188.経緯
ステラは軽くせき払いをしたあと、話を再開する。
「それで話を戻すけど、その千年前に大規模なモンスターの氾濫があったのよ。それこそ、さっき言ってたこの国で起きそうだったものよりヒドイのがね……」
「魔龍の件は国が危うかったって話だったけど、それ以上って……」
「えぇ、実際にここより大きな国が1つ無くなりかけたわ」
「……そんな大災害が……」
「今私が人間になってるのは、まぁいわゆる罰ね。封印されたり消されなかっただけマシかしら? 邪神扱いをされたのは、さっきあなたが納得したように私が"破壊神"だったからかしらね?」
「そんな理由で?」
「まぁ私を第一に信仰してた人たちだからね。その件が起きたときに"破壊神様が降臨なされた!"とか言って、それを見聞きしていた周りから邪神扱いされて広まったってところじゃないかしら」
ステラはそう説明しながら肩をすくめる。
「それで多くの人に破壊神=邪神って思われ、それを知った天界で罰をうけて人間として生活していると」
「ま、簡単にいうとそんな感じね」
「でもその件に関与はしてなかったんでしょ? それなら神様たちが罰を与えるようなことはないんじゃ?」
さすがに神様という存在が"人間がそう言ったから"という理由だけで、同じ神族にそのような罰を与えるとは思えない。
「――てたのよ……」
俺の言葉を聞いて、ステラはばつが悪そうに視線をそらして何か言っているが、聞き取れなかったので聞き返す。
「……ちょうどその頃に、同じような内容のことを話してたの!!」
「え、なんで!?」
「破壊神ってそうそうやることがなくて暇なの。それであるとき遊戯神、あー、私が罰を受けるときに交代させられちゃってるから前の遊戯神ね。そいつと話してるときに、そのモンスターの氾濫が起きそうな国をみつけてね、"その国はどこを守れば生き残れるか、逆にモンスターはどこから進行すれば国を落とせるか"、みたいな話で盛り上がったのよ」
「なんて内容で盛り上がってるのさ……神様がこっちの世界を見ながらそんな話をするとか、シャレにならないよ……」
「人と関わりが深くない神なんてそんなものよ」
「遊戯神は関りある方だと思うけど」
「その時代はまだ色々あって暇だったらしいわ。まぁそれで、私がモンスター側の意見をだしててね、偶然その言葉通りにモンスターが進行して、大惨事が起きちゃったのよ……」
「うわぁ……」
「話してただけで本当に何もしてないんだけど、結果的にそういう考えを持ってしまったことや、やろうと思えばあの状態からなら、他の神に気づかれることのない程度の力で同じことが出来てしまうこととかが合わさってね。こうして"人間の身になって、少し学んで来い"ってこっちに来させられたの」
そう言ってステラは自嘲するように笑う。
「な、なるほど……神託をだすなりして、人間側を助けたりは?」
「それは私たちの管轄じゃないからね。それにそういう事態が起こったとしても、ある程度は自然のことだから手が出せないわ」
――まぁそりゃそうか……絶滅するような規模じゃなかったわけだし……神様の力もそうそう使えないとは言ってたしな……。
「……今はどう思ってるの?」
「かれこれ千年も人間として生まれ変わって生きてきたからね。情も湧くしもちろん反省はしているわ。あのときは状況を見て"ほら、こうなったでしょ"とか言って笑ってたけど、今だと焦って神の力でモンスターを一掃しちゃいそうだもの」
「それはそれで罰を受けそうだけど……まぁいい変化なのかな? 破壊神としてはどうかわからないけど……」
そういうと、ステラは「そうね」と言いながら軽く笑う。
「そう言えば、破壊神としての名前ってなに?」
ずっと"破壊神"としか言っておらず、神様の名前は殆ど知らないので聞いてみると、ステラはキョトンとした表情で答えてくれる。
「ステラよ?」
「え、今と同じ?」
「えぇ。アレ以降しばらくは邪神の名前としてある程度広まってたから極端に減ってたけど、今となっては割と普通の名前だしねぇ。もう邪神やら破壊神やらを詳しく覚えてる人間はいないだろうし」
