189.聞けなかったこと
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ステラと約束してから数日後、再び昼食を食べたあとに買い物に行くドラードと一緒にお出かけする。
――この時間帯なら、帰りに教会に寄ればステラさんも家の手伝いが終わって時間があるだろうから、会えるかもしれないしな。
「カー坊。この間も俺ときてたけど、出掛けるならリデーナやロレイに言えばいいんじゃないのか?」
「この時間は母さんたちの手伝いをしてることも多いし、買い物ってなるとドラードといった方が色々見て回れるからね。リデーナと一緒の場合は俺が見たいものを見て回れるけど、逆に言えば新しい発見が少ないから……」
今回の約束を抜きにしても、ドラードと買い物に出るのはそういう楽しさがあるので素直に答える。
「ははは。そうか。それじゃあこの間とは別の方向に行くか」
さすがに王都の市場と比べると狭いが、まだまだ行ったことのない商店もあるので、楽しみにしながらドラードの肩に乗って店を見て回った。
買い物も終わり、帰る途中でドラードに話しかける。
「ねぇ、今日も帰りに教会に寄っていい?」
「あぁ。いいぞ」
「……今日は買い忘れはない?」
「はっはっは。今日は大丈夫だ」
ドラードはそう言って、笑いながらズンズン進んでいく。
背が高い分歩幅も広く、俺が走っているときのような速度で景色が流れていく。
――そっか~、今日は買い忘れはないかぁ。まぁドラードは前回ステラさんとも会ってるし別に問題はないか。
そう思いつつ風景を眺めていると、あっという間に教会に到着した。
「ドラードはお祈りする?」
「あまり信仰深い方じゃないからな。俺は入口で待っとくわ」
「は~い」
そう言ってドラードと別れ、シスターさんに挨拶をしてお祈りをさせてもらう。
いつものように指を組んで目を閉じてしばらくの間お祈りを続けるが、あの白い空間に移動する感じはしない。
――いつもは祈り始めたらすぐに飛ばされてるけど……この間会ったばかりだし、さすがに会えないかな。お祈りの時間的にはそろそろ頃合いだし、帰るか。
そう思った俺は席を立ち、シスターさんにお礼を言って教会を出る。
一応ステラが来てないかの確認をするために周りを見ていると、この間話をした木の下に彼女の姿を発見した。
――あ~……会っちゃったか……まぁイヴに会えるとは限らないって言ってあるし、もう少し聞きたいこともあったからちょうどいいか。
「あの子はこの間もいた子だな?」
ドラードも俺の視線を追ってステラを見つけたらしく、そう聞いてくる。
「うん。ちょっと話してきたいんだけどいい?」
「あぁ、いいぞ。そう聞くってことは俺はここで待っとけばいいか?」
――一緒にいていいなら、ただ"話したい"って言うもんな。察しが良くて本当に助かる。
そう思いながらドラードに「うん」とだけ返事をして、ステラの方へ向かう。
「ステラさん、こんにちは」
「えぇ、こんにちは。それで……どうだった?」
「ごめん、今日は会えなかったよ」
「そ、そう」
ステラはどこかホッとしたような表情でそう言う。
「この前聞きそびれたこととかを話したいんだけど、時間ある?」
「えぇ、大丈夫よ。私も聞きたいことがあったし。【ロッククリエイト】」
ステラはそう言って土魔法で椅子を2つ作って座り、正面の椅子に座るように手で促してくる。
「ありがとう。ステラさんは水魔法が得意で、畑の水やりを手伝ってるってルナさんから聞いてたけど、土魔法も使えるんだね」
「ルナはそんなことも話してたのね。土魔法が使えると農作業が捗るし便利よ」
――なんか元破壊神だとは思えない発言だし、親近感がわくなぁ……いや、イヴも話しやすいしこの世界の神様はこんな感じなんだろうか……。
そう思っていると、ステラは言葉を続ける。
「というか、私を誰だと思ってるのよ。土魔法もというより、使えない属性はないわよ」
「え。封印されてるというか、そういう力はないんじゃ?」
「それは神としての力よ。人間たちが使える魔法で、今の私が使えない魔法なんてないわ。魔力量もヒト族にしてはかなり多いしね」
