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176.試し切り

 支柱部分は土魔法を使って硬くした土の棒を、地面から生えるようにして固定しているだけのようで安心する。


 ――これが鉄製とかだったら直せるか分からなかったからなぁ……いや、この太さで鉄製だったら、さすがの姉さんも斬れないか。まぁ鉄製じゃないにせよこの硬さの棒や、いつも稽古で使ってる土人形を両断できてる時点でスゴイんだけどさ……。


 兄さんと姉さんが斬った断面を見ながらそう思いつつ、支柱部分を触って太さなどを確認していると、ダガンが近くにきて口を開いた。


「カレアリナン様じゃなくて、その子が直すのか?」


「えぇ。この子は土魔法の適性もあるみたいで、そういうモノ作りが上手なのよ」


 午前中にボールを作ったりしたからか、母さんがどこか自慢げにそう言うので、少し気恥ずかしくなる。


「そうか。それなら任せてみるか」


 ダガンは微笑みながら納得したようにそう言う。


「ごめんね、カーリーン……私が斬っちゃったから……」


「いや、この位置は仕方ないよ。斜めに斬ってても斬っちゃっただろうし」


 普段の姉さんなら斬れたことを嬉々として報告してくるのだが、自分の家じゃない場所でやらかしたことでしょんぼりとしている。


「それに、これくらいならすぐに直せるから大丈夫だよ」


 実際すぐに直せると思うのでそう言って慰めると、姉さんは「うん、ありがとう」と言って、作業の様子を見始めた。


 ――まぁ作業と言っても、この支柱を伸ばすだけだから本当にすぐに終わりそうだけど。


 そう思いながら【ロッククリエイト】と唱え、元の長さだろうと思う位置まで伸ばす。


「これくらいでいい?」


「あ、あぁ。こんなすぐにできるのか……」


 ダガンに確認すると、彼は支柱部分を触って強度をたしかめている。


「あぁ、十分だな。ありがとうよ。お礼に今度剣を打ってやる」


 ダガンはニッと笑いながらそう言って頭をなでてくる。


「ま、まだ木剣すら扱えないんだけど……それに、これくらいのことで剣を貰うなんて……」


「がっはっはっは。気にするな。代金はヒオレス様が喜んで支払ってくれるだろうし、兄弟があれだけ腕が立つから期待を込めてのことだ」


 ――そんな期待されても……というか、ダガンさんってこの国のトップクラスの鍛冶師だよね? そんな人が打った剣とか、まだ木剣も握ったことがない俺にはもったいなさ過ぎるんだが?


