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172.遊びの準備

 体がゆすられる感覚で徐々に意識が覚醒していく。


「カーリーン、朝よ!」


 元気な声が聞こえるが、ゆすってくる力はそこまで込められていない。


 ――あー。そういえば、いい目覚ましになるかと思って、昨日も姉さんと寝たんだっけ……。


 その予想は正しかったようで、予定のある日はスッキリと起きられる姉さんに起こされている。


 声はハッキリとしているが、俺の枕となっている腕もそのままなので、本気で起こそうとしているのかは怪しいが。


 ――普段は俺の方が早く起きるから、これくらいでも起きると思われてるのかもしれないけど。


 実際に頭も起きてきたので目を開けると、姉さんのいい笑顔が見えた。


「あ! おはよう、カーリーン」


「うん、おはよー」


 まだすこし寝ぼけている状態で、軽くあくびをしながら体を起こす。


「……予定は昼からだから、朝はゆっくりでいいって言われなかったっけ?」


「言われたわね」


「午後から訓練場にいくから、朝の稽古はやらないとも言ってなかった?」


「言われたわね……」


 休みの日や朝に予定がない日は、各自が起きたタイミングで朝食をとったりと割と自由なので、もう少し寝ていることもできた。


 なので、"それなのにどうしてこんな早くに起きたの?"と言いたげな俺の言葉を聞いて、姉さんは徐々に気まずそうにしていく。


「まぁ姉さんなら今日は早く起きると分かってて一緒に寝たんだから、別にいいんだけどね。朝は何も予定ないけど何しようか?」


 早くに起こされること自体はよかったのだが、特にやることも決めていなかったので相談してみると、どこかホッとした表情をした姉さんが、一緒に考えてくれる。


「そうねぇ……稽古以外ねぇ……午後からの分に体力は温存しておきたいし……」


 ――姉さんの体力なら午前中遊びまわったとしても、午後の稽古も十分動けそうだけどな……。


 姉さんのつぶやきを聞いてそう思っていると、何か思いついたのか手を叩いて笑顔になる。


「そうだわ! シラヒメと遊びましょ!」


「シラヒメと……」


「ど、どう?」


 ――それも結構体力を使うんじゃ……? まぁでもそれもありだな。ボールとかってこの屋敷にあるのかな? なければ土魔法でそれっぽいものを作れるか試せばいいか。


 自分の提案が受け入れられるか不安そうな表情になっている姉さんをそのままにしておくのも可哀想なので、「うん、いいね!」と返事をすると、笑顔に戻る。


「それなら早く着替えて朝ごはんを食べに行きましょ」


 姉さんがそう言うのと同時に、ドアがノックされてリデーナの声がした。


「おはようございます。エルティリーナ様、カーリーン様」


 リデーナが部屋に入ってきてそう言うので、姉さんと俺も返事をする。


「リデーナがきたってことは、父さんたちは朝ごはん食べたの?」


 王都に来てからリデーナは両親のお世話をメインにしているので、そのリデーナがこの時間に手が空いたということは、朝食を食べているか食べ終わって食休みをしているのだと思ってそう聞く。


「いえ、リビングにはおられますが、エルティリーナ様ならそろそろ起きるのではないかと旦那さまがおっしゃいまして。様子を見に来たらちょうどお声が聞こえましたので」


「そうだね。いまさっき起きたところだよ……あ、そうそう。午前中は予定がないみたいだから、シラヒメと遊びたいんだけど大丈夫かな?」


「えぇ、問題ないかと。準備しておきますね」


「うん、お願い。それじゃあ着替えはリデーナに手伝ってもらうから、姉さんも着替えてきたら?」


「そうするわね」


 いつもであれば俺の着替えを手伝うと言い始めるのだが、このあとシラヒメと遊べるのが楽しみなのか、素直にそう言って自分の部屋に戻った。




 着替えてリビング着くと兄さんも起きてきており、リデーナがなかなか戻ってこないから俺たちも起きたと察して待ってくれていたようで、みんなが揃ってから朝ごはんを食べた。


