184.訓練終了
遅くなってすみませんでした。
ボールは目の前に浮かせていたので、狙ったところに魔法が当たる。
【ウインドバレット】自体の速さに加えてボールの弾力もあり、思った以上の速度でボールが飛んでいった。
「結構早いですね。ですが、丁度よさそうです」
コーエンは壁に向かって飛んでいったボールを目で追ったあと、にこやかにそう言う。
――思ったより早かったけど、さっき撃った【ウォーターボール】くらいの速度だし、丁度いいか。もう少し早くできるだろうけど、多分【ウインドバレット】でそうしようとすると、ボールが耐えないかもしれないしな……。
他の魔法でちょうどよさそうなものがありそうだが、今は必要なさそうなので聞かないでおいた。
「これは先ほどの水魔法のように連射できますか?」
「あー、連射はできると思うけど、【ウォーターボール】のような曲げ方は難しいかも……」
「たしかに、風魔法をぶつけて飛ばしてますもんね」
「でも、すこし軌道を変えるくらいなら多分できるよ」
「なるほど。では、それでお願いできますか?」
「うん。分かった」
コーエンはそう言うと、団員さんに説明するために離れていく。
「……風魔法も使えるのだな」
「ふふふ。カーリーンは魔力量が多いもの。私だって土魔法の適性は無いけれど、使えるでしょう? 魔力操作が上手で魔力量も多いんだから、不思議じゃないわよ」
じいちゃんのつぶやきに対して、俺の頭を優しくなでながら母さんがそう言う。
――そういえば家では風や火の魔法も少し練習してるけど、じいちゃんの前で使ったことなかったっけ……まぁ風はともかく、"火はまだ早いだろう"とか言われそうだもんな。
じいちゃんは母さんの言葉で納得したのか、それ以上聞いてくることもなく、説明が終わったコーエンが戻ってきた。
「それでは、カーリーン様、よろしくお願いします」
「うん」
俺はそう言ってボールをいくつか作り、横並びで浮かせて準備をする。
「撃つよ~?」
「はい! お願いします!」
団員さんの返事を聞いて、連続でボールに【ウインドバレット】を撃って飛ばしていく。
3発目以降は風魔法で回転をつけ、多少曲がるように飛ばしてみた。
水魔法のときと違って、斬りやすいらしいボールは次々と真っ二つにされていく。
一応曲がるようにしてみたといっても、緩やかなカーブを描く程度なので、3発目以降も難なく斬られて終わった。
「……あんまり訓練って感じにはなってない?」
「いえいえ。ある程度気力を込めなければ、キレイに斬ることはできないので十分ですよ」
コーエンはそう言ってくれるが、水魔法のときの苦戦具合と比べると簡単になり過ぎている気がしたので、何かいい方法はないかと考える。
――ボールの強度をあげるか? いや、それだと結局【ウォーターボール】のときと同じになっちゃうから意味がないか……そうなると、速さか曲がり方をどうにかするか。【ウインドバレット】を追加で撃って、途中で当てて曲がるようにする?
「ちょっと試したい曲げ方があるんだけど、それも試していい?」
「えぇ、構いませんよ」
コーエンから許可ももらい、次の団員さんの準備が終わったので試させてもらうことにした。
一応2発目までは真っすぐに飛ばし、3発目を発射したあと、両手を前に向けて追加で2発の【ウインドバレット】を飛ばす。
片方は地面スレスレからボールの下部をとらえて打ち上げ、その少しあとに上からもう片方がぶつかって軌道を変える。
横から見ると、上下にジグザグに跳ねたボールはそのまま団員さんに向けて飛んでいく。
さきほどの緩やかなカーブを描いて飛んできているのを見ていたからか、急に跳ねるような挙動になったボールを見て驚きつつもなんとか対処できていたが、4発目と5発目も同じ要領で左右に振っていたので剣が追い付かず、5発目は直撃した。
【ウォーターボール】ほどではないが、弾力のあるボールが結構な速度でぶつかるのでそれなりに衝撃はあるらしく、腹部に当たった団員さんは「う゛っ」と声を漏らした。
「すごい精度ですね。あの速度で動いているものに、あれだけ正確に当てられるとは」
コーエンは団員さんの心配やボールの威力の話ではなく、その命中率に驚いていた。
「あぁ、【ウォーターボール】があれだけ曲げられるのだから、他の魔法でも可能だとは思っていたが、精度もすごいな」
――もっと連続で撃てればかなり翻弄させることもできそうだけど、あの速度に当てるには詠唱してると間に合わないだろうなぁ……。
じいちゃんにも驚かれているなか、そう思っていると団員さんたちの声が聞こえてくる。
「アレ、斬れるか?」
「いや、もうアレは防御でいいのではないか?」
「結構衝撃もあるから斬った方がいいと思うが……」
「それよりも、あの【ウインドバレット】自体が脅威では?」
――あー……たしかに? ボールをあの速さで発射できるだけの威力はあるんだもんな……でもこの魔法って消費が少ないって話だったし、間に合うなら斬るのは簡単なのかな?
そんなことを考えているとコーエンが「次!」と声を張り、団員さんが準備をしたので、同じように魔法を飛ばしていった。
終わるころには全員5発とも対処できるようになっており、別の組と交代するときに感謝を伝えられた。
次の組の人たちは中堅クラスの人達らしく、さきほどの組と同じように撃った【ウォーターボール】も最初から対処しきって見せた。
俺の休憩中は、母さんが代わりに撃っていたのだが、さすが母さんというか、俺と同じ魔力密度かつ魔法の軌道も同じように飛ばしていた。
「カレアリナン様に参加いただけるのであれば、本当でしたらもっと高度な魔法をお願いしたかったです」
「また王都に来たときに、参加させてもらうわ」
「よろしいのですか?」
「うふふ。私はお茶会よりこっちの方が楽しいもの」
「はははは。そうでしたね」
昔から母さんのことを知っているコーエンはそう言って笑っているが、じいちゃんは何とも言えない表情をしてため息を吐いていた。
日が暮れ始めたころ、俺たちが訓練場の門の前で馬車に乗り込むと、見送りに来ていたコーエンが近づいてくる。
他にも数名が見送りに来てくれているが、訓練終了の挨拶のときやそのあとに会話しているので、ここには最小限の人しかきていないのだろう。
「本日はありがとうございました」
「いや、こっちこそ、子供たちを参加させてもらって感謝している。いい訓練になっただろう」
「ははは。皆さん想像以上で驚いている団員も多かったですからね。また機会があればぜひ、参加していただければと」
「あぁ、それはもちろんだ」
「いつ頃オルティエンに帰られるのですか?」
「3日後あたりだな。仕方ないことだが、結構予定が詰まってたからなぁ。残りはのんびりしてから帰ろうと思う」
「ははは。そうですね。私もまた休暇を貰ったときにオルティエンに行こうと思っておりますので、そのときはよろしくお願いします」
「あぁ。もちろんだ」
「それでは、本日は本当にありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしております。帰りの道中もお気をつけて」
「あぁ。ありがとう。またな」
父さんのその言葉に続いて、兄さんや姉さんも挨拶をしたので俺もそれに続く。
馬車が動き始め、姉さんと一緒に手を振ると、見送りに来ていた団員さんたちが手を振り返してくれた。
到着したときは緊張していたが、色々知ることもできたし、魔法の練習もできたので参加させてもらってよかったと思う。
帰りはとくに寄るところもないので、馬車の中で訓練に参加した感想などを話しながら、真っすぐ屋敷へ帰った。
次回か、その次の話から少し時間が進む予定です。
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