194.明日の予定
体力づくりの時間が終わり、俺とアリーシアは母さんたちがいるところへ戻る。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
最初に一気に体力を使ったアリーシアは、今はヨロヨロと息を整えながら歩いている。
「ちゃんと最後まで走れて偉いわよ、アリーシアちゃん」
「は、い」
アリーシアは肩で息をしながらなんとか返事をし、魔法の練習をするときに座っていた椅子に腰かけると、受け取ったタオルで汗をぬぐう。
――俺だったら、あれだけ疲れてたらテラスの床板に倒れ込むようにダウンしちゃうだろうな……いや、俺は男だしまた違うか。姉さんは……俺と同じことをしてたな……。
実戦的な全力の稽古のあとの姉さんを思い出し、そんなことを考えながら床板に腰かける。
受け取ったタオルで汗をぬぐっていると、もう次の準備をしている兄姉の姿が目に入った。
兄姉の走る距離は俺たちより長かったのだが、先に走り終わって小休憩すらも終わり、今は素振りの準備をしているようだ。
「……エルやライお兄さまの体力はすごいね……あんなに速く走ってたのに、もう素振りをしてるんだもの……」
息が整ったアリーシアがそう言ってくるころには、兄姉は素振りを始めていたので、それを見ながら「本当にね~」と返事をする。
「あ、カーリーン君も同じだけ走ってたのに、私より全然疲れてないからすごいと思うよ?」
「いや、さすがに結構疲れてはいるけどね……アリーシアさんこそ、最後まで頑張って走り切れてすごいと思うよ」
体力づくりのときは、壁までを往復するので実際の距離は分かりにくいが、それなりに走っているのはたしかだ。
感覚的には、前世で小学生のころにやった持久走よりは走っているとは思うので、最初に思いっきり走っていたにもかかわらず、最後までちゃんと走り切ったのは本当に偉いと思う。
そんな保護者目線のようなことを思っていると、アリーシアが口を開いた。
「だって、今回は森へ行くんでしょ? それだけの体力はあるって見せたかったんだもの」
アリーシアはそう言って母さんの方をチラッと見る。
「ふふふ、そうね。大丈夫だと思うわよ」
――去年きたときにそういう約束もしてたなぁ。まぁあれだけ走れるなら大丈夫だろうし、あのころはまだ俺が走ったら転んだりしてたから、それが森へ行かなった理由として大きいだろうし。
母さんから許可がもらえたことで、喜んでいるアリーシアを見ながらそう思う。
ある程度休憩も終わった俺とアリーシアは魔法の練習に移り、いつもの稽古を終えたあと、のんびりと屋敷で過ごした。
夕食も終わり、みんなで話をしていると明日の予定の話になった。
「アリーシアも十分体力はあるようだし、明日は前に言っていた森へ行こうか」
父さんがそう言うと、姉さんがすぐに「うん!」返事をして、アリーシアに話しかける。
「楽しみね、アリーシア」
「うん!」
「それで、最初は日帰りでのピクニックのつもりだったが、1晩泊まるキャンプにしようかと思うんだ。これはカレアと決めたんだが、どうだ?」
「いいんですかっ!?」
父さんの提案を聞いて、アリーシアが驚きながらも嬉しそうにそう聞き返す。
「あぁ。アリーシアもカーリーンも十分体力があるように思うが、帰りの分の体力を温存してたりしたら楽しめないだろう? まぁ帰りは俺や義父上もいるから、抱いて帰ってもいいんだが」
「いえ! 前にエルから野営の話を聞いて、楽しそうだなぁって思っていたので嬉しいです! 私は野営はしたことがないので……」
「まぁ道中は、可能なら宿に泊まったほうが安全だからなぁ。だが今回は北の方の森で、野盗どころか、危険性の高いモンスターもいない。それに俺たちもいるから安心して楽しむといい」
