170.シラヒメ
――名前……名前なぁ……どういうのが似合うかなぁ……。
椅子に座ってシロを見ながら考える。
その様子を父さんとじいちゃんが微笑ましく見ているが、邪魔をしないようにしてくれているのか、話しかけてはこない。
――日に当たると輝くようなキレイな白い毛並みだし……プラチナ? いやぁ安直すぎるよなぁ……それにすでに"シロ"って言い慣れちゃってる感があるし……。
いくつか候補を考えるが、なかなかコレという名前を決められずにいると、着替えに行ったみんなが戻ってきた。
ドレスから普段着に着替えるだけなので、そこまで時間はかからなかったようだ。
姉さんとアリーシアが早くシロと遊びたがったという可能性もあるが。
「エルたちの着替えも終わったようだな。名前は決まったか? まぁ今すぐに決める必要はとくにはないから、またあとでもいいんだが」
父さんが屋敷から出てきた姉さんたちを見てそう聞いてくる。
「うぅ~ん……よし! シロ、君の名前は今から"シラヒメ"だよ!」
――漢字にすると"白姫"になって、飼育場での呼び名をつなげただけなんだけど……。
『シラヒメ!』
「仮名とあまり変わらないけど……」
『ううん! 私は気に入ったよ! 飼育場で呼んでくれてた名前も入ってるし、嬉しいよ!』
シロはそう言って尻尾を勢いよく振っている。
――シロが気に入ってくれたならよかった。長い間あの馬房にいたから、仮名だけど愛着はあったんだろうな。
「それじゃあ、改めて紹介だな」
みんなが近くまできたところで、父さんがそう言って俺に視線を向ける。
「うん。今日からうちにお迎えした"シラヒメ"だよ。さっきも言ったけど、言葉が理解できる賢い魔馬だから、何かあったら話しかけてあげるといいよ」
「シラヒメね、分かったわ! よろしくねシラヒメ。私はカーリーンの姉のエルティリーナよ」
俺が紹介すると、さっそく姉さんがシラヒメをなでながら自己紹介している。
さきほどシラヒメには軽く家族の話をしたがそれを言うのは野暮なので、何も言わずに姉さんやアリーシアが自己紹介をしているのを見ていた。
「ねぇ、もう遊んでいいの?」
「あぁ、いいぞ。シラヒメはおまえたちを乗せたいらしいから、乗ってみるといい」
父さんはそう言いながらナイロからサドルを受け取り、手早くシラヒメに装着する。
その間もシラヒメはずっと尻尾を振っていたので、すごく楽しみにしているのが伝わってきた。
「シラヒメ、乗ってもいい?」
姉さんがそう聞くと、シラヒメは『いいよ~!』とひと鳴きして、乗りやすいように動きを止める。
「よいしょっ!」
姉さんはそう言いながら跳びあがってサドルにまたがる。
――さすが姉さん……驚きの瞬発力だよ……。
姉さんの身体能力の高さは稽古などで見慣れているはずなのだが、シラヒメは魔馬としては小柄だとはいえ普通の馬と同じくらいはあるのに、その高さに飛び乗るとは思わなかったので少し驚く。
装着されたサドルは相乗りできるように広く作られているので、アリーシアも一緒に乗るらしく、父さんに抱き上げられて姉さんのうしろに座った。
「シラヒメ、嬉しくてテンションが上がってるのは分かるんだけど、アリーシアさんも乗ってるからゆっくりね?」
2人が背中に乗ってから勢いよく振られている尻尾を見ながら再度注意をすると、『うん、分かってるよ!』と返事が帰ってくる。
「それじゃあシラヒメ、動いていいわよ」
普通の馬だと手綱などを使って合図を出したりするのだが、シラヒメは言葉で指示できるので、姉さんは手綱を軽く握っただけの状態でそう言う。
シラヒメはその言葉に反応するように軽くひと鳴きしたあと、ゆっくりと歩きだす。
ちゃんと約束を守ってくれているようで走ったりはせず、庭の外周を程よい速度で移動していく。
念のために父さんが一緒に移動しているのだが、シラヒメの歩き方が特殊なのか、乗っている姉さんたちはあまり揺れているように見えず、父さんもそれを不思議そうに見ている。
――飼育場で乗せてくれたときは、もっと揺れてる感じがしたんだけどなぁ……さっき走り回ったから調子が戻ってきたのかな?
