178.訓練に参加
すみません、お待たせしました。
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円状に高い壁に囲まれている訓練場の敷地はかなり広い。
騎士団は町の警備もするため屋内戦の訓練をすることもあるのだが、そういう訓練は王都内にある訓練場でやるらしい。
そのため、この訓練場には最初に案内された部屋などがある建物の他には、武具などをしまっておく倉庫があるくらいで、その広い敷地のほとんどが訓練用の広場として使われているようだ。
その広場も壁で分けられているのだが、別の訓練をするときなどの仕切りとしての役割の他に、壁を越える訓練、またその防衛の訓練としても使われているらしく、人1人が上に立てるほどの分厚さがある。
――打ち込み稽古用の案山子とかはあったけど、筋トレ用具とかはないんだなぁ。まぁ王都内にも訓練場はあるって言ってたし、こっちは実戦的な訓練メインなだけかもしれないけど。
一通り敷地内を軽く案内してもらい、最後に広場を案内されたところでそう思っていると、ちょうどいい時間になったようで、コーエンが父さんに話しかけている。
「それでは、そろそろお願いできますか?」
「あぁ、分かった」
父さんがそう返事をすると、1番広い広場にみんなで移動する。
休憩後の訓練をする前に挨拶をするらしく、父さんはコーエンと一緒に、整列している団員さんたちの前にある少し高い台へ向かった。
「思ったより多いね……」
兄さんや姉さんが訓練に参加することを許可されるくらいなので、もうすこし少人数で緩い感じかと思っていたのだが、休憩中はバラけていた団員たち全員が集まり、きちんと整列している姿を見てそう呟いてしまう。
――何十人いるんだろう……もしかすると3ケタに乗るか……?
「はははは。そうだな。うちの騎士団は人数が多いからな。しかも予定してない隊の人間も来ているしな。まぁもともと1番隊2番隊のメンバー全員が参加するわけじゃなかったから、もっと少なくなる予定だったんだがな」
俺のつぶやきを聞いて、じいちゃんが笑いながらそう答える。
――他にも隊があるってことはこれでも全員じゃないんだもんな……まぁ王都の警備巡回とかもするんだし、人数はそれなりに多くなるか。
台から少し離れた位置でそう思っていると、父さんとコーエンが台にあがる。
整列してからは一言もしゃべらず、きっちり並んでいた団員さんたちの視線が、一斉に2人へと注がれる。
「これから後半の訓練を始める! みなも知っていると思うが、本日はフェデリーゴ・オルティエン様に参加していただく! それでは、お願いします」
コーエンはそう言うと、1歩下がって父さんに"どうぞ"というふうに手で示した。
「まず、今日はナルメラド騎士団の訓練に参加できることを嬉しく思う! 皆の統制の取れた動きは見事だな。俺も実戦で培った経験を活かして、一緒に良い訓練にできればと思っている!」
父さんは大声でそう言ったあと、手でこちらを示す。
「また、今日は俺の息子たちも訓練に参加することを許可してくれて感謝している! 打ち合い稽古にも参加するが、子供だからと気を抜いていると痛い目を見るぞ?」
そう言ってニッと笑うと、団員さんの何人かは微笑んでいるが、一段と気を引き締める人もいる。
――真面目なタイプの人か、前回兄さんが参加したときに相手をして、その実力が身に染みている人かな……?
