181.打ち合い稽古2
姉さんの攻撃によって弾かれた剣は、団員さんの手から離れて飛んでいく。
「なぁっ!?」
思っていたよりもはるかに強い攻撃に驚いているのか、団員さんはそんな声をあげて手放してしまった剣を見る。
姉さんは相手の武器を失わせたことでは止まらず、しっかりとそのすきに剣を戻し、ピタッと横腹に寸止めをした。
「おぉ……」
「相手の体に攻撃が当たらない位置で止まって、武器だけを狙ったか。そのあとも気を抜かずにしっかりと剣を戻しているし、すごいな」
思わず感嘆の声を漏らしてしまうと、じいちゃんが再び満足そうな表情でそう言っている。
「兄さんが姉さんの攻撃をあまり受けない理由が分かったよ……」
「あはは。さすがにアレを片手で受けきるのは僕にはまだ無理かなぁ」
隣で見ていた兄さんに話しかけると、苦笑しながらそう言ってくる。
――稽古でやってるときは両手でしっかり防御してたもんな……でも、相手の団員さんも両手で防御したうえであれなんだが……まぁ兄さんは盾で団員さんは剣という違いはあるけどさ。というか、もし姉さんがもう1歩踏み込んでたとすれば、付与のおかげで鎧は斬れないかもしれないけど、その衝撃だけでかなりなダメージになってそうだな……。
そんなことを思っていると、団員さんが剣を拾ってもとの位置に戻る。
「他の種族にも小柄だが力強いものはいる。外見だけで判断しないことだ。受けきれないと思ったら受け流すことも必要だぞ」
「はいっ!」
コーエンが団員さんに近づいてそうやってアドバイスをしているあいだ、父さんが姉さんに話しかけていた。
「上出来だな。次は相手も油断してないだろうから、しっかり動きを見て対処するんだぞ」
「うん。あ、もう少し【身体強化】を強くしてもいい?」
――たしかに油断はしてたかもしれないけど、相手の武器を吹っ飛ばしておいてまだ本気じゃなかったのか……。
「うぅ~ん……怪我しないこと、させないことを守れるならいいだろう」
「うん、わかったわ!」
父さんが苦笑しながら言うと、姉さんは意気込むようにそう返事をする。
その返事を聞いて頷いた父さんは、そのまま団員さんの方へ向かった。
「少し聞こえていたんだが、受け流すという選択もあるが今日はあくまで訓練だ。無理だと思ったら武器を手放してもいいぞ。そのまま受けて腕を痛める方が問題だからな」
「たしかにさきほどの攻撃を耐えようとすれば、そうなってたかもしれませんが……ここには治療できるものもおりますし、次は全力でいかせていただきます」
「そうか。それならエルも意気込んでいたから、そうしてやってくれ」
その言葉を聞いた団員さんの表情は少しこわばっていたが、しっかりと返事をしていた。
父さんとコーエンが離れ、再び姉さんと団員さんが対峙して剣を構える。
「もう一度お願いします!」
そう口にした団員さんは、ちゃんと気持ちを切り替えたようで、真剣な表情で剣を構えている。
姉さんも「よろしくおねがいします!」と返事をして剣を構えると、今度は団員さんの方が先に動いた。
さきほどの姉さんの攻撃を受けたからか、最初のように躊躇っている様子もなく剣を振る。
姉さんはその攻撃を受ける姿勢を取ったので、そのまま剣の押し合いに持っていくのかと思いきや、当たった瞬間に自分の剣を押し出し、団員さんの剣をはじくようにして体勢を崩し、そのすきに再び横腹に剣を寸止めした。
――父さんや兄さん相手の打ち合いしか見たことがなかったから知らなかったけど、一般的な相手だとこうなるのか……これは防御魔法の付与は必要なかったかもなぁ……。
そのあとも何度か打ち合いをしていた姉さんは、兄さんのときより早めに交代することになった。
団員さんは徐々に姉さんの攻撃をいなしたり、うまくかわしたりできるようになっていたが、それでも体への負担が大きかったのかもしれない。
