174.鍛冶屋
その土の球を投げて、それをキャッチしたり体で受け止めたりして遊んだ。
耐久性も気になったので、蹴ったりもしたが問題はないようだ。
途中からは姉さんも少し【身体強化】を使って投げたりしており、さすがに俺は受け止められる気がしなかったが、シラヒメはもちろん、兄さんもソレを受け止めて投げ返したりと楽しそうにしていた。
――俺が受け止めようとすると軽く吹っ飛ぶ気がする……まぁボールの耐久は、シラヒメが後ろ足で蹴っても大丈夫みたいだし、十分すぎるかな。アレを平然と受け止る姉さんには驚いたけど……。
なににせよ、みんな楽しんでくれたようで良かったと思いつつ、"姉さんは体力を温存しておきたかったのでは"とも思ったが、楽しく遊んでいるところに水を差すのも嫌なので黙っておいた。
――今度はシラヒメが1人? 1頭? でも遊べるように、咥える取っ手みたいなものがついてるオモチャを作ってみようかなぁ。魔法で作ると長時間は持たないから、そういうのはちゃんとしたところで作ってもらった方がいいか?
お昼ご飯も食べ終わって食休みに一息ついているときにそんなことを考えていると、父さんが口を開いた。
「さて、そろそろ向かうか」
「うん!」
姉さんがいち早く元気に返事をし、そのあと俺と兄さんも返事をして席を立つ。
玄関先に出るとグラニトが馬車の近くで待機していた。
「今日はよろしく頼む」
「いや、こちらこそ、ナルメラド騎士団の訓練に参加させてもらえて感謝しております」
話を聞いたところ、グラニトは王都に来てから空いている日は自主的に鍛練や、顔見知りと稽古などをしていたらしい。
そんな鍛錬を欠かさずやっているグラニトからすれば、他の騎士団の訓練に参加させてもらえることはとても嬉しいことのようだ。
「まだいつもの口調でいいんだが……」
「いやいや、もう切り替えておかないと、訓練場に着いたら気がそっちにいってしまって、切り替えられない可能性があるので」
グラニトは口ではそう言っているが、少しニヤケているので冗談交じりなのが分かる。
「さすがにそんなわけないだろう……まぁおまえは立場上オルティエンから離れることはそうそうないし、他の騎士団と訓練することなんて滅多にないから期待しているのは分かるが……」
父さんもそのことが分かっているようで、呆れたように苦笑しながらそう言う。
「隣のルアード騎士団とはたまに合同演習などありますが、逆に言えばそこだけですからね。あとはこういうどちらかが滞在しているときに、個人的に接点のあるコーエン殿と稽古をしてるくらいでしょうか」
「そのコーエンのいる1番隊もいるからな。いい訓練になるだろうし、励むといい」
父さんがそう言うと、グラニトは仰々しく「はっ!」と返事をするので、父さんは再び苦笑している。
――"1番隊も"ってことは他の隊の人もいるのか。結構な人数になりそうだなぁ……え、俺はそんな中で魔法を使わなきゃいけないのか……少し緊張してきた……。
「早く行きましょ!」
コーエンさんとの約束を思い出して緊張し始めている俺とは違い、姉さんはすごく楽しそうにしている。
「そうだな。鍛冶屋に挨拶に行かないといけないし、早くしないと時間がギリギリになるな」
父さんがそう言うと、姉さんはハッとした表情をして素早く馬車に乗り込む。
「ほら! お兄ちゃんもカーリーンも早く!」
姉さんに急かされた兄さんと俺が馬車に乗り込み、そんな様子を微笑ましい表情で見ていた両親も乗り込むと出発した。
訓練場は北西にあるとのことで今日は西門から出るらしく、貴族街を出てそちらへ向かう。
目的地である鍛冶屋はその途中にあるらしく、アリーシアと行った服屋もその近くだったはずなので、ある程度区画ごとに店の傾向があるようだ。
しばらく外を眺めながら馬車に揺られていると、徐々に武器を持っているハンターや冒険者らしき人が多くなり、武具屋が目に付くようになった。
「武器とか売ってるお店多いね」
「まぁ王都は人が多いからなぁ。武具を作るにも修繕や手入れするにも時間がかかるから、その分店も多いな」