そのまま1周して戻ってくると、アリーシアは父さんに降ろしてもらう。
「どうだった?」
「初めて乗ったのだけど、思ったより揺れないし、風が気持ちよかったわ!」
アリーシアに感想を聞くと、嬉しそうに興奮しながらそう答える。
「次はカーリーンも一緒に乗りましょ!」
姉さんはそのままもう1週するつもりのようで、シラヒメから降りずにそう言ってくる。
『うん! 乗って乗って!』
そこにシラヒメからもそう言われたので、父さんに抱き上げられて姉さんの前に座る形で乗ることになった。
「いいよ、シラヒメ」
俺がそう言うと、先ほどと同じようにゆっくりと歩きだす。
「昨日より全然揺れないね?」
「そうなの? たしかに普通の馬より揺れないな~って思ってたけど」
『昨日は魔力を貰ったばかりで興奮してたからね……』
「なるほどね。これなら乗馬の練習も快適にできそうだよ」
『あはは。それはよかった』
「……ねぇ、シラヒメ、もう少し早く歩ける?」
「ね、姉さん?」
「大丈夫よ。今もこんなに揺れないんだし、ちゃんとカーリーンは支えてあげるわ」
姉さんはそう言って手綱を握っている腕を俺の腕の下に通し、軽く抱くような形でしっかり支えてくれる。
『どうする? あまり揺れないようにはするけど』
「う……分かったよ。もう少し早く歩いていいよ」
『分かった~』
シラヒメは上機嫌でそう返事をすると速度を上げる。
一緒に歩いている父さんが駆け足になるくらいには速度が出ているらしいが、受ける風が少し強くなったと思うくらいで、揺れはほとんど変わらない。
「おぉ~! 気持ちいい!」
「ね~!」
移動速度が上がったことで1周する時間も短くなり、すぐにみんなのところに戻った。
「ねぇねぇシラヒメ、走ってみてくれない?」
父さんに降ろしてもらうと、まだシラヒメに乗ったままの姉さんがそんなことを言いだした。
『え、それは乗せたまま?』
シラヒメの言葉は俺にしか分からないので、通訳してあげる。
「そうよ。いい?」
姉さんは一応父さんにも許可を取るように聞いている。
「まぁ、エルやライなら大丈夫だろう。練習もしているから簡単に落とされることはないだろうし、落ちたとしてもちゃんと受け身が取れるから怪我なんてしないだろう」
――たしかに兄さんや姉さんだったら、あの高さから落ちたくらいで怪我をすることはないか……。
普段の稽古の様子を思い出してそう思うので、俺もシラヒメに許可を出す。
「でも無茶な走りはしないでね? さっきみたいに跳んだりとか……」
『さすがにそこまではしないよ。君も君のお父さんも許可を出してるみたいだし、喜んでお姉さんを乗せて走るよ!』
許可を貰えた姉さんとシラヒメは上機嫌で再び外周を走る位置に付き、さすがにある程度揺れることを察している姉さんは手綱をしっかりと握る。
「いいわよ」
『うん、いくね!』
シラヒメがそう言うと一気に走り出す。
走り回ってたときのような急発進というわけではないが、走り出したあとは徐々に速くなっていく。
「あははは! 速いわね!」
あっという間に半分まで走り、姉さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
「さすがに速いな。それにエルも十分安定して乗れているのは、シラヒメの走り方のおかげか?」
父さんはその様子を特に心配している様子もなく眺めてそう言っている。
「エル、かなり早かったけど、怖くなかった?」
戻って来てシラヒメから降りた姉さんにアリーシアがそう聞くと、「楽しかったわよ!」といい笑顔で答えている。
「も、もう一回乗ってもいいですか?」
『うん、いいよ~!』
「よければカーリーン君も一緒に……」
――緊張してるみたいだけど、そもそもアリーシアさんは乗り慣れてないんだし、今の走りを見たあとだと仕方ないよな。
俺もとくに断る理由がないので承諾すると、姉さんのときと同じように俺が前に座る形で乗る。
「シラヒメ、分かってると思うけど、俺たちはあんな走りには耐えられないからね?」
『うん。"少し早い程度で歩く"くらいにしておくよ』
「……お願いね?」
あの走りのあとなので少し不安になっていたがちゃんと分かってくれていたようで、楽しむことができるくらいの速度で歩いてくれた。
アリーシアは、先ほど乗ったときより速いので初めは緊張していたようだが、途中からはちゃんと楽しめたようだった。
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