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177.訓練場

 予定通り西門へ向かい、そこから王都の外へ出る。


「帰る前に、なにかお礼の品を持って行かないとな」


 父さんがダガンから貰った剣を見ながらそう呟く。


「ほかの剣と比べて斬ったときの音が、全然違ったもんね」


「お父さんだけいいなぁ~」


「いやいや、エルの剣もダガンに打ってもらったものだからな? 俺は親方の剣を使ってるから、ダガンが本気で打った剣は持ってなかったんだ」


「そうなの? それじゃあ、お父さんもおそろいだね!」


「ははは。そうだな」


 父さんと姉さんの会話を聞きながら、ダガンの鍛冶屋を思い出す。


「そういえば、あの2本はお弟子さんが打った剣って言ってたけど、あの鍛冶屋の作業場ってあまり広くはなかったよね?」


 武具を売っている部屋はそこそこ広かったのだが、この国でトップクラスの鍛冶師が営むには小さく感じ、さらにはその建物に響いていた金属音の数が少なかったのでそう思う。


「あぁ。あそこは昔からダガンの店だからな。弟子のほとんどは近くの別の建物で作業をしているようだ。建て替えの案もあったようだが、あまり広い鍛冶場は落ち着かないと言って別に建てたらしい。ダガンは自分の鍛冶をしつつ、空いている時間に指導をしているようだな」


「へぇ、そうなんだ」


「もともと弟子を取るつもりはなかったらしく人数は少ないから、その建物も最低限の鍛冶場と寝泊まり用の部屋があるくらいで、そこまで大きくはないみたいだが」


「鍛冶職人って1人や2人に教えるイメージがあるから、それでも多く感じるけどね」


「まぁこの国屈指の鍛冶職人だからな。弟子入りの申し出は多いんだろう」


「たしかに……そう考えると少ない方、なのかな……?」


「まだ自分の技術を磨きつつ指導している状態だが、きちんと育っているようだな」


 父さんはダガンの剣を振る前に握った2本の剣を思い出すように、自分の手を見ながらそう言う。


 ――第一印象があの怒鳴り声だったから厳しそうな感じがしたけど、そのあと様子を見てたみたいだし面倒見もいい人みたいだもんな。


 そんな話をしながら馬車に揺られていると、目的地らしき建物が見えてきた。


「あそこ?」


「あぁ。そうだ。あれが訓練場だな」


 父さんの言葉を聞きながら、再びその建造物を見る。


 ――壁もしっかりとした石造り、もしくは土魔法とかで作ってるのかすごく頑丈そうだし、魔馬(まば)の飼育場の壁より更に高いなぁ……。


「かなり堅牢そうだね……」


「ははは、"堅牢"か。まぁ有事の際は砦としての役割もあるからな」


 ――王都からそれなりに近いし、こっち側の防衛に使われたことがあるんだろうか?


 徐々に近づいて鮮明に見えるようになった壁は年季が入っており、ところどころ修繕したような跡があるのでそう思う。


 その闘技場のような見た目の建物に合う重々しい門では、騎士団の人が両側に立って門番をしていた。


 今は使用中のためか門自体は開かれており、門番の人の指示にしたがって馬車がいったん止まる。


 御者をしているリデーナが書状を門番の人に見せていると、建物の方から見知った顔の人が出てきた。


「ようこそオルティエン様。ここからは私が案内いたします」


 そう言ってきたのは、以前と変わらず人の良い笑みをしているコーエンだった。


 建物の前で馬車から降り、案内された部屋で一息つく。


「久しぶりだなコーエン」


「えぇ。皆さまもお久しぶりです」


 コーエンは微笑みながらそう言ったあと、お茶の用意をしてくれる。


 みんなが席について少し雑談をしたあと、今日の予定の話を始める。


「今はまだ基礎訓練を行っており、それが終わったら休憩に入ります。そのあと打ち込み稽古などを始めますので、書類でもお伝えした通りそこから参加していただければと。準備運動が必要でしたら、少し早めに紹介をして時間を作りますが」