――姉さんも大人相手にあれだけ戦えるし、兄さんは戦えるうえに頭もいいしなぁ……子供だからといって侮れない世界だなぁ……いや、そのおかげで俺はまだ3歳なのに、いろいろ聞いても気味悪がられたりしないのか? さすがに俺みたいな子供はそうそういないだろうけど、稀にいるんだろうな……。
そんなことを考えていると、兄さんと交代で姉さんが戻ってきたので声をかける。
「お疲れ様。どうだった?」
「楽しかったわ!」
姉さんはリデーナからタオルを受け取り、汗をぬぐいながら笑顔でそう答える。
「まぁ試合だとしたら圧勝って感じの結果だもんね……」
「でももう少しあのままやってたら【身体強化】が切れて、普通に負けちゃってたかも」
「今回は稽古だし、勝ち負けはべつにないんじゃないかな……」
「そうだぞ。それぞれの弱点や、悪い所を直していくための訓練だからな。エルの場合はまだまだこれから一気に成長するんだから、そこまで気にすることもないだろう」
「うん! がんばるわ!」
そんな話をしていると2回目の兄さんの稽古が始まり、コーエンがこちらに向かってきた。
「カーリーン様、魔法を受ける訓練をする組の準備がそろそろ終わるので、よろしいでしょうか?」
コーエンがそう言うので周りを見てみると、少しだけ人数が減っている気がする。
「うん。俺はいつでもいいよ」
「それでは、あちらの壁の向こうでやりますので、案内します」
「カーリーン、負けないでね!」
「撃ち合いとかをするわけじゃないんだけど……まぁ頑張るよ」
姉さんにそう言うと、コーエンのあとをついて行く。
母さんはもちろん一緒に来ているのだが、じいちゃんも様子が気になるのか一緒に来るようだ。
コーエンも離れるため、代わりに父さんが稽古をしている人たちを近くで見るようで、姉さんの近くにはリデーナが残っている。
――もしかしたら兄さんと姉さんの様子を1度は見られるように、時間を調整してくれたのかもなぁ。
そう思いながら移動していると、母さんが話しかけてきた。
「大丈夫? 緊張してない?」
「うん。大丈夫だよ」
「そう? まぁ緊張して家でやるときより強くなっても大丈夫だからね? 危なそうだったら私が止めてあげるから、カーリーンは気にせず魔法を撃ちなさいね?」
「え、う、うん」
――それなら安心して打てるし、ありがたけど……姉さんのあの様子をみて、俺がやり過ぎないか心配になったのかな? まぁさすがに騎士団の人が相手だから、兄さんに打つときよりは強くするつもりだったけど、様子を見て徐々に強くするようにしようか……。
コーエンが開けた扉をくぐると、そこには10人ほどの団員さんが整列して待機していた。
さきほど母さんにはああいったが、実際にこれから"魔法を撃つんだ"と実感しはじめ、少し緊張はしている。
団員さんたちのと向かい合うように案内されたあと、コーエンが口を開いた。
「それでは、これから魔法防御、対処の訓練を行う。本日はカレアリナン様にもお越しいただいているので、後ほど魔法を撃ってもらうことになっているが、まずはご子息であるカーリーン様の魔法を受けてもらう」
「はっ! よろしくお願いします!」
団員さんたちは、まずは俺からという言葉にざわついたりすることもなく、真剣な表情で返事をして位置に着くために離れていく。
「それではカーリーン様、よろしくお願いします」
コーエンにそう言われたものの、実際どれくらいの強さで撃っていいのか分からなかったので、一応聞いてみることにした。
「えっと、どれくらいの強さで?」
「前にオルティエンで私に撃ったくらいの強さで大丈夫ですよ。数は5発くらいからでお願いします。軌道は曲げたりしてもらって構わないので」
俺はコーエンの説明に返事をして、剣を構えて準備をしている団員さんの方を向いた。
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