 どう返事をしようか悩んでいると、父さんが苦笑しながら話に入ってきた。


「まだカーリーンは剣の稽古を始めてないからな。剣が必要そうになったら、そのときは頼む」


「あぁ、分かった。遠慮せずに言えよ」


「そうなったら、みんなおそろいね!」


 姉さんが嬉しそうにそう言ってくる。


 ――そっか、ダガンさんも俺だけ仲間外れみたいにならないようにそう言ってくれたのかもな。魔法のことばかり考えてたけど、剣の稽古も始まったら頑張らないとな。


「あぁそうだ。フェディ、まだ時間はあるか?」


「もう少しくらいなら大丈夫だが、どうした?」


「おまえさんに試し切りしてほしい剣があってな」


「それはいいが……俺でいいのか?」


「あぁ、丁度フェディの片手剣くらいのサイズなんだが……まぁちょっと待っててくれ、持ってくる」


 ダガンはそう言うと、2本の剣と軽鎧の一部のような鉄の板を持ってきた。


「この2本を振ってみてくれ」


「それを斬ればいいのか?」


 剣を手渡したあと、さっき俺が直した棒に一緒に持ってきた鉄板を固定しているので、父さんが確認のためにそう聞いている。


「あぁ、振った感覚と、斬った感じを教えてくれ」


「まぁいいが……」


「え、あれって鉄製の板じゃ?」


「うん? そうだが?」


 俺の言葉に、ダガンは"何を言っているんだ?"という風に首をかしげている。


「その剣で斬れるの?」


 父さんも父さんで斬れること前提で話を進めていたので、俺の感覚がおかしいのかと思ったが、姉さんもそう聞いているので普通はそう思うようだ。


「…………うん。まぁ斬れるだろう」


 父さんは姉さんの言葉を聞いて刃を確認し、軽く振ったあとそう返事をしている。


「気力は込めないでくれよ。おまえさんほどの技量でそれをされちゃ、武器自体の性能が分からん」


「あぁ、分かった」


 父さんが案山子の前で剣を構えたので、みんな静かにその様子を見る。


「ふっ!」


 そう息を吐きながら剣を振り、ガキンッと金属同士がぶつかる音がしたかと思うと、父さんの振った剣筋はそのまま止まらずに振りぬかれた。


「「おぉ!!」」


 俺と姉さんの感嘆の声が重なる。


 ――軽鎧に使われてそうなくらいの厚さはあるのに、それを斬れるんだ!?


「どうだ?」


「うぅ~ん。まぁ悪くはないな」


「ふむ。"悪くはない"か……次の剣を頼む」


 ダガンはそう言ってもう1本の剣を渡し、鉄板を取り換えている。


 再度父さんが剣を振ると、同じような音をたて、両断された鉄板が地面に落ちる。


「……こちらも悪くはないんだが、根元の方が重い感じがして、威力が乗りにくいか?」


「……ふむ……」


 2人からすればこれくらいはできるという認識のようで、いつも通りの感じで剣について話している。


「私もあんな風に斬れるようになるかなぁ……」


「姉さんなら今でも斬れそうだけど……」


 普段の稽古の様子を知っているうえ、ダガンが打った剣ということを考慮すると可能性はあると思ってそう言うと、姉さんは「そ、そう?」となぜか照れながら反応している。


「そうだ。最後にもう1本頼む」


 姉さんと話しているとダガンがそう言ってもう1度戻り、1本の剣と見ただけでさっきより分厚いと分かる鉄板を持ってきた。


 ダガンが鉄板を固定している間に父さんはその剣を抜いて確認しているが、さっきの2本のときとは違い、感心したように目を見開いたあと口角をあげる。


 理由を聞こうとしたところで案山子の準備が終わったようで、父さんがダガンに声をかける。


「ダガン、これは……」


「まぁいいからやってみてくれ」


 ダガンは父さんが言いたいことが分かっているようだったが、それを聞かずに斬るように言う。


 父さんは短く「あぁ」とだけ返事をして、案山子の前で再び構える。


「はっ!!」


 その掛け声と同時に振られた剣は、鉄板と当たってキンッと小さく音が鳴ったあと、最後まで振りぬかれた。


 それと同時に、ドサッという重量感のある落下音が聞こえる。


「「「おぉ!?」」」


 再び俺と姉さんの感嘆の声に、今度は兄さんの声も混ざる。


 ――え、あの厚さの鉄板も斬れるの!? というか、さっきまでと斬った音が違い過ぎるんだけど!?


 そう驚いていると、父さんが笑いながら戻ってきた。


「ははは。すごいなこれは。これはダガンが打ったんだろう?」


「がははは。そうだ。前の2本は弟子が打ったヤツでな」


「なるほどな。まぁあの2本もさっき話した通り悪くはないんだが、やはりコレは別格過ぎる。あの鉄板を斬ったのに刃こぼれもしてないし、思っていた以上に力が乗せやすい」


 父さんはそう言いながら握られている剣を見る。


「がははは。フェディにそう言われるなら上々だ。その剣はおまえさんにやる。弟の打った剣を使ってるのは知ってるから、予備として持って行け」


「いいのか?」


「あぁ、かの()()()に試し切りを頼んだんだ。これくらい安いものだ」


 ダガンはからかうようにニヤッと笑いながらそう言うと、父さんは苦笑しながらもお礼を言っている。


 そのあと少し話をしていると訓練場へ向かう時間になったので、ダガンに「またオルティエンに帰る前には顔を出す」という約束をして鍛冶屋をあとにした。

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