そう思いながら隣をみると、過去に参加したこともある兄さんは普段通りに見えるが、姉さんは緊張しているように見える。
――まぁ急にこの大人数の視線が集まるようなことになったらこうなるか……でも実際訓練が始まったらイキイキとするんだろうなぁ。いや俺もひとごとじゃないか……初めて会う人に魔法を撃つんだもんな……そう考えたら緊張してきた……。
落ち着くために深呼吸をしていると、母さんが小声で話しかけてくる。
「大丈夫よ。無理そうなら私にすぐに言いなさいね」
母さんがそう言って微笑みながら優しく撫でてくれるので、すこし落ち着くことができた。
――あの一言でここまで落ち着くんだから、俺って結構単純なのかもな……。
「では、よろしく頼む!」
挨拶の最後に父さんがそう言うと、団員さんたちが「はっ! よろしくお願いします!」と声を合わせて言う。
「事前に通達した組に分かれて訓練開始!」
コーエンがそう言うと、再び「はっ!」と返事をして、それぞれの組に分かれて行動を始めた。
「ありがとうございました。団員たちの士気も上がります」
「いや、俺自身の鍛錬にもなるし、感謝しているのは本当だしな。しかし、なかなか慣れないなぁ」
そんな話をしながら、父さんとコーエンが戻ってくる。
「よし、それじゃあ、俺が先に打ち合い稽古をやるから、その間に準備運動や素振りをやっておくんだぞ」
父さんにそう言われ、兄さんと姉さんは返事をすると剣を置いて走り出した。
「子供たちにも見取り稽古をさせたいから、最初の組は少し待っててもらってもいいか?」
父さんは挨拶をして台の近くで待機している数名を見ながらそう言うと、コーエンは「分かりました」と言って、その人たちに伝えに行った。
「義父上はどうする?」
「そうだな……私とおまえの打ち合いは派手だからな。最後の方にやるか」
「そうだな。ここなら多少力を出しても平気だからな」
以前オルティエンで手合わせをしたときは、庭がダメになるからと母さんに止められたことを思い出したのか、父さんは苦笑しながらそう言う。
「じいちゃんも参加するの?」
「あぁ。もともと時間があるときは参加しているからな」
――まぁオルティエンに来るたびに父さんと手合わせするくらいだし、こっちでもそうやって鍛えてても不思議じゃないか……。
少しの間そうやって話をしていると、準備運動を終えた兄さんたちが戻ってきた。
「それじゃあ、素振りしながらでもいいから、打ち合い稽古を見ててくれ。あとでおまえたちにもやってもらうやつだからな」
「はい!」
兄さんはそう言うと、少し離れてさっそく素振りを始める。
「うん! お父さん頑張って!」
体を動かしたおかげか、いつもの調子に戻った姉さんにそう言われて父さんは笑う。
「ははは。試合というわけではないんだがな。まぁ頑張ってこよう」
父さんはそう言うと自前の剣と盾を持って、コーエンと一緒に待機している組の方へ向かった。
周りでは他の組の打ち合い稽古が始まっており、兄さんは少し動きを止めてそちらを見ては、素振りを再開している。
――イメージトレーニングでもしてるのかな……それにしても周りもすごいな。強さとかは分からないけど、本気度というか気迫がすごい。
兄さんの視線の先を見たり、周りから聞こえてくる武具のぶつかり合う音や、気合のこもった掛け声を聞きながらそう思っていると、父さんの方も始まるようで、1人を残して他の人が離れていく。
「よろしくお願いします!」
最初に父さんの相手になる団員さんが、この喧騒の中でも聞こえるように大声でそう言う。
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。いつでもいいぞ」
「では! ヤァ!!」
団員さんが気迫のこもった掛け声とともに素早く斬り付けるが、父さんは顔色一つ変えず盾で防ぐ。
「さすがナルメラド騎士団だ。鋭い一撃だが今の振りでは対人戦では読まれやすいうえに、変にごまかそうとしているから力が弱いぞ! そんなのでは深手を負わせることは難しいな!」
父さんはそう声をあげ、盾で剣を押し返して弾く。
そのまま反撃するのかと思ったが、何かアドバイスをしているのか声を掛けたあと再び構えた。
団員さんが再び斬り付けるが、今度は真上からの縦振りで綺麗な剣筋で振り下ろす。
「そうだ! さっきの鋭い攻撃も良かったが、相手の装備なども考慮して時には変えることも大事だ!」
時折そういうアドバイスをしながら打ち合い稽古を続けていく。
兄さんは父さんに言われた通り、素振りもしながら見るときはしっかり見るという感じで見学しているのだが、姉さんは食い入るようにずっと見続けていた。
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