191.伝言
翌日、昨日と同じくらいの時間に町へ出かけることになった。
今回もドラードと一緒なのだが、昨日"ドラードとの買い物は楽しい"と言ったからか、今日はドラードの方から誘ってくれたので、そのお誘いに乗ることにした。
俺が町へ行くと結構な確率で教会に寄ったり、長々と色々見て回ることが多いからか、姉さんはそういうときは兄さんやリデーナと森へ行くことが増えた。
――王都で訓練に参加したからか、今は町へ行くより森へ行く方が楽しいのかもしれないなぁ。まぁ一緒に町へ行くときもあるし、そのときは楽しんでるようだけど。
しかし今回は2日連続で出かけることになったので一緒に行くかと思っていたが、今日は父さんも森へ行く予定だったらしく、そちらを選んだようだ。
「なにかお土産買って帰った方がいいかな……」
姉さんは森へ行く方を選びはしたが、俺が家を出るときにみた表情は少し不機嫌そうに見えたので、ドラードの肩の上でそう呟く。
「ははは。エル嬢は結構迷ってたみたいだしなぁ」
「体を動かしてから帰って来るだろうし、飲み物でも買って帰ろうか……」
「エル嬢の場合、飲み物ならカー坊の水魔法の方が喜びそうだけどな?」
「稽古のときに飲んでることはあるし、そろそろ飽きてるというか、特別感はなくなってるでしょ。それに、べつに姉さんだけに買って帰るわけじゃないし……」
「はは。それもそうだな」
そんな話をしながら町の方へ向かい、買い物を済ませる。
みんなの分の飲み物も買い、昨日と同じようにドラードにお願いして教会の方へ向かってもらっていると、建物が見えたあたりでドラードが立ち止まった。
「……おぉっと? すまん、ちょっと買い忘れがあったわ」
ニヤッと笑いながら言ったその言葉は少し演技っぽかったが、ドラードがなにか企むようなことは無いと思ったので、そこはスルーする。
「えぇ~。また?」
「はは。まぁお祈りが終わって少ししたら戻ってくるから、教会で待っててくれ」
「まぁいいけど……」
「それじゃあ、行ってくるわ」
ドラードはそう言って再び町の方へ向かったので、俺は教会へ向かう。
そして教会の方を見た時に、いつもの木の陰に黒髪の少女を見つけた。
――あぁ……ドラードはステラさんを見つけたらああいう反応をしたのか? いや、だから別にそういう間柄じゃないんだが……まぁまた長話をするかもしれないし、これはこれで都合はいいか……。
そう思いながら、教会に入る前にステラに挨拶するために近づく。
「ステラさん、こんにちは」
「えぇ。一緒に来てた人はどこかに行ったようだけど?」
「……買い忘れだってさ」
ドラードは俺がステラさんに気があると思っているようだが、今それを本人に伝える必要はないので、それは黙っておく。
「昨日と今日と連日で来てるみたいだけど、まさかあの日から毎日来てた?」
「えぇ。この時間になると暇になるからね。散歩ついでに寄ってるようなものだから気にしなくていいわ」
「そっか。それじゃあ、お祈りに行ってくるけど、伝言の内容は"覚えているか"と"弟を下さい"でいいんだよね?」
「それでいいわ。私のことを覚えていても、そうじゃなくても、2つ目はちゃんと伝えてちょうだいね」
「う、うん。分かった。行ってくるよ」
ステラの真剣な表情に気圧されながら返事をし、教会へ入る。
いつものようにシスターさんに挨拶をしたあと、神像の前の椅子に座りお祈りを始めた。
すると、光が瞼にあたったように視界が白くなる。
――今回は会えるみたいだな。さて……何から話せばいいか……。
「やぁ。いらっしゃい」
考えをまとめる前に少女の声が聞こえたので目を開ける。
といっても今の体は光の球なので、感覚的なものではあるが。
「こんにちは、イヴ。今日はちょっと話があるんだけど。といってもいつもそんな感じだから分かってるか」
「あはは。そうだね。それで、今日は何の話をする?」
イヴはいつもの、その少女の見た目に似合う無邪気な笑顔でそう言う。
「えぇっと、イヴはたまに人間界のことを見てるって言ってたけど、最近俺のことを見てたりした?」
「見てたといえば見てたけど、あの白い魔馬の話?」
――シラヒメが来てからはよく一緒に遊んでるから、そこを見てたのかな。
「ほかには?」
「うぅ~ん……それくらいかなぁ……何かあった?」
