180.打ち合い稽古
父さんが軽く兄さんのことを紹介したあと、団員さんと挨拶を交わしている。
「さて、一応もう一度説明するが、気力での【身体強化】は使ってもいいが、武器の強化や武技の使用は禁止だ。あと、攻撃が当たりそうだと思ったら寸止めするんだぞ」
兄さんは真剣な表情で父さんの言葉を聞いて、頷きながら返事をする。
条件は団員さんも同じのようで、兄さんと同じタイミングで返事をしていた。
「【身体強化】は使っていいんだ……」
「あくまで実戦に近い動きの訓練だが、今回は基礎的な動きの訓練だからな。武技には広範囲なものや高威力のものもあるが、それらをうまく扱うためにも基礎は大事だからな」
思わずつぶやいてしまった言葉に、隣にいるじいちゃんが答えてくれる。
「武器の強化って、武器に気力を込めるってやつだよね?」
「あぁ、それのことだな」
「それはダメなの?」
「ははは。ライの剣はダガンが打ったやつだからなぁ。真剣とはいえ、団員が持っているのは訓練で使っているような量産型の剣だ。そんな剣でダガンの剣と打ち合うのだ、気力を込められたらすぐにダメになってしまうからな」
――同じ形状の武器でもそこまで性能に差が出るのか……まぁ父さんとか鉄板を斬ってたしなぁ……さっき言ってた防御魔法が付与されてるならその分硬くなるんだろうけど、逆に言えばまともな付与がされてなければ、武器はもちろん鎧ごと斬られる可能性すらあるんだもんな……。
じいちゃんとそんな話をしていると、そろそろ始めるようで父さんが離れていき、2人は礼をしたあと剣を構える。
相手の団員さんは兄さんを相手に、"まだ子供だから"と躊躇ったり侮っている様子もなく、真剣な表情で構えている。
お互いが気力による【身体強化】を発動するための声をあげると、打ち合い稽古が始まった。
普段の稽古でも、同じような条件で父さんに打ち込んでいるときがあるので、兄さんの動きは見慣れているが、今日は一段と気合が入っているように見える。
――まぁ普段とは違う相手でそれが騎士団の人だし、やる気が上がるのは仕方ないか。それにしても、何度見てもあの速さはすごいよなぁ……。
兄さんは軽装ではあるが鎧もつけ、さらには片手剣と盾という武具もしっかり持っているはずなのに、すべて発泡スチロール製の模型なんじゃないかと思うような速度で踏み込んでいる。
もちろん、発泡スチロールなんてこの世界で見たことがないし、そんなハリボテの模型ではなく本物であることは間違いないのだが、そんなしっかりとした装備をしているにも関わらず、相手の団員さんと比べても素早い動きをしているので、見慣れている俺も驚いてしまう。
「やっぱり兄さんは素早いんだね」
「はははは。そうだな。まだまだ小柄だというのもあるが、成長すれば気力の使い方も上達して、さらに早くなるかもしれんな」
――あれ以上に早くなるのか……そのうち目で追えないような速さで踏み込んだりするのかな。というか、兄さんは魔法も十分うまいし相当強くなるだろうなぁ……。
団員さんはその速さに驚いて翻弄されているのか、防戦一方になっている状態を見てそう思っていると、攻撃の隙を見つけたようで剣を振る。
しかし、兄さんは盾でその攻撃を難なく受け止めた。
さすがに父さんのように弾くことはできないようだが、攻撃を片手でしっかりと受け止め、その隙に剣を振る。
団員さんは剣を戻すのが間に合わず、兄さんの攻撃を防ぐことができないまま横腹に寸止めされ、一旦仕切り直しとなった。
「きちんと盾での防御もできているようだし、その隙も見逃してない。さすがだ」
じいちゃんは今の流れをみて、満足そうに頷きながらそう呟く。
――団員さんとしては体格差もあるし、盾で受けられても多少は体勢が崩せると思ってたのかもなぁ。まぁちゃんと受けられる力と、そのあと攻撃の判断がすぐにできる兄さんの方が上手だったのかな。
