187.神族
そのままルナの前まで行くと、2人が話し始める。
「お姉ちゃんが教会までくるの珍しいね?」
「そうね。でもお母さんからの伝言があるから仕方ないじゃない」
ルナに言われて一瞬だけ教会を見たあと、そう言ってすぐに視線を戻す。
「なにかあったの?」
「暗くなる前に帰りなさいっていうのと、帰りにちょっとお使いしてきてほしいんだって」
「あ、そうなの? それじゃあ買いに行かなくちゃ」
ルナはそう言って席を立とうとするが、お姉さんがそれを止めるように口を開く。
「あ、別にすぐじゃなくていいわよ。買う物も明日のパンとかだから急ぎじゃないし。それに今はお話ししてたんでしょ?」
そう言って俺に視線を送ると、ルナは少し慌てる。
「ご、ごめんなさい、カーリーン様。お姉ちゃんが珍しい所まで迎えに来てくれたから、つい……」
「ううん。いいよ、気にしないで。お姉さんが好きなんだね」
「は、はい……」
そう言って照れているルナを、お姉さんは優し気な表情で見ている。
「あ、カ、カーリーン様。こ、こちらはお姉ちゃ――私の姉のステラです!」
ルナはまだ少し赤い顔をしたまま、口調を整えつつお姉さんを紹介してくれる。
「ステラよ。あなたは?」
「あ、俺はカーリーンです。よろしく」
「"俺"……?」
俺の一人称を聞いた瞬間、ステラは訝しむ表情で首をかしげながら聞き返してくる。
――あー……そう言えばルナさんはステラさんから、"男の子と遊ばないように"みたいに言われてたんだっけか……いや、今もたまたま教会で会ったからただ話をしてるだけなんだけど……。
「う、うん。カーリーン様は領主様の息子さんで、教会でよく会うからたまにこうやってお話ししてるんだよ」
ルナもステラからの言いつけを破っていることに気がついたのか、気まずそうな表情をしている。
「そう……領主様の……」
ステラはそう言いながら俺の方に近づく。
「……本当に話をしてるだけ?」
「う、うん。それに教会でしか会ってないし」
「……まぁそれならいいわ。それにしても、あなた男の子だったのね」
「お、お姉ちゃん! 失礼だよ!」
ルナも最初は俺のことを女の子だと思っていたのだが、それは言わないでおく。
「あはは。もう慣れちゃってるからいいよ。これからちゃんと男らしくなるから!」
「ふぅ~ん。それはどうかしらねぇ? カーリーンの顔立ちは可愛らしいから、そのままかもよ?」
ステラはニヤッと笑いながら更に近づいてくる。
「お姉ちゃん! 言葉づかいも!」
ルナがそう言って注意するが、頬を膨らましているその表情は可愛らしい。
ステラも同じように思っているようで、反省している表情ではなく微笑みながら返事をしている。
「俺としてはこうやって普段の口調で話してくれるのは嬉しいよ? 近い年の友達とか全然いないからさ……」
「まぁ貴族となるとそうでしょう。とくにここは王都から距離もあるし……って、うぅ~ん?」
俺の言葉に反応して振り返ったステラが、何かに気がついたように再び首をかしげる。
「ど、どうしたの?」
「うぅ~ん……うぅ~~ん?? 気のせいかな……」
ステラは畑仕事を手伝ったあとに汗を流してから来たのか、ふんわりと石鹸のいい香りを感じられるほどに俺に近づき、そう言いながら匂いをかぐ仕草をする。
それで何か確信したようで、少し驚いた表情をして元の姿勢に戻る。
「え、な、なに?」
「お、お姉ちゃん?」
「カーリーン、ちょっといい? ルナはここで待ってて」
ステラはそう言って俺の手を引っ張り、ルナに声が聞こえない程度に離れた木の裏に連れていかれる。
「ど、どうしたの?」
「……あなた、転生者かなにか?」
ステラから言われた言葉は、予想できるものではなかったのですごく驚く。
――え!? ステラさんもそうなのかな? いや、イヴは近くにはいるって言ってたけど、すぐに会えるような距離じゃないって言ってたよな? それじゃあなんで……。
そう考えているとステラから続けて質問が飛んできた。
「それとも、こっちに遊びにきてるだけ? いや、それだと領主の息子ってのはおかしいわよね……」
――あれ……? 神様たちはたまに地上に遊びに来てるって言ってたけど、それのことを言ってる?
