17.成長の楽しみ
誰かに抱きかかえられる感覚で俺の意識は覚醒した。
まだ若干眠い目を開けてみると、部屋は少し赤みがかった日が入っていたため夕方になったんだと分かる。
――はっ! もう夕方!? 昼からほとんど寝てたな……結局授乳なしで寝ちゃってお腹もすいたし……
「ふふ。カーリーンも今日は早かったからぐっすりだったわね。寝てたところ悪いんだけど、もうすぐ夕飯だから起きましょうね」
そう言って仕事を手伝ってたリデーナと部屋を出て移動する。
「今日はまったく起きませんでしたね」
「ね。お昼を食べてから何も食べていないから、カーリーンの夕飯は少し多めにしてもらうように言ってくれるかしら?」
「かしこまりました」
そう言ったリデーナはリビングのドアを開けて母さんが入った後厨房へと向かった。
「ライ、エル、あれからどうだった?」
どうやらあれからも稽古は続いていたようで、母さんは席に座ると対面に座っている子供達に今日の稽古のことを聞いた。
「少しは魔力は動かせるようになったのですが、放出はまだです……」
「きりょく? の方だと思うんだけど、すこしおおきくできた!」
兄さんはしょんぼりとし、姉さんは対照的に元気に報告していた。
「ライ、すぐに放出まで出来るものではないから、気長に頑張りなさい。エルは気力の方が動かせたのは偉いわ。頑張ったわね」
そう言われて姉さんは嬉しそうに笑い、兄さんは意気込んで返事をしていた。
「エルは早々に武技もつかえるようになりそうだなぁ。もちろんライも魔力の放出までできるようになれば、その分気力の把握もしやすくなって、すぐに使えるようになるだろう」
父さんがそう言うと、母さんが子供たちに聞こえないようにするために少し父さんに寄る。
「あなた。あまりプレッシャーになる事は言うものじゃないわよ? 私だって気力はほとんど分からないんだから。ライももしかしたら私と同じかもしれないでしょ?」
「む、むぅ。だがなぁ……」
「安心してフェディ。エルは間違いなく気力を使えるようになるだろうから、ライの魔法は私がしっかりと教えるわ」
ようやく子供に"自分の得意分野を教えることができるかもしれない"と嬉しそうに母さんが話す。
――姉さんは気力を扱えることは確定してるのか……姉さんのあの様子だと確かに魔法か武技かと言われれば間違いなく後者の適性が高そうではあるんだけどさ……
「エルには魔法は教えないのか?」
「そんなこと言ってないわ。魔力操作がちゃんとできるようになればもちろん教えますとも。まぁまだ魔力と気力の稽古は始めたばかりだし、しばらくは様子を見てからになるでしょうけどね」
「ライも剣を頑張ってるし、エルも楽しそうに参加するものだから、俺もライも楽しくできそうだからな」
「うふふ。そうね。カーリーンも混ざりたそうにしていたし、これからが楽しみね」
「あぁ。場所が場所だけに戦闘能力が必要だからと稽古をはじめたが、子供たちがこれだけ自分からやってくれるのは嬉しいことだな」
「ふふ。何言ってるの。あなたと私の子よ? どっちかの素質は受け継ぐ可能性が高いし、あなたの本もあるのだから感化されるなっていう方が無理なんじゃないかしら?」
「そうだな……おまえの子だもんな……」
「どういう意味かしら?」
「い、いや! 俺もおまえも決して家に籠るような大人しいタイプじゃなかったもんな!」
「……まぁそうね。そこは否定しないけれど……」
――今までの会話で母さんがお転婆だったのは予測できるけど、父さんの言い方だと何かありそうだなぁ。
リデーナとロレイナートが夕食の載ったワゴンを持ってきたので、内緒話はそこで終わって夕食の時間となった。
夕飯に出てきた離乳食には、昼前に料理人に指示していた通りに舌でつぶせるように柔らかく煮込まれたカボチャも入っていて、とても美味しかった。
夕食が終わると、そのままリビングでみんなでくつろぐというのが、この家族の過ごし方らしい。
