺とアリーシアに向けてそう言う。
「疲れたらシラヒメか荷台に乗ってもいいが、せっかくだからできるだけ自分の足で森を歩くようにな」
「うん」
「はい」
そもそも兄姉は保護者無しでこの森に入ることを許可されているので、この言葉は自分たちに向けられたものだと察した俺とアリーシアが返事をすると、父さんはニカッと笑う。
「それじゃあ、今度こそ出発だ」
そう言って父さんが前を歩き始めるので、みんなで並んでついて行く。
屋敷の門を出て歩いて行くと、森の中へ入る道が見える。
しかし昨日父さんが言っていたように、整備されている道ではないので結構デコボコしている。
それでも小さめな荷台が通るには十分な道幅もあり、それだけの幅もあるので薄暗いということはない。
「ずっとこんな道が続いてるの?」
「今日の目的地まではそうだな。村の方から入る道もこんな感じだ。まぁさらに奥になるともっと狭くなるが」
――農道って感じの道だし、猟師や山菜とか、それこそアマリンゴとかを取る人がいるから道ができたのかな? まぁなんにせよ、思ったより移動しやすそうでよかった。それに動きやすい服装でいいとはいえ、森の中に行くんだから長袖の方がいいかと思ってたけど、半袖でいいって言ってた理由もこれか。
デコボコではあるが、草木が肌に触れそうな位置にはない道を歩きながら、そんなことを考えつつ父さんの近くを歩く。
俺やアリーシアの身体能力を考慮してかその速度は早くはないので、歩きながら話をしても平気そうだ。
「湖って大きいんですか?」
「うちの屋敷の敷地よりもっと大きいな」
「そんなに大きい湖なんですね!」
王都からあまり出ることのないアリーシアは、その湖を想像してウキウキとした様子だ。
――そういえば俺も湖は見たことないな……王都へ向かう道中にもなかったし。ということはアリーシアさんも見たことはなさそうだな。
そう思っていると、少しうしろを兄さんと歩いていた姉さんが、横に並んで話しかけてくる。
「そうだわ。暑いし、みんなで泳ぎましょうよ」
「え、で、でも私は湖を見たことすらないから、泳ぐなんて……」
「大丈夫よ、私が教えてあげるわ。それに気持ちがいいわよ?」
「姉さん、森でそんなことしてたんだ……」
「あの辺りは安全だし、獣くらいなら素手でもなんとかなるもの。カーリーンにも泳ぎ方教えてあげるわね」
――前世を含めても泳ぐなんてどれくらいぶりだろうか……溺れたら大変だから気を付けなきゃ……。
そんな話をしつつ歩いて行く。
日が真上に近づくにつれ気温も上がり、それだけの時間を歩いたからか、アリーシアの息が少しあがってきたように見える。
父さんたちの普段の移動速度を考えると遅めではあったが、まだ小さい俺やアリーシアがこれだけの時間ついて行くと疲れはする。
「荷台に乗ってもいい?」
整備されていない道ということもあり、俺も多少の疲れを感じていたので父さんにそう言う。
「あぁ、いいぞ。もう少しで着くから、到着まで荷台で休むといい。アリーシアも一緒にな」
俺の言葉を聞いて振り向いた父さんは、近くにいるアリーシアを見て察したようで、微笑みながらそう言ってくる。
兄姉はそのまま父さんたちと話しながら歩くようで、俺とアリーシアだけで向かう。
「シラヒメは――疲れてはないよね」
『うん。こうやって歩くだけでも楽しいよ』
「そっか。目的地に着いたら魔力をあげるね」
『うん!』
途中でシラヒメとそんな会話をしてから、荷台のうしろへ向かう。
シラヒメより前には両親とじいちゃんばあちゃんと子供たち、後にはドラードとリデーナという順番で歩いていた。
「お? さすがに疲れたか? 抱いて歩くか?」
ドラードと目があうと、いつもの調子でそう話しかけてくる。
「いや、いいよ。ドラードは周囲の警戒があるでしょ? 手がふさがらない方がいいじゃん」
「はは。カー坊を抱いてたところで何の問題もないがな」
「まぁ、そうだろうけどさ……荷台に乗せて」
移動している荷台に自力で乗るのはまだ難しいので、素直にドラードにお願いする。
「はいよ」
「アリーシア様は私が」
「ありがとうございます」
そう言ってドラードとリデーナに抱き上げてもらう。
荷台の後部は俺たちが乗る可能性があったからか荷物もなく、縁に腰かけるように座ることができた。
「ドラードたちは何の話をしてたの?」
「ん~特にこれといって面白い話はしてないぞ? 狩りに行ってもいいかとか聞きゃ、フェディに聞けって返ってくるし」
「そりゃそうだよ……」
「カー坊たちは?」
「湖に着いたら泳ごうって話とかしてたよ」
「泳げるのか?」
「姉さんがね。多分兄さんも泳げるだろうし、俺とアリーシアさんは湖とか初めてだから、教えてもらおうかと」
「はは。それはいいな。泳げるにこしたことはないしな」
「まぁ泳げなかったとしても、水浴びってだけで涼しくて気持ちいいだろうし」
「それはそうだ」
冷却の魔法を使っている母さんの近くにいたからあまり気にならなかったのだが、いざ離れてみると結構暑い。
――うん。こういうときに使えると快適だから、涼しくする魔法を母さんに教えてもらおう。正確には使えはするから許可を貰う感じになるか。
そんなことを考えつつ、ドラードたちと話をしながら目的地まで向かった。
アリーシアはドラードの料理が気に入っているのか、「お昼も楽しみにしています」と話をしていた。
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