「あぁ~まぁ神様だもんな……そりゃそうか」
「ルナも魔力量は相当多いわよ? さすが私の妹ね」
そう言うステラの表情はすごく自慢げである。
「そ、そうなんだ。でも"水やりとかはさせてくれない"って聞いたけど?」
「私ができるのに、わざわざルナにやらせるわけないじゃない」
"何を言っているの?"と言いたげな表情でそう言うので「そ、そうだよね」と、とりあえず同意する。
――これは結構、いや、かなりルナさんを大事にしてるなぁ……。
そう思っていると、座りなおしたステラが口を開いた。
「それで? 聞きたいことって?」
「あ、えぇっと、遊戯神は交代させられたって言ってたけど、破壊神っていう立場も?」
「いいえ、破壊神は変わってないわ」
「え? それじゃあ今は破壊神は不在ってこと?」
「そうなるわね。まぁもともと破壊神の力ってそうそう使う機会なんてないからね。"世界を壊す"とかであれば必要だけど、そんな大仕事じゃなければ他の神の力で事足りることばかりよ」
「そ、そうなんだ……」
"世界を壊す"という例えはスケールが違い過ぎて実感がわかないが、イヴもいるし他の神様でも対応できると本人が言っているのでそうなのだろう。
「今はヒト族だけど、他の種族になったこともあるの? あ、いや、これはちょっとデリカシーがなさすぎるな……いまのなしで」
「別にいいわよ? 面白い話でもないだろうけど。まぁ結論を言うとこっちではずっとヒト族ね」
「そうなんだ」
「えぇ。始めのころは10歳くらいの体で生まれるものだから、色々面倒だったわ」
「え、10歳の体で生まれる……?」
「何ていうのかしらね。その肉体を持って、人けのない所に急に出現するのよ」
「そんな状態でどうやって……」
「さっきも言ったように神の力は使えないけど、魔法は普通に使えたからね。ハンターや冒険者になって生活してたわ。まぁ何回かの人生では孤児院にお世話になってたりもしたけど」
「でも今は両親と呼べる人たちがいるんだよね? 神だったからその力で、"そう思わせてる"ってわけじゃなく」
「えぇ、もちろん。この肉体は今の両親から生まれた、ちゃんとしたヒト族よ。ここ何回かの転生はずっとそんな感じね」
「そうなんだ……前の人生ってどれくらい前だったの?」
「このステラとして生まれる直前まで別の人として生きてたわ。その人生もこの国だったから、この領で起こりえたことも知ってたのよ」
「なるほど……って、そんなすぐに次の体に転生しちゃうんだ……というか、それだけの魔法が使えるなら事故死とかはなさそうだし、ほとんど老衰とかなの?」
「ズバズバ聞いてくるわね、まぁいいけど。最近はそんな感じね。最初のころは人間の脆さなんて分からないから、モンスターにやられちゃったり事故もあったけど」
――最近と言ってるけど、一体何年間の話なのだろうか……それに本来死ぬということがなさそうな神様が、それだけの死を経験するのって相当辛い罰だろうな……。
「ちなみに結婚はしたことがないし、子を宿したこともないわ」
「いや、そんなこと聞いてないんだけど!?」
少しシリアスな思考になっていたところに急にそんなことを言われて驚くが、そんな俺を見て彼女は愉快そうに笑う。
「あははは。そう? 人間ってそうやって後に繋いでいくから、気になると思ったんだけど?」
――いやまぁ、たしかにそう言われると少しは気になることだけどさ……元々神様でも、今は普通の女の子にそんなこと聞けるわけないでしょ……。
「まぁ、そのときの両親には、看取るまでずっと一緒にいて孝行したつもりだけれど、独り身だったから少し悪いことをしたなぁくらいは思ってるけどね」
「"少し"なんだ?」
「人から生まれたときの人生は、かならず兄妹がいたからね」
「あぁ……その人が結婚して跡継ぎを残してたからか……今回も姉妹がいるもんね」
その言葉を聞いたステラは、手を強く握り俯いてしまった。
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