171.一息
夕方になるまで交代しつつ何回かシラヒメに乗せてもらって一緒に遊んだ。
――ずっと乗せてもらってばかりだったから、"シラヒメと遊んだ"と言っていいのか悩むけど……まぁシラヒメも満足したようだからオッケーだな。シラヒメならボールとかを使って色んな遊びもできそうだし、今度やってみよう。
そんなことを考えながらシラヒメを厩舎まで一緒に連れて行ったあと、屋敷に入る。
夕食は予定通りみんなでうちで食べることになり、そのころには伯父さんと一緒にばあちゃんも来た。
食事中の会話でアリーシアがシラヒメに乗せてもらったことを話し、それを聞いた伯父さんは心配そうな表情を浮かべたが、楽しそうに話すアリーシアの顔を見て何も言えなくなっていた。
「さて。明日はうちの騎士団の訓練に参加する予定だったな」
食後のお茶を飲みながら雑談していると、じいちゃんが父さんにそう言っている。
――そういえばそんな約束もあったな……早いうちから決まっていた予定だったのに、色々あり過ぎて忘れてたよ……。
「あぁ、今回はエルやカーリーンも連れていきたいんだが、いいだろうか?」
「問題ない。前回参加したときにライの戦闘能力を見ている者ばかりだから、その妹となると何も言ってこないだろう。カーリーンのこともコーエンから聞いた。この間やっていた【ウォーターボール】を使うやつをやるのだろう?」
「そうなっているな」
「カーリーンが魔法を使うということは、カレアも一緒だろうし心配することはないだろうが、カーリーンはそれでいいのか?」
「うん。大丈夫だよ。オルティエンでコーエンさんと約束もしたし」
「そうか、それならいい。場所は前と同じく、北西にある外の訓練場だ」
「外って、王都の外?」
「あぁ。中にも訓練場はあるが、フェディも参加する訓練だから外の方がいいと思ってそっちにしたのだ」
――町なかだと魔法の練習とかはしにくいから外にもあるとは言ってたけど……父さんは訓練でどんなことをしたんだ……。
「訓練場もいくつか持ってるんだね」
「まぁな。使わないときは他のところに貸し出したりしている」
「騎士団っていくつかあるの?」
父さんの訓練の様子も気になるが、それは明日実際に見ることになるのでおいておいて、他の騎士団の話が気になったので聞いてみる。
「そうだな。広い領地を持っている貴族や、オルティエンのように辺境の地を治める貴族は大体持っている。あとは王都には王国騎士団があるが、うちのような高位貴族は持っていたりするな」
「そうなると王都だけでも結構な数の騎士団がありそうだね……」
「まぁありはするというだけで、うちのようにそれなりな人数がいるところはないがな」
「王都の騎士団の中では、ナルメラド騎士団は王国騎士団の次に人数が多いものね」
じいちゃんがどこか誇らしげに言うと、母さんがそう補足してくれる。
――まぁ先王陛下の弟で、軍部を預かってた人だしな……そのあたりの人数は多くもなるか。
「そういえば軍と騎士団って分かれてるんだよね? どう違うの?」
そのあたりも少し気になったので、軽く聞いてみることにした。
「基本的な役割としては、軍はモンスターの駆除や町から離れたところで戦闘をすることが多い。騎士団は町の防衛や警備が主な役割だな」
「そうなんだ」
「といっても騎士団もモンスター討伐はする。オルティエンでも騎士団がどちらもやっているだろう?」
「そういえばそうだね……」
「いくつか理由があるが、その1つはモンスター討伐に関しては冒険者やハンターもいるから、大規模な討伐作戦でもない限り、軍が必要になることが少ないからだな」
「冒険者たちの収入源にもなってるモンスター討伐をやりすぎるわけにもいかないし、そうなると軍が何もすることがなくて、維持費だけかかっていくことになるもんね……」
俺がそう言うと大人たちは目を見開く。