「え、えっと……」
「あぁ~もう。疑ってるようだから直球で聞くけど、あなたからイヴラーシェの匂いがするの。それで、カーリーンは神族? それとも訳あり?」
創造神のことを敬称無しで呼んだので、ステラはそっちの事情を知っている人だと判断する。
「えっと……転生者だね……」
「やっぱりそうなのね。降りてきて遊ぶにしては立ち位置がおかしいもの」
「そ、それで?」
「イヴラーシェの匂いがついてるってことは、今日も会ったんでしょ?」
「そうだけど……」
「ちょっと伝言を頼みたいのよ」
そう言うステラの表情は、ムスッとしていて不機嫌そうである。
「ちょっと待って、その前にステラさん――いや、"様"なのかな?」
「今はルナの姉で、ただの人間のステラよ」
「そう。ステラさんは、イヴのこと知ってるの?」
「"イヴ"ねぇ……随分と親しいみたいじゃない」
愛称で呼んでしまったことでイヴと親しく話す間柄だとバレて、ステラはニヤッと笑ってそう言う。
「まぁ察してるかもしれないけど、私はもともと神族なのよ」
イヴからの情報やステラの言っていたことから、そうだと予想はできたのでそこまで驚かなかったが、急なことすぎてうまく整理が出来ない。
「だから、イヴラーシェのことはもちろん知ってるし、その匂い――神気を感じ取ることもできたの」
「なるほど……って、元神様? なのに今は人間なの?」
「えぇ。まぁちょっと私にも事情があるんだけど……カーリーンは記憶持ちの転生者よね?」
「うん」
「それならもしかしたら、前に生きてた時代の話で知ってるかもしれないけど」
「あ、待って。そういう意味だと絶対に知らないかな」
俺は記憶持ちの転生者ではあるが別の世界からなのでそう言うと、ステラは不思議そうな表情をする。
「うん? そうなの? まぁそっちの事情はまたあとで聞くわ。話したくないなら別にいいけど」
ステラはそう言って自分の話を続ける。
「今からだと千年ほど前になるわ……」
――千年……そんなピンポイントで前世がその時代の確率って……あー、まぁエルフとか長命種だったらその時代にいた可能性も十分にあるか……。
最初の言葉をきいてそう思っていると、ステラから思いもよらない単語が飛び出してきた。
「私は邪神って呼ばれるようになったのよ」
「じゃ、邪神!?」
言葉を遮られたからか、"邪神"と呼ばれたからか分からないが、ステラは不機嫌そうな表情になる。
「そう。聞いたことはあるかしら?」
「……いや、そういう話は……20年ほど前に近くの森で魔龍が暴れたっていう話は何度も聞いたけど……」
「あー、そうね。それもあったわね」
「ま、まさか?」
「いや、私は関係ないからね!? というか、その千年前のことだって、私は全く関与してないんだから!」
「そ、そうなんだ……?」
「そうよ! なのに人間は邪神がーって言い始めて、結果的に私が邪神扱いされちゃったのよ!」
「ちなみに、邪神扱いされる前は何の神様だったの?」
「破壊神ね」
――あー……まぁ壊す神だしなぁ……そういう理由から、当時の人間がそう思っちゃったのかなぁ。
「……なに納得したような顔をしてるのよ……」
「あ、ごめん」
不満そうな表情をしているステラに一言謝って、再び彼女の話を聞く姿勢を取った。
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