イヴの反応を見る感じ、本当にステラとの会話は知らないようなので、覚悟を決めてこちらから話すことにした。
「イヴは破壊神のことを知ってる?」
「もちろん知ってるよ? 立場的にはボクを除けば一番上だしね」
――そんな上の立場だったのか……いや、世界をどうこうできるような神様だしそりゃそうだよな。って、違う、知ってるのは当たり前じゃないか……。
そう思っていると、イヴの方から質問が飛んできた。
「というか、久しぶりに破壊神って聞いたなぁ。って、あれ? キミはどこで破壊神を知ったの? 今のキミの周りだと知る機会がないと思うんだけど……」
「その様子だとちゃんと覚えてるんだね?」
「まぁ……」
「その破壊神――いや、名前は一緒みたいだからステラさんって言うけど、千年間人間として生まれ変わり続けて、今オルティエンに住んでるんだよ」
「え!? ステラが!? いや、名前も合ってるし、キミがそういう嘘を言うとは思ってないから本当なんだろうけど……」
イヴは何から話そうか悩んでいるのか、口元に軽く握った手を当てて考え込む。
「事情はだいたいステラさんから聞いてるよ」
「あ、そうなんだ? ステラはとくに人間に興味がない感じだったからねぇ……ちょうどいいと言ってはなんだけど、人間たちと触れ合って関心を持ってほしかったんだよ。だから動きやすい10代で生まれるようにしたり、戦えるように魔法に制限は掛けなかったりもしたんだけど……」
「それでも人間の体の脆さは知らなかったから、結構事故とかにもあったみたいけど……」
「あぁ~……そっかぁ、そうだよねぇ……怒ってた……?」
「いや? そんな感じはしなかったけど?」
「そう……なかなか教会にも来ないから、馴染んでるのかなってくらいに思ってたよ」
「いや、教会に近づくと体調が悪くなるって言ってたけど……?」
「え? そんな制約は……あぁ!! 人間界で邪神扱いされてたから!?」
「俺もそうだと思うけど……今は教会に入っても平気みたいだし」
「え!? 来たことあるの!?」
「1歳のときに。ほら、他の国は知らないけど、うちの国だとやってるやつ」
「あぁ。って、え? 1歳?」
イヴは納得したような表情のあと、不思議そうに首をかしげる。
「うん。その1歳のときに両親と教会に来たけど、そのときは気分も悪くならなかったらしいよ。まぁそれ以外では近づきすらしてなかったみたいだけど」
「え、まって、両親? 1歳っていうのもおかしいけど……ステラは孤児だったり?」
「いや? ちゃんと生んでくれた両親らしいけど?」
「えぇ……」
イヴはそう言って頭を抱える。
「何かまずいの?」
「まず――くはないね。ずっと10歳くらいの肉体で生まれるはずだったのに、ちゃんと人から生まれるようになったってことは、それだけ人間界に馴染んでるってことでもあるから。最近探そうとしたけど見つからなかったのは、そういう理由だったんだね……」
「探してはいたんだ?」
「人間界で暴れないかの不安もあったからねぇ……まぁ人間界に降ろした時点で神気が希薄になりすぎてて見つけにくかったから、見つけたのはしばらく経ってからなんだけど。そのときの様子を見て、その心配はしなくていいなって思ったからそこまで見なくなったんだよね」
「なるほど……」
「それにそのころは、世界崩壊の対策で色々やってたっていうのもあるね。まぁいったんその危機もなくなったから、すぐに呼び戻さなくてもよくなったし……もしかしたら他の神の伝手で神界に戻ってるけど、拗ねて隠れてるだけかとも思ってたから……はぁ……人としてちゃんとした生まれ方してたら、薄かった神気が更に薄くなって見つけられるわけないよね……」
「拗ねてって……って、イヴに黙って戻っててもよかったの?」
「まぁそれなりに人とは触れ合えてただろうし、他の神が許したのであれば問題はないって感じかな? それに戻ってなかったとしても、そのうち教会に顔を出すと思ってたから……」
「過去の体調不良がトラウマで、今でも教会には入らないけど……」
「それが想定外なんだよねぇ……」
イヴはそう言って、肩を落としてため息を吐いた。
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