「やっぱりお兄ちゃん速かったね!」
兄さんの様子は気になるようで、俺の隣で一緒に見学していた姉さんが嬉しそうにそう言ってくる。
「姉さんなら相手が防御してても、そのまま押し切りそうだけど……」
今の団員さんの動きや、攻撃が兄さんに通らなかったところを見て、この組の他の団員さんが同じくらいの力量であればできそうだと思ってしまう。
「うぅ~ん……頑張ってみるわね」
「いや、まぁ頑張ってはほしいけど、怪我しないでね……というより、させないでね?」
――稽古で2人が打ち合うのも見たことがあるけど、兄さんは姉さんの攻撃をまともに受けようとしてなかったからなぁ……やっぱり姉さんの攻撃は重いんだろうな……。
そんなことを思っている間も打ち合いは続き、結果としては試合形式であれば兄さんの勝ちという判定で終わった。
「お疲れ様」
姉さんと交代して戻ってきた兄さんにそう言うと、「うん、ありがとう」と笑顔で返事をしてくれる。
「実際打ち合いしてみてどうだった?」
「オルティエン騎士団の団員とは結構稽古を一緒にしていたりするけど、やっぱりナルメラド騎士団の団員は対人戦の方が多いからか、対応してくるのが早かったかな?」
――そういえば兄さんはオルティエンでも団員さんと稽古してたか。それにオルティエンではモンスターを相手にすることの方が多いから、盾を使う人が相手となるとそうなるのかな。
「それでも試合形式だったら兄さんの勝ちだったし、すごかったよ」
「そうだぞ。その年齢ですでに団員と渡り合えるのはすごいことだ」
俺たちの話を聞いていたじいちゃんが、一緒になって兄さんを褒める。
「でも武技とかの使用制限がなければ、違ったかもしれません」
「基礎が充分にできていないと、武技を使えたところで隙ができやすいからな。基本の動きで勝てたことは喜ぶべきところだぞ?」
「そ、そうですね。ありがとうございます!」
じいちゃんになでられながら言われた兄さんは、照れながらお礼を言う。
「それに武技はこれからフェディに色々教えてもらえるだろうし、ライは魔法も上手いからな。将来が楽しみだ」
じいちゃんは撫でている手をそのままに笑顔でそう言葉をつづけると、兄さんは更に照れながら「はい、がんばります」と笑顔で答える。
そんな話をしていると紹介が終わったようで、姉さんが「よろしくお願いします!」と元気に言って位置に着く。
さっきは姉さんにああ言ったが、実際に対峙している姿を見て少し不安になる。
――【身体強化】だけだし大丈夫だよな? まぁ姉さんは剣術とかが関わると大人びているというか、真面目に取り組んでるし大丈夫か。普段は子供っぽいけど……いや、まぁ実際子供なんだけど、兄さんは普段から大人っぽいからなぁ……。
そう思っていると2人が【身体強化】を使って剣を構えるが、姉さんの相手をする団員さんは、攻撃することを躊躇っているような表情をしている。
――まぁそうだよね……町を守ることもある人からすれば、さすがにそうなるよねぇ……。
このまましばらく様子見の状態が続くかと思ったがそんなことはなく、姉さんがすぐに動き出した。
その動きは兄さんと比べると遅いが、自分の身長ほどの剣を持っていることを考慮すると十分速い。
団員さんは一瞬驚いた表情をしたあと、回避行動をするには遅いと判断したようで、剣で防御する構えを取る。
一気に接近した姉さんはそのまま剣を横なぎに振り、団員さんの剣に当たった。
ガキンッという音と共にその剣筋が止まったかと思ったが、そのまま団員さんの剣を弾き、最後まで振りぬかれた。
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