169.運動
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シロは体の調子を確かめるように庭の外周を走ってみたり、急停止から逆方向へ向き直って急発進したりしている。
時々ジャンプもしているのだが、大人1人分は跳んでいると思う。
それも横の距離という意味ではなく、高さでそれだけ跳んでいるので驚く。
「あんなに高く飛べるんだ……父さんですら飛び越せそう……」
「ははは。そうだなぁ。だが、普通の魔馬でもあれくらいは余裕だから、シロならもっと跳べるだろうな」
そう話している声が聞こえたのか、それからシロは何回かジャンプを繰り返し、その高さは徐々に高くなっていく。
――馬は走ることのイメージが強かったけど、その分脚力はあるんだからジャンプ力もあるか……前世でも馬が跳んでるところなんてまともに見たことなかったけど、ジャンプ力自体は結構あったんだろうな。それにしても、あの飼育場の壁を越えられるって言ってたのは本当だったんだな……。
飼育場から帰ってきたばかりでまだその壁の高さを覚えているので、想像しながらシロのジャンプ力と比べてみると、飛び越えるのが可能なくらい高く跳んでいる。
「……すごいね」
「あれだけ動き回れるのであれば、怪我の心配もないだろうな」
シロのジャンプ力を見て驚いている俺の横で、じいちゃんは安心したような表情でそれを眺めていた。
ひとしきり走り回ったシロは、ゆっくり歩きながら俺たちのところまで来て、いつの間にか用意されていた桶の中の水を勢いよく飲んでいる。
「どう? 満足した?」
『うん! たくさん走れたし、楽しかった!』
「それはよかった。それにしても、あんなに高く跳べるんだね……」
『うぅ~ん。今回は体の調子を確認する感じで動いたからあれくらいだったけど、本気でやればもっと早く走れるし、高く跳べると思うよ?』
「そ、そっか」
『乗ってみる?』
「いやいや、今の話のあととか怖いんだけど……?」
『あ、いや、だれかが乗ってるときは気を付けるし、ちゃんと指示に従うよ!?』
「まぁ今はサドルもつけてないし、それはまた父さんたちが帰ってきてからかな?」
『うん、分かった!』
シロはそう言うと再び水を飲み始める。
結構動いたのでよほど喉が渇いていたのか、どんどん水が減っていく。
「そんなに喉が渇いてたんだ……【ウォーター】」
みるみる水面が下がっていくので飲みにくいかと思い、水を追加で入れてあげる。
『ありがと~。まぁ結構動いたからね』
「やっぱり喉は乾くんだ?」
『さすがにねぇ……ご飯は魔力があれば動くのには問題ないけど、水分はね。ある程度我慢もできるけど、飲めるなら飲みたいよね』
「まぁ水なら魔法で出せるし、いくらでも飲んでいいんだけどさ」
そういうやり取りをしながらしばらくシロと話していると、どこかに行っていたナイロが戻ってきて、父さんたちが帰ってきたことを教えてくれる。
それから少しだけ待っていると、父さんたちが庭まできた。
約束してあったアリーシアと伯母さんも一緒である。
「おかえり~」
俺がみんなに向けてそういうと、それぞれが返事をしてくれる。
「あぁ、ただいま。その子がそうなのか?」
父さんがシロを見ながら聞いてくるので、「うん。そうだよ」と答える。
「たしかに魔馬にしては小柄だな」
「でもすごく高く跳べるし、身体能力は高いよ!」
「ははは、そうかそうか」
俺はさっき見たジャンプのことが忘れられず興奮気味に言うと、父さんはそう笑って撫でてくる。
「キレイな白色ね、名前はなんていうの?」
母さんがシロを見ながらそう聞いてくるが、まだ考えていなかったのでどうしようかと思っていると、姉さんとアリーシアがゆっくりと近づいてきた。
「ねぇ。なでてあげても平気?」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。シロは俺たちの言葉も分かるから、嫌がることじゃなければ理解してくれるよ」
俺にそう言われた姉さんは、シロに向かって「なでてもいい?」と話しかけると、シロは『いいよ~』と言いながらなでやすいように頭を下げる。
「……サラサラで気持ちいいわ」
一緒になでていたアリーシアがそう言うと、姉さんも笑顔で「ね!」と同意している。
「暗くなるには時間があるし、遊んでもいい?」
「あぁ、そうだな。その前にみんな着替えてくるといい。さすがにそのままというわけにはいかんだろう」
姉さんの言ったことに父さんはすんなりと許可を出したが、みんなお茶会に行ったときの服装のままだったのでそう言う。
「そうね。着替えてくるわ」
「アリーシアも着替えは持って来てあるから、きなさい」
「はい!」
アリーシアもこのあと一緒にシロと遊べると分かったからか、笑顔でみんなについて行く。
みんなといっても、きっちりした服装ではあるがもとからシンプルな服装で、すでに首元を緩めている父さんはこの場に残ったままだが。
――遊ぶといっても犬や猫と違って、