192.イヴとステラ
誤字報告等もありがとうございます!非常にたすかっております!!
「まぁ起きちゃったものはもうどうしようもないし、それはまたあとで考えるとして……キミが話したかったことってステラ関係?」
気を取り直したように顔をあげたイヴがそう聞いてくる。
「そうだね」
「もしかして、"天界に戻すように伝えて"とか言われた?」
「いや? 俺もそれは聞いたんだけど、今はいいってさ」
「え? そうなの?」
イヴはキョトンとした表情で首をかしげて、他の理由を考え始める。
「怒ってないみたいだったから、文句の言伝じゃないだろうし……なんだろ……」
「最初は"覚えているか"ってだけだったんだけどね。それで、ステラさんからの伝言なんだけど……"弟を下さい"だってさ……」
「えぇ?」
ステラからの伝言は、イヴにとっても予想外すぎたらしく、理解できていないようなポカンとした表情でさらに首をかしげる。
――まぁそういう反応になるとは思ってたよ……。
「うん? ボクの聞き間違いかな? ステラが弟を下さいって言ったの?」
「うん。そうお願いしてくれって」
「え、なんで?」
そう聞かれたので、妹がいることやステラの現状、そして弟が欲しいと願った理由を話した。
「……なるほどねぇ……そこまで馴染んでるんだ……」
「みたいだよ」
「うぅ~ん。まぁライチにお願いするくらいならしてもいいかな」
「え、いいんだ?」
「まぁ跡取りって問題を解消できるかは本人次第だし、そもそも確約できるものじゃないけどね。ちょっと待ってね」
イヴはそう言うと手を耳に当てて目を閉じる。
おそらく生命神様に連絡しているのだろうと思ったので、その姿を黙ってみているとすぐに目を開いた。
「うん。オッケーだって」
「そんな簡単に……」
「"子宝に恵まれますように"とか、そういう祈りもあるからね。さっきも言ったけど、ライチに頼んだからって、そういうことをするかしないかまでは干渉しないから、確実に叶えられるわけじゃないし。まぁキミの両親だったら――」
「あぁ~!! 分かった分かった。この話は終わりにしよう……俺の周りのことはよく見ることがあるからって、そういう情報を俺に言うのはやめてください……」
「あははは、ごめんね」
そう言って無邪気に笑うイヴをみて、軽くため息を吐いて話を変える。
「まぁそれじゃあ、イヴに会えたことと、伝言を伝えたことをステラさんに伝えなきゃ」
「いつ会うの?」
「今日も教会の前にきてたから、戻ったらすぐかな?」
「あ、それじゃあボクも行くよ」
「え……いや、まぁ、イヴがいいなら問題はないか」
まさかイヴがついてくるとは思っていなかったので困惑するが、よく考えると問題はないどころか、その方が都合がいいまであることに気がついたのでそう答える。
イヴが俺の言葉に「うん!」と元気よく返事をすると、視界が真っ白に染まる。
「それじゃあ、行こっか」
教会に戻ってきた感じがして目をゆっくり開けるのと同時に、そう言うイヴの声が聞こえて軽く手を引かれる。
お祈りをする広間にはいつも神父さんかシスターさんがいるので、急にイヴが現れたことで変に思われないか心配したが、何も言われることなく挨拶をして教会を出ることができた。
――認識阻害とかそういう力は使えるみたいだしな……というか、創造神なんだからバレたらバレたで、悪いようにはならないか。大騒ぎにはなりそうだけど。いや、神像とは違うからバレはしないか。今は少女の姿だし不思議に思われる程度だろうな。
そう思いながらステラが待っている木の下に向かっていると、ステラもこちらに気がついたようだが、イヴが一緒にいるので不思議そうな表情で見ている。
「……えぇっと……?」
話ができる距離まで近づくと、ステラが"だれ?"という風にイヴを見る。
「あ、えぇっと――」
「あはは、ステラ、あなた可愛くなったわね?」
俺がイヴのことを説明しようとしたときに、イヴが笑いながらそう言う。
「なっ!? え!? この感じ! イヴラーシェ!?」
ステラはイヴの神気を感じ取ったのか、俺が紹介するまでもなく正体が分かって目を見開く。
「――って! あなたにそんなこと言われたくないわよ! 前はおじいちゃんだったじゃない! あなたも似たようなものよ!!」
「あはははは。たしかにそうだね。キミたちとこうやって話すには、この方が違和感ないでしょ?」
「それはそうだろうけど!?」
――もっと険悪な感じになるかもと思ってたけど、仲がよさそうな感じで安心した……。
