19.魔力切れ
短時間での連続投稿ですので、ご注意ください。
ランプの件は使用頻度の関係だろうという結論が出た後は、いつも通りの過ごし方だった。
普段と違ったのは父さんと子供たちが外で汗だくになるまで体を動かしていたらしく、夕食の前にお風呂に入ることになったことだろうか。
いつもは夕飯を食べてから入るのだが、前後になるだけで準備もしてあるとのことなので、先に済ますことにしたようだ。
――もうさすがに慣れた。……と言いたいが、ほとんど見ないようにしてるからこの場合"目をつむってなされるがまま状態な事に慣れた"だろうな……
そう思いつつ今日も母さんと姉さん、世話役にリデーナの3人とお風呂に入った。
みんなお風呂から上がり、夕食の時間になるとワゴンを引いてロレイナート達が入ってくるが、ここにもいつもと違うところがある。
普段から父さんは少量のお酒は飲むのだが、今日はその量が多いのだ。
両親の話を聞いているとどうやら明日は世間的には休みの日らしく、いわゆる週末は普通に飲みたいだけ飲むタイプのようだ。
――まぁ父さんは酒も強そうだしな……
そう思っていると、母さんの前にもお酒用のグラスが置かれているのに気が付いた。
「あら、私も?」
「カーリーンも離乳食を食べ始めたから、そろそろまた一緒に飲めると思ってな」
「そうねぇ……離乳食もあるから、少しだけならいいかしら。本当に少しだけよ?」
「もちろんだ」
そう言いながらほほ笑んで母さんのグラスにお酒を注ぐ。
――母さんもお酒飲むのか。まぁ授乳中でもたしなむ程度であれば時間を空ければ大きな問題はないって前にどこかで聞いたし、離乳食がある分授乳の回数はへってるしな。父さんが"また"って言ってるってことは一緒に飲んでたんだろうし、たまにはいいんじゃないだろうか。……俺も飲みたいが、この世界ではいつから飲んでいいんだ……
結局母さんは1杯だけ飲んだようだが、父さんは瓶数本を1人で空けていた。
それでも呂律が回らなくなるようなへべれけ状態までにはなっておらず、ちょっと顔が赤くなっている程度なので見た目通りの酒豪なのだろう。
翌朝、休みではあるが稽古はするようで、父さんは朝早くにそっとベッドから出て行った。
母さんはというと少量ではあるが久しぶりのお酒を飲んだためか、気持ちよく寝ているので父さんも起こさないようにしたようだ。
――まぁ俺も最近は魔力切れでぐっすりだし、夜中起こされずゆっくり眠れるのはいいことだよな? 目が覚めちゃったし、魔力の鍛錬してから二度寝しますかね。
そう思って眠くなるまで魔力を放出し、深い眠りについた俺が次に目が覚めたのは朝食の時だった。
午前中の執務室ではいつも通りリデーナと母さんが作業している。
――まさか席に座ってからゆすられるまで目が覚めないとは思わなかった……まぁその分今は元気なんだが。
執務室に入って少ししてから寝たふりをし、ベッドに寝かされたことを確認してから魔力の鍛錬をするのが日課になりつつあった。
今日も今日とてポスポスと空撃ちして魔力を消費させているのだが、あることに気が付いた。
――最近魔力の減りが遅くなってる気がする……いやそりゃあ魔力量を増やすためにやってるんだから、いつもの量だとそうなってくるよなぁ。かといってランプの件もあるから、あまり大量に放出するわけにもいかないし何かないものか……
空撃ちを続けながらそんなことを考えていると、母さんとリデーナの会話が聞こえてきた。
「南西の森の件、フェディが話を親方に持っていったら、来月には着手するって話になったみたいね」
「となると、護衛と木材などを運ぶ馬車も手配しないといけませんね。重力魔法の使える魔法使いはいるのでしょうか?」
「親方さんのところにいるらしいから大丈夫と言っていたけれど、範囲が広いから一応手配出来たらしておきたいわね」
――重力魔法! なるほど! 幸いベビーベッドの周りはクッションが置いてあって、座っていると俺の姿は見えにくい。それなら使ってもバレないのでは!?