 食事中にこのあとシラヒメと遊ぶ許可を一応貰っておくために話をすると、兄さんや両親もとくにやることがないので、朝食後にみんなで庭に出ることになった。


 外に出ると、ちょうどリデーナが厩舎からシラヒメを出してくれており、リデーナはシラヒメが言葉が分かると知っているので、手綱などをつけずにそのまま出したようだ。


 シラヒメは俺たち――おもに俺を見て嬉しそうに尻尾をブンブンと振っているが、駆け寄ってきたりしないあたり、リデーナがちゃんと言い聞かせておいたのだろう。


「おはよう、シラヒメ」


 そのまま落ち着いた足取りで近くまできたシラヒメをそう言いながら撫でてあげると、『うん、おはよう!』と返事をしてくれる。


 ――まぁ尻尾の方は全然落ち着いてなかったけどな。更に勢いが増してるし。


 その様子がおかしくて笑いながら更になでる。


「魔力は平気?」


『うん。昨日動いたくらいじゃ全然減らないよ』


「さすが容量が多いだけあるね……」


『それを言うなら、その量を与えられる君の魔力量もすごいね』


 "それはそうだ"と思いながらなでていた手を離す。


「午前中やることがないからシラヒメと遊ぼうと思って」


『うん! 出してもらうときに聞いたよ! また私に乗る?』


「それもいいんだけど、今日は別の遊びもやってみたくて。ちょっと準備があるから、それまでは姉さんたちを乗せたりして遊んでて」


『うん、分かったよ!』


「行こ! シラヒメ!」


 俺の言葉を聞いてシラヒメの体を撫でていた姉さんが元気よくそう言い、兄さんと一緒に庭の真ん中の方へ向かう。


「さて……作れるかなぁ……」


 食事中に両親やリアミに"ボールはないか"と聞いたが、滅多に滞在してこなかったこの屋敷には、そういう遊び道具は無いらしいので、魔法で作ってみることにした。


 ――買いに行こうとしてたけど、それなら一緒に行って選びたいしなぁ。今日の帰りとかに時間がありそうなら寄ってもらうのもいいかもな。


 そんなことを考えながら【ロッククリエイト】と呟いて、ボーリング球くらいの土の球を作り出す。


「お、重っ!? って、そりゃそうだよな……こんなんじゃ遊びには使えないか」


 土の球というイメージだけで作ったため、重さもイメージしたボーリング球のように重いものになっていた。


 ――そのままボーリングのような遊びはできるだろうけど、今は球蹴りとか投げられるくらいのものを作りたいんだよな……そうなると中をカラにすればいいか?


 もう一度【ロッククリエイト】と呟いて、同じくらいの大きさの土の球を作る。


「……よく考えたらこのサイズを投げるって俺にはキツイのでは? シラヒメも咥えられるようなサイズでもないし……まぁ蹴って遊ぶくらいはできるか」


 今度は持ち上げることはできたので、両手で抱えてそう言いながら蹴ってみようと手を放すと、地面に落ちた土の球は簡単に割れてしまった。


 ――あぁ……軽くしようと薄くしたせいで強度が……というか硬くするのはいいんだけど、それだと危ないか? いや、そもそもそんな速度が出るように蹴ったりはしないか……いやぁ、姉さんとか普通にこの弾力がない球でもすごい速度出しそうだなぁ……まぁ加護もあるから怪我もしにくいし大丈夫か……?


 そんなことを考えながら次の土の球を作り、それを再び持ち上げて落としてみる。


 硬くなるように作った土の球は、割れることもなくトサッという音と共に、地面に落ちて止まる。


「……まぁ当然だけど弾まないよな……」


 ――柔らかく……? そうなると形状の維持とか大変か? 弾んだり弾力があるものは普通にボールとして作られたものを用意した方がよさそうだなぁ……。


 そう思いながらも、何とかできないかと何回か試しに作っていく様子を、両親に微笑ましい目で見られていた。

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