オルティエンにくる道中は必ず宿に泊まっていたらしく、父さんの言葉を聞いたアリーシアは目を輝かせて返事をしている。
――じいちゃんがいるなら野営も可能だっただろうけど、安全な宿に泊まれるならそれに越したことは無いもんな。それに今回向かう北の方の森は、兄さんたちだけで入っても大丈夫なような場所だし、南西に向かう街道よりよっぽど安全か。
そう思いながら、父さんの説明の続きを聞く。
「一緒に行くのは、俺たちのほかにはドラードとリデーナだな。あとテントとかの荷物もあるから、小さな荷台をシラヒメに曳いてもらおうと思っている。さすがにあの馬車がまともに通れるルートでいくと、かなり遠回りになるからな」
「小さな荷台くらいなら通れるような道があるんだ?」
「あぁ。まぁ整備しているわけじゃないからキレイではないがな」
「ちょっと大きな獣道って感じ?」
「そんなところだ。まぁそれでも草むらの中を歩かなくていいから楽だな」
父さんはそう言って笑う。
――たしかにそういう道があるなら歩くのも楽かな。兄さんたちはともかく、俺とか下手したら草で半分くらい見えなくなる可能性もあるし……。
町のそとの風景を思い出しながらそう思っていると、じいちゃんが口を開いた。
「目的地はどのあたりにするのだ?」
「手前の小さい方の湖だな」
父さんが答えると、じいちゃんが納得したように「あぁ、あそこか」と言って小さく頷く。
「奥の方になると、モンスターが出る可能性もあがるからな」
――そういえば前に、境界線のように開けた場所があってそこにも湖があるって言ってたっけ。兄さんたちはその境界線まで許可されてるみたいだけど、俺やアリーシアさんも一泊するからその手前の方がいいか。
「大丈夫よ。モンスターが出ても私が守ってあげるわ」
「それは可能だろうが、遊ぶどころじゃなくなるかもしれないぞ?」
「そ、それは嫌……」
自信満々な姉さんだったが、父さんの言葉を聞いて大人しくなる。
「ははは。まぁ安心しろ。王都へむかう道中より安全な場所だし、さらに義父上たちもいるからな。何がきても大丈夫だ」
父さんの言葉を聞いて、姉さんと一緒にアリーシアも安堵したような表情を浮かべる。
「あ! あの湖ならお魚もいたけど捕れる?」
「お、そうだな。釣りの道具も持っていくか」
「魚釣りもしたことがないから、楽しみ!」
姉さんの提案に父さんが同意し、それを聞いたアリーシアがさらに目を輝かせている。
「さて、それじゃあ明日はその予定で決まりだな。森での注意することとかは、また明日の朝か道中に説明する。服装はまぁ動きやすいものの方がいいが、別に運動服じゃなくでもいいからな」
父さんの言葉を聞いて、俺を含む子供たちが返事をする。
「朝早くから向かうわけじゃないが、ちゃんと休んでおくようにな」
「は~い。アリーシア行きましょ」
「うん。おやすみなさい」
姉さんがそう言ってアリーシアの手を引き、自分の部屋に向かう。
前回もそうだったが、アリーシアが遊びに来ているときは一緒に寝ることが多くなったおかげで、俺が抱き枕になる回数も減る。
しかし、俺は自分の周りを涼しくする魔法が使えるからか、夏になって暑くなったにも関わらずよく一緒に寝ている。
――冬場は一緒に寝ると温かいから分かるんだけどなぁ。まぁ姉さんにはバレないように調整してるつもりだけど……そろそろ母さんに教えてもらえるように言ってみるか。明日は到着したあと時間もあるだろうし。
そう思いながら、俺もみんなに就寝の挨拶をしてから自室に向かう。
ちょうど姉さんの部屋の換気などを終えたリデーナに会ったので、俺の部屋もやってもらい、少しだけいつもの魔法の練習をしたあと、すぐに眠りについた。
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