イヴの姿はステラよりも少し年上に見えるくらいなので、なおさら可愛らしいと思える言い合いを見ながらそう思っていると、ステラがこっちに話を振ってくる。
「イヴラーシェと一緒ってことは、伝言は話したのよね?」
「う、うん。それで会いたいって言うから一緒にきたんだけど」
「ちゃんと聞いてるし、ライチにお願いはしたよ。まぁステラの両親次第にもなるけど」
「そこは大丈夫よ」
「あと、自分が嫌だからって、無理矢理みたいなのはやめてね?」
「それくらい分かってるわ。ルナも結婚するって言うなら……止めはしないわ……」
ステラは苦渋の決断でもしたかのように、苦々しい表情でそう言う。
――もしかしたら、弟も大好きになる可能性もあるしな……それにしても"そこは大丈夫"なんてそんな自信をもって言えるのか……いや、そこは考えないようにしよう……。
苦笑しながらそう思っていると、イヴが一息ついて真面目な表情をする。
「ステラ、ごめんね」
「な、なによ急に……」
「こっちで邪神扱いされてたから、教会に近づけないっていう可能性を失念していたの」
「……べつにいいわよ。そういう罰なんだろうし」
「ありがとう。でも罰というより、あなたには人間のことをもっと知ってほしかっただけなんだよ。まぁ……現状を見る感じ十分すぎるくらい馴染んでるみたいだけど」
イヴはステラを見ながらそう言って、優しく微笑む。
「そ、そういう顔で見ないでくれる!? ま、まぁ今は幸せに楽しく過ごせてるし、そういう意味では感謝すらしてるわ」
ステラはイヴの視線がむずがゆくなったのか、自分の言葉に対する照れ隠しからか、そう言って目をそらす。
そんなステラの言葉を聞いて、イヴは「そっかそっか」と言って幸せそうな笑顔を見せる。
「ステラが望むなら天界にも――」
「今はいいわ! ルナがいるんだもの!!」
イヴの言葉を遮って、ステラは食い気味にそう言う。
「だ、大丈夫だよ? さすがに人から生まれてる今のステラを、すぐにどうこうしようとは思ってないからね?」
「そ、そう。それならいいわ」
ステラは心底安心したようにホッと息を吐く。
「あは。そんなに妹が好きなんだねぇ。うんうん。本当に馴染んでて安心したよ」
「別にいいでしょ!? それよりも天界で思い出したんだけど、カーリーンが別世界からの転生者って話は……」
「うん。本当だよ?」
「死んだらまずいことになるのに、魔法適性くらいしかあげてないなんて」
「いやいや、魔力量は本人の頑張りでものすごい量にもなってるし、守るって意味なら両親とかもすごく強いからね?」
「そりゃあ、ここの領主は強いし、あの護衛――いや料理人だっけ。あの人もいるけど……」
――両親もドラードも神様たちにそう言われるほどなのか……。
「なにか思うところがあるなら、ステラが助けてあげてね?」
「もちろんよ。今回の件のお礼もあるし、何かあったら言いなさいよ?」
「今のところそういう状況になるとも思えないけど……まぁ何かあったらそうするよ」
苦笑しながらそう答えると、ステラは満足そうに頷く。
「ステラも今後は教会にも来てほしいな。そうすれば話もできるし」
「……今回みたいにあなたがこっちに来なさいよ……」
「その場合ステラを探さないといけないじゃん。まぁそれはそれで楽しそうだから考えとくよ。だからステラも考えといてね」
「……分かったわ」
「それじゃあ、あなたたちのお迎えも来たようだし、今日はもう帰るね」
イヴが言うならそうなんだろうと思い、「うん。分かった」と返事をする。
「またね」
「えぇ」
ステラもそう返事をすると、イヴが微笑んで姿を消すのと同時に、角を曲がってこちらに歩いてくるドラードとルナの姿が見えた。
「あー! 本当にお姉ちゃんが教会の近くにいる!?」
ルナがそう言いながら駆け足で近寄って来る。
「ほぼ毎日来てたのに、ルナさんは知らなかったの?」
「お祈りするわけじゃないのに今まで近寄りすらしなかった教会に来て、あなたを待ってるって話なんてすると思う?」
「それはそうだ……変に勘ぐられたりそれを弁解するのも大変そうだし……結局みつかっちゃったけど」
どうやらドラードはこちらへ向かう途中で、ステラを探しているルナを見つけて一緒に来たらしい。
ステラは今まで教会には近寄らなかったので、この付近は探す場所から除外されていたようだ。
幸いルナはドラードと違って変な勘ぐりをすることもなく、普段通りに少し話をしたあと、お互い迎えが来たことで今日はお開きとなった。
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