そう思った俺は自分の身体を魔力で覆うように広げて、"浮かべ"と念じる。
加減が分からなかったため、最初は本当に弱く試して、徐々に込める魔力を増やしていった。
するとフワっと抱き上げられる感覚に似た浮遊感とともに、横目で見ていたクッションの位置が少し下がった。
――おぉ!? 成功だ!? 発動させるために覆うだけでも空撃ちとは比べ物にならない量使ったし、これからはこれで鍛錬すればいいな!
起きているのがバレないように心の中だけではしゃぎつつ、浮いた分で出来た服のたるみがベッドに付くか付かないかの絶妙な高さをフヨフヨと上下する。
テンション自体はかなり高くなっていたが、そのせいで若干の睡魔が襲ってきていることなど気にもならなかった。
――おおぉ……初めての魔法だぁ! これからはこれでいいな! い、いた!? ちょ、いたたたた!
あまりの頭痛の酷さに先ほどまでの楽しさなど消え去って、起きていることを隠していることすらどうでもよくなって呻いた。
「ん゛ーーーーーあ゛ぁぁぁ」
「カーリーン!? どうしたの!?」
いつもの声と違うことにすぐに気が付いた母さんが駆け寄ってきて俺の顔を覗く。
「カーリーン!? どこか痛いの!? リ、リデーナ! フェディとロレイを呼んできて!」
「は、はい!」
酷く慌てた母さんの指示で、急いで父さんたちを呼びに出ていく。
「カーリーン聞こえる? どうしたの?」
あまり大声で話しかけるのもどうかと思ったらしく、できるだけ優しい声色になるように頑張っているが、震えた声で話しかけてくれる。
しかし俺は痛みでそれどころではなく、目をぎゅっと閉じたまま呻き続けていた。
――ああああ、痛い!? え、なにこれ!? 赤ちゃんだから余計に痛いとか!? いや、頭痛にそんなこと関係あるのか!?
「ん゛ーーー!」
「あぁ……どうしたのよぉカーリーン……」
急に呻き出した俺を抱いてどうしていいのか分からず、母さんの目から涙が俺の頬に落ちたのを感じる。
――ご、ごめん母さん! あああ!? あれか! これが本当の魔力切れの痛みか!? だとしたら納得はいくが、思ってたより痛みがひどくてそっちは納得いかない!
などと痛みのせいでまともな思考ができない状況で、可能性を考えるがそれくらいしか思いつかない。
「カレア! どうした!? なにがあった!」
涙を溜めながら俺を抱いて声をかけ続けてくれている母さんがドアに振り返り、父さんに駆け寄る。
「フェディ、カーリーンが、カーリーンの様子がおかしいのよ!」
「っ!? どうしたカーリーン、聞いても分からないか……何か前兆はあったか? ぶつけたような音がしたとか、なんでもいい!」
「わ、分からないわ。急に呻きだしたから覗いたらすごく苦しそうにしていたの……」
父さんは状況を落ち着いて確認しようと、俺に声をかけるより母さんに何か理由を知っていないか手がかりを求めたようだが、母さんは何も分からない。
――そりゃそうだ! 完全に俺の自爆だもん! あああ! なんでしゃべれないんだよ! 神様! なんでこの痛みのことを教えてくれてなかったの!!
俺は俺で弁解したいが話すことの出来ないもどかしさと、神様への理不尽な文句を頭の中で言いながら、痛みで呻いている。
少ししてから何か箱を持ったロレイナート達が入ってきて、父さんの横から俺の様子を見る。
「カーリーン様、もう大丈夫ですよ。っと言っても分かりませんか……」
――伝わってる! 分かるよ! 父さんもロレイナートも、落ち着いて対処してくれようとしてくれるのも伝わってるので、早くどうにかなりませんか!?
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現在、前から書きたかったネタ中なのでちょっと投稿ペース早めです。