食べたばかりではあるが、姉さんの前には小さいボーロが乗せられたお皿が置いてある。
姉さんはそれが好物で食後のデザート感覚でそれを食べるため、夕飯自体は少し少なめになっているようだ。
「はい、あーん!」
前回は自分がある程度食べ終えた後、崩れて残っていた欠片を食べさせてくれていたが、今回は1つも食べずに皿ごと母さんの前に持ってきて、隣の椅子に上がった。
「あーむ」
俺はというと昼間は寝ちゃってて空腹だったため、少し多めに作ってもらった離乳食でも若干足りず、姉さんの出してくれたボーロを素直に感謝しつつ食べることにした。
しばらく姉さんが気力について父さんに聞いていたが、予想通りというか父さんは感覚で扱っているため説明がうまくできずにいた。
「なんというか、ブワーっと広げて身体を覆って、ギュッと固めてだな……」
「わかった! あしたやってみる!」
そんな擬音がよく出てくるような説明でも姉さんは何か納得したらしく、明日の稽古が楽しみになったようだった。
いい時間になったためそれぞれが寝室へと向かい、「おやすみなさい」と部屋の前で別れる。
俺もベビーベッドに寝かされて両親も寝る用意が終わったが、今日は姉さんが突撃してくる気配はない。
「今日はエル来ないのかしら? 稽古楽しみにしてるのに」
「今朝早かったし疲れたからすぐ寝てしまったのか、もしかしたら楽しみすぎて眠れそうにないから邪魔にならないように来ないのかもな」
「ふふ。さすがにまだそこまで考えないでしょう」
「遅くまで起きていると叱られるからか?」
「……それなら全然あり得るわね」
「それにしても2人の成長には驚かされるな」
「えぇ、ライは魔力をエルは気力を感じ取るだけじゃなく、自分の意志で動かせるようになったんですものね。今朝教えたばかりなのに」
「あぁ。ライが魔力の方を先に習得しそうだから、これでカレアが拗ねなくて済むな」
「んもう! だから拗ねてないわよ! それに私にはカーリーンがいるから平気ですー!」
まるで子供のように可愛らしい拗ね方で母さんがいうと、父さんが笑いながら肩を抱き寄せる。
「悪かったって。そういえばカーリーンは魔法の適性が高いとか言っていたが、どういうことだ?」
「あなたがいない時だったかしら? リデーナがカーリーンを抱いていた時に気づいてくれたんだけどね。部屋にある魔道具とかばかりに目を止めたり、リデーナが変装用に使ってる魔道具のピアスを不思議そうに見てたらしいのよ」
「あのピアス魔道具だったのか……」
「えぇ。かなり小さなものだし、何か違和感を感じ取らない限りは赤ちゃんが凝視する物でもないわね。それでもカーリーンは見ていたから無意識に魔力を感じ取ってるんじゃないかって話になって、見破ったご褒美に本来の姿を見せてあげたって流れだったのよ」
「なるほどなぁ。それなら確かに才能は有りそうだ」
「えぇ。だからカーリーンに色々教えてあげるのが楽しみなのよねー」
そう言って母さんは優しく頭を撫でてくれる。
「それじゃあ俺もライとエルの稽古を張り切らないとなぁ」
「あら、言わなくても楽しそうだし張り切ってるじゃない」
「そりゃあ……まぁな……」
――母さんも期待してくれているし、何より俺自身が魔法には興味津々だから頑張るしかないな! 魔力を出すだけなら音もないし執務室ではバレなかったから、寝室でもこっそり練習しておこう。魔力が減ると眠くなるし、寝る前なら都合がいいし。
両親の仲睦まじい会話を聞きながらそう意気込んだ俺は、バレないように2人の様子をうかがいながらポスポスと少しずつ魔力を出す訓練をした。
丁度俺の中の睡魔が小突いてきたあたりで両親も寝ることにしたようで、おでこに軽く口づけをされながら「おやすみ」という言葉を聞いた直後に眠った。
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