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182.魔法の対処訓練

 返事はしたものの、コーエンに向けて魔法を撃ったのは結構前で、あれから威力の調整をしてきたので正直どれくらいだったか覚えていない。


 ――どれくらいの強さだったかなぁ……まぁコーエンさんに撃ったときってことは、兄さんに向けて撃つより強いのは間違いないし、あのときはたしか、コーエンさんも受けたときに声を少し上げてたっけ? それなら割と強めだったか。


 そう結論を出した俺は、コーエンに一声かける。


「それじゃあ、ちょっと準備するね?」


「えぇ、どうぞ」


「【ウォーターボール】【ウォーターボール】【ウォーターボール】【ウォーターボール】【ウォーターボール】!」


 手を前にかざして一息で唱えきると、5つの直径30センチほどの水の球が俺の近くに展開される。


 俺が最初に魔法を使うと言われたときも表情を変えなかった団員さんたちだったが、さすがに俺のような子供が5つも魔法を待機させることができるとは思っていなかったようで、声には出していないが全員が目を見開いている。


「撃つよ~?」


「は、はい! お願いします!」


 俺の声掛けで気を取り直した相手の団員さんが、しっかりと剣を構えてそう言ってくる。


 ――曲げたりはしていいみたいだし、まず最初の2発は真っすぐで、残りを左右から当てるようにしてみようかな。


 そう思った俺は手を団員さんに向けて、「発射!」と分かりやすいように口に出す。


 コーエンに向けて撃ったときのようにするということは、連続して当てるということなので、そのひと声で次々と水の球が飛んでいく。


 団員さんとの距離はそこそこありはするが、1発目が到達する前に俺の周りから水の球がなくなるくらいなので、飛んでいく感覚は短いが速度はそこまで早くはない。


 ――さて、3発目の軌道を変えようかな。


 1発目が当たるころにそう思っていると、油断していたのか予想より威力が高かったからか、ソレを受けた団員さんの剣が破裂した水によって弾かれる。


 そのまま2発目が当たる前に剣を戻すのが間に合わなかった団員さんは、腹部に【ウォーターボール】が当たり、「う゛っ」と声を漏らした。


 剣から手を離したりはしておらず、直撃してもよろめいた程度ではあるが、さらにそこから3発の追い打ちをかけるのはマズイと思ったので、残りの魔法は当たらないように軌道をずらして団員さんの足元に着弾させる。


「お、おぉ……」


「そこまで威力があるのか?」


「見てみろよ、あの当たった地面。濡れるだけじゃなくてしっかり軽く(えぐ)れてるだろ?」


「そんな威力のものがあの短時間に連続でくるのか……最初の2発しか当たらなかったあいつは運がいいのかもな……」


「見た目で油断しないようにしないとな……」


「つ、次は俺の番なんだけど、どうしよう……」


「ちゃんと武器にも気力を込めて斬らないとダメみたいだな。隊長は防御の訓練と言っていたが、あの威力は受けるだけじゃなくて、斬って対処しないときついだろ」


「いや、あえて当たって耐え抜くことで、いい防御の訓練にもなるんじゃないか?」


 さきほどまでは無言で見ていた団員さんたちの方から、そのような会話が聞こえてくる。


 ――そっか、コーエンさんは隊長格だしな……そんな人が最初は油断してたとはいえ、声を漏らして耐えるような威力だもんな……。


「はははは。さすがですなカーリーン様。後半の3発を当たらないように調整していただき、ありがとうございます。さすがにあんな体勢でしたし、当たり所次第では後ろに倒れていたかもしれません」


 コーエンが笑いながら言ったその言葉は、団員さんたちにも聞こえていたようでさらにざわめく。


「つ、強くしすぎた?」


「いいえ。普段もあれくらいの威力ですので、気にすることはありませんよ。あそこまで連続でくることがないので対処できてませんでしたが」


「いつもは単発なの?」


「えぇ。この騎士団には攻撃魔法が使えるものもおりますし、もう少し間隔を開けての攻撃はできますが、カーリーン様ほどの魔力操作ができるものはいないのですよ。一番うまいもので3発くらいが限界でしょう」