「ダガンのところで少し振ってきたからな。そこまで長い時間は必要じゃないし、休憩時間をわざわざ削らなくてもいいぞ」


「そうでしたか。では予定通り休憩のあとということで。本日はフェデリーゴ様も参加されると言うことで、一段と気合が入っているのですよ」


「そこまでか。まぁ前もすごかったからなぁ……」


 父さんは前回のことを思い出して苦笑しながらそう言う。


「えぇ。書類には1番隊と2番隊と書いておりましたが、他の非番のものも混ざっておりまして……」


「前より多そうだな……」


「まぁ"この訓練のあと職務があるものは支障が出ないように"と厳しく伝えてありますので、フェデリーゴ様はお気になさらず」


「そんな人数の中魔法を使わなきゃいけないんだ……」


 思った以上に人数が多くなってることに緊張した俺は、無意識にそう呟いてしまう。


「覚えていてくださいましたか。でも大丈夫ですよカーリーン様。この訓練場の内部は壁で区画分けもされておりまして、カーリーン様の魔法を受ける訓練をするのはほんの一部の団員だけですので」


 コーエンは俺を安心させるように微笑みながらそう言ってくれる。


 ――よかった……まだこんな幼い見た目で大勢の目の前で魔法を撃つとか、結構奇異な目で見られそうだから不安だったんだよな……。


「ライニクス様は打ち合い稽古に参加すると思いますが、エルティリーナ様はどうなさいますか?」


「エルはどうする? 打ち込みだけにしておくか?」


 コーエンは保護者の父さんに聞いたようだが、父さんは姉さんの意見を尊重するようで、そう聞いている。


「ううん! 私も打ち合い稽古してみたい!」


「ははは。だそうだ」


「……よろしいのですか?」


 ――まぁコーエンさんの不安は分かる……"女の子だから"というわけではないけど、姉さんくらいの子と成人している人が打ち合いする光景はなぁ……。


「コーエンもエルの力は知っているだろう? 前にオルティエンで見た時よりも強くなっているからな。あまり気を抜いていると、団員の方が怪我をするかもしれないぞ?」


 父さんはニヤッと笑いながらそう言うと、コーエンさんは少し目を見開いたあと笑う。


「はははは。そうでしたね。しかし、あれ以上にですか……それは立ち会った団員の驚く顔が楽しみです」


 ――身近にいる人たちが強すぎるから、一般的な強さの基準が分からないからアレだけど、姉さんのあの力はコーエンさんから見ても強いと思うほどなんだな……。


 そう思っているとドアがノックされ、「ヒオレス様がご到着されました」と声が聞こえてきた。


「すみません、少し席を外します」


 コーエンはそう言ってじいちゃんを迎えに行き、少ししてじいちゃんと一緒に戻ってきた。


「もう来ていたか。どうだ、内部は見て回ったか?」


 じいちゃんは微笑みながら、ここに初めてくる姉さんと俺にそう言って席に着く。


「ううん。俺たちもさっき着いたばかりなんだよ」


 ――というかこういう施設の内部って、そう簡単に見て回っていいものなのだろうか……いやまぁ、じいちゃんがそう聞いてくるってことはいいんだろうけど。気にはなるからあとで案内してもらおう。


「そうなのか?」


「あぁ。少しダガンの所に寄っていてな」


「あぁ、なるほどな。そうだ、これを渡しておこう」


 じいちゃんは納得したように頷いたあと、懐から1枚の丸められた紙を取り出して父さんに渡している。


「これは?」


「シラヒメの書類だ」


 魔馬(まば)は軍などでも使われているため、その手続きはもう少しかかると思っていたので「もうできたの!?」と言ってしまう。


「ははは。まぁシラヒメは軍部所属とかではなく、あくまで所属は飼育場からだったからな。その分手続きもややこしくないのだ。これで正式にシラヒメはオルティエン家の家族だな」


 じいちゃんは笑いながらそう言うので、「ありがとう!」と元気よくお礼を言う。


 そのあとじいちゃんも一息入れている間雑談をし、訓練に参加する前に少しだけ内部を案内してもらうことになった。

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