といっても両親は苦笑しているので、他の大人たちだが。
「ふはははは。そうだな。まぁモンスター退治をやりすぎるというのはまた違うが、そのバランスが大事だからな。他に気になる事があれば、明日コーエンにも聞いてみるといい」
気を取り直したじいちゃんが、愉快そうに笑いながらそう言うので「うん」と返事をした。
――たしかにモンスターを駆除できるならした方が安全にはなるんだろうけど、そればかりに人員とかを割くわけにもいかないし、モンスターから取れる素材で生計を立ててる人もいるから、ある意味共存しているようなものだもんな。
そのあと、騎士団を持たない領地でも、警備隊などがちゃんといることなどをザックリと教えてくれたが、細かな違いなどまでは話してくれなかった。
――さすがに小難しい話はまだ早いと思ったのかな? まぁ俺としてもそこまで深く知ろうとしてるわけじゃないし、聞き始めると長くなりそうだからちょうどいいか。
そう思ってお茶を一口飲むとじいちゃんもいい区切りだと思ったようで、その手の話は終わって明日の話に戻り、最終的な予定の確認をしたあとみんな帰っていった。
みんなが帰ったあとお風呂に入り、母さんと姉さんはまだ出てきていないので、リビングには父さんと兄さんと俺の3人だけ座っている。
「そういえばさっきは言いそびれたが、訓練場に向かう途中で寄る場所があるから、お昼を食べたらすぐにでるぞ」
父さんが思い出したようにそう言う。
「どこに寄るの?」
「鍛冶屋だな」
「武器か何か見るの?」
「あー、いや、親方の兄がやっているところだ」
――そういえば王都にいるって言ってたっけ。
「ライやエルの剣を打ってもらったからな。手紙は出しているが、時間があるから直接会っておこうかとな」
「なるほどね。親方のお兄さんも、自分が打った剣の使い手を見ておきたいだろうしね」
「ははは。まぁそういうことだ。明日はその剣を持っていくから、ちゃんとお礼を言わないとな」
父さんが微笑みながらそう言うと、兄さんが返事をする。
そう話をしていると母さんたちもお風呂から上がったようで、ラフな部屋着に着替えてリビングに戻ってきた。
それぞれが席に着くと、リアミが母さんたちの前に飲み物の入ったコップを置く。
「カーリーン、これもっと冷やして~」
隣に座った姉さんが果実水をひと口飲んだあと、そう言いながらコップを向けてくる。
「せっかくお風呂で温まったのに、冷たいものを飲むのはあまり良くないらしいよ?」
「むぅ~。少しくらいいじゃない」
俺もそうは言ったものの風呂上がりに冷たい飲み物を飲むのは好きで、自分の分は冷やして飲んでいたためそれ以上は何も言わず、姉さんのコップを受け取って少しだけ冷やしてあげる。
姉さんにコップを返すと、美味しそうにそれを飲み始めた。
「さて、今さっきライたちには言ったんだが、明日は剣を打ってもらった鍛冶屋に寄ってから訓練場に向かうぞ」
俺と姉さんの様子を微笑ましく見ていた父さんが、姉さんが一息ついたタイミングでそう言う。
「ほんと!? お礼を言わなくちゃ!」
「はははは。そうだな」
――姉さんからすれば初めてのちゃんとした剣だもんな。稽古でよく土人形を斬ってるけど、今も問題なく使えてるくらい頑丈で大切にもしてるし、そんな剣を打ってくれた人に会うんだからこれだけテンションが上がるのも仕方ないか。
隣で目を輝かせて"どんな人なのか"とか"他にも武器は置いてあるのか"などと、興奮しながら聞いている姉さんを見ながらそう思う。
俺は剣はまだ持っていないので関係があるわけではないが、以前じいちゃんが"鍛冶の腕はこの国でもトップクラス"と言っていた人物に会うのを、楽しみにしながら眠りについた。
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