「そ、そうなんだ」


「カーリーンくらいの魔力操作ができる人たちは、それこそ魔法師団の方に所属したりするのよ。それに騎士団の人たちはどちらかというと剣術がメインだし、2人以上で戦うことを想定しているからね」


「なるほど……」


 母さんの補足を聞いて、少し安心する。


 ――騎士団に所属してるくらいだから一般的には強いはずなのに、そんな人たちを相手にあれだけできてしまうことを知られると、面倒なことにならないかと不安だったけどそれなら納得だ……少しでも攻撃魔法が使えるなら人数でカバーできるわけだしな。


「うちの騎士団は、魔法は防御するなり斬って対処するなりして、そのすきに接近して攻撃するという戦い方をするので、その訓練というわけです。まぁカーリーン様ほど魔法の発動が早い相手となると、苦労しそうですけれど」


 コーエンはそう言いながら笑う。


「え、俺の魔法の発動って早いの?」


「えぇ、ちょっと見ててください。【ウォーターボール】」


 コーエンも魔法が使えるらしく、そう唱えると水の球が出現する。


 しかし、出現したときはゴルフボールくらいでそこから徐々に大きくなり、俺の【ウォーターボール】と同じくらいのサイズになった。


「と、まぁこんな感じなんですよ」


 ――たしかに大きくなるまで時間がかかってるな……普段見る魔法って身内のばかりだったし、母さんや兄さんたちはもちろん、アリーシアさんも天才と言われるレベルの才能って言ってたもんな……"魔法が使える"と言われる人の普通レベルはこれくらいなのか……。


 そう思っていると、コーエンの魔法が少し離れた位置に発射されて着弾地点を軽く抉ったが、俺のものより浅く見える。


「まぁ連続してくる魔法の対処は、魔法師団との合同訓練で行うのですが、ここにいる組はまだその段階にまで到達していないものたちでして。いい訓練になりますので、カーリーン様は気にせず先ほどのように撃っていただければと」


「うん。分かった」


 俺たちの会話が一区切りして再開する空気を感じ取ったのか、団員さんたちは口を閉じ、俺の魔法をどう対処しようかと観察しているかのように、真剣な表情で見ている。


 相手の団員さんも剣を構えたので、再び俺は【ウォーターボール】を5つ準備し、先ほどと同じ威力、同じ速度になるように発射する。


 一度俺の魔法を受けたので、今度は1発目で剣を弾かれることもなかったのだが、2発目で姿勢が軽く崩れ、軌道を曲げて当たるようにした3発目を対処しきれず直撃した。


「なんだ今の曲がり方……」


「正面からだけじゃないのか……」


「あの短時間で力の入れ方を変えないといけないのかぁ……」


「3発目は防御ではなく、やはり斬ったほうが……」


 4発目以降を当たらないようにずらして着弾させると、団員さんたちからそのような話し声が聞こえてくる。


「全部正面からの方が良い……?」


「ははは。いや、今のままでいいですよ。どちらにせよあの様子では5発目まで耐えられないでしょうし」


 笑いながら俺にそう言ったコーエンは、団員さんたちの方へ向かう。


「もっとしっかり気力を使え。魔法を受けたおまえは実感していると思うが、"子供だから"とか思うな」


 ――さっき姉さんの相手をしてた団員さんにも同じようなこと言ってたなぁ。もしかしたら、今回姉さんや俺が訓練に参加させてもらったのも、そういう意図があったからなのかもなぁ。


 そう思いながら、コーエンが指導している様子を見ていた。

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― 新着の感想 ―
カーリーンの魔法能力の高さが周囲に知れ渡るのは誇らしく感じられて嬉しいですね。 これからも応援しています!
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