「長命種ならまだ生きてる人もいそうだけど……」
「あはは。それはそうだけど、一番数が多いのはヒト族だからねぇ」
そう言って笑うステラは、ルナと話す時のような自然な笑顔である。
その表情を見てルナを待たせて話していることを思い出し、本題を聞き出すことにした。
「事情は分かったし、聞いた感じ伝言はイヴ宛てなんだろうけど、自分ではできないの?」
「教会はねぇ……こっちに降ろされてからすぐに行ったんだけど、その頃は邪神扱いからの罰だったからか、会うどころか教会に近寄るだけで体調が悪くなってね……」
「さっきは教会の前まで来てたよね?」
「えぇ。今は平気ね。なんなら1歳のときに中にも入ったけど、気持ち悪くならなかったし」
「それじゃあ――」
「でもやっぱり昔の記憶があるからかしら。ちょっと気が進まないというか……」
「……怖い?」
「怖――いのかもしれないわね……邪神とも言われた、元破壊神がなに言ってるんだって思うかもしれないけど」
ステラは諦めたような悲しそうな顔でそう言う。
――昔体調が悪くなったって言うのも、動けないとか足が進まないっていうレベルじゃなく、もっと重体に陥ったのかもしれないな……まぁステラさんがそう思えるのは、十分に人間として生きている証拠でもあるかもな。
「ううん。そんなこと思わないよ。それで、イヴになんて言ってほしいの? 文句でも言う?」
俺の言葉を聞いて少し驚いた表情をしたステラは、お礼を言ったあと軽く笑いながら「それもいいわね」と肯定する。
「まぁ伝えるのは、"もう千年もたったけれど、破壊神のことをおぼえているか"くらいでいいわ」
「それだけでいいの?」
「えぇ」
「分かった。あ、でも俺も毎回会えるわけじゃないから、次はいつになるか分からないけど……」
「大丈夫よ。イヴラーシェと話せる相手が見つかるなんて夢にも思ってなかったし、いつでもいいわ」
「そういえば、他の神様も遊びに来てるって聞いたことあるけど、さすがに会ったことは無いんだ?」
「そうね。会ってたとしても私が破壊神だって気づけないし、こっちもさっきのように近づかないと分からないからね。創造神であるイヴラーシェの神気ですらそれなんだから、他の神なんて分かりっこないわ」
「そっか……イヴは前にこの町に遊びに来てたけど……」
俺がそう言うとステラは目を見開き、急接近してきて俺の肩を掴む。
「え……そ、それいつ!?」
「え、えぇっと、去年の夏かな?」
「そ、そんな……全然気がつかなかったわ……本人が来てるなら感じ取れてたかもしれないのに……」
「あのときは力をかなり抑えてたし、会った場所もこっちじゃなくて町なかの方だからね」
「そ、そう……」
「ま、まぁ、今後少し教会に行く頻度を上げて、伝言をちゃんと伝えるよ。それでそのことも話したいから、気乗りはしないだろうけど教会付近まで顔を出す回数を増やしてほしいんだけど、大丈夫? 俺はまだ自由にうろちょろできないから、ここで会うしかないだろうから……」
「えぇ、それくらいなら……」
そう言って教会の方を見るステラの目は、覚悟が決まっているようだった。
「それじゃあ、今日はとりあえずルナさんのところに戻ろうか。1人で待たせちゃってるし」
「そうね。まぁあの子はしっかりしてるけど、寂しい思いはさせたくないもの」
そう言うステラは先ほどまでとは違い、普通の妹想いの姉の表情だ。
――ルナさんにも好かれてるし、いいお姉さんなんだろうな。だからこそ今日の話はすごく驚いたけど……あー、でもお祈りのあとステラさんと話すなら、できればドラードときた方がいいかなぁ。ドラードならもし何かあっても黙ってくれるだろうし。
そんなことを考えながらルナのもとへ戻ると、ちょうどドラードも戻ってきたのでそこでお開きとなった。
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