――たしかに機械とかを使った大量生産じゃなく、1つ1つ職人が作ってるんだもんな。
「でも王都付近ってモンスターも多くないみたいだし、あんまりハンターとかの依頼はなさそうだけど……」
「そうでもないぞ。弱いがモンスター自体は頻繁に出現する。それをハンターたちが討伐してくれているから、ここまで少ないんだ」
「なるほど……でも弱いってことは報酬もあんまり多くないんじゃ?」
「はははっ。まぁ王都の依頼は国が発注しているものも多くて、報酬も高めだからな。まぁ討伐の報酬が多めというだけで、弱いモンスターの素材は安いからそちらの追加収入は期待できないが、安全ではあるな」
――極端にいうと、高額ではないけれど安定した収入を得るか、オルティエンのような辺境で高額な素材を狙って一気に稼ぐかって感じになるのか……。
そんな話をしていると目的地に到着したようで馬車が止まる。
御者をしていたリデーナがドアを開けるので、みんなで馬車を降りた。
目の前には、実用性重視なのか装飾などが一切ない、無骨な"いかにも"な建物が建っている。
少し奥にある煙突からは煙が立ち上り、金属を叩く音が響いていることからも、ここが目的の鍛冶屋だとすぐに分かった。
父さんを先頭に店に入ると防音対策をしているのか、外ではあれだけ聞こえていた金属を叩く音が小さく聞こえる。
棚を整理していた店員さんに会釈され、俺たちはそのままカウンターの方へ向かう。
「いらっしゃいませ」
奥にあるカウンターにいた若い男性店員さんはそう言いながら、不思議そうに俺たちを見ている。
――まぁ父さんや兄さん、ギリギリ姉さんも客として来てもおかしくないだろうけど、まだ見るからに武器を持つには幼過ぎる俺とか、お茶会に参加したときほど飾り気があるわけじゃないけれど、ドレスを着ている母さんもいるし、そんな家族が鍛冶屋に来たらそんな表情にもなるよな……。
「ほ、本日はどのようなご用件で?」
そういう視線で見るのも不躾だと思ったのか、一瞬ハッとした表情をした店員さんは父さんを見てそう尋ねる。
「ダガン殿はいるか?」
「お、親方ですか?」
親方の兄の名前はダガンというらしく、それを聞いた店員さんは少し驚いた表情でそう聞き返す。
「あぁ。約束はしていないんだが、"フェディが来た"と言えば分かるはずだ」
「は、はぁ。少々お待ちください」
店員さんはそう言うと、カウンターのうしろにあるドアを開ける。
その瞬間、金属を叩く音や炉か何かのゴォッという音が外で聞こえていた以上に響き、ドアからある程度離れているにも関わらず、熱も感じられた。
――うおっ!? 思ってた以上にスゴイ音だな……それにしても隣が作業場でドアもそこまで分厚くないのに、この轟音と熱気を遮断できるのか……魔道具ではないみたいだから、そういう素材があるんだろうなぁ。
そう思って一旦閉じられたドアを見ていると、そこから声が聞こえてきた。
「あぁ!? 家族の客だぁ? 子連れでドレスを着た夫人も一緒ぉ? またどっかの貴族が子供に剣でも買いに来ただけだろ? おまえはまだそんな対処もできんのかぁ!!」
その怒鳴り声は低くともよく通る声だなと思いつつ、苦笑する。
――"また"ってことは前にそういうことがあったのか……それにしても、あれだけ遮音性のあるドアを貫通するダガンさんの声量スゴイな……。
対応してくれた店員さんの声は聞こえないのに、ダガンの声だけ聞こえているのでそう思いながら待っていると、さらに声が聞こえてきた。
「あぁん!? フェディ!? 赤髪のデカイやつか? それを先に言わんかぁ!! おまえはこれをやっとけ! あとで確認するから手ぇ抜くんじゃねぇぞ!」
"赤髪のデカイやつ"と表現されたことで、父さんは苦笑いしながら「相変わらずだなぁ」と呟いている。
金属を叩く音が止まったかと思うと、先ほどより弱々しい音で再びなり始めたので、店員さんと交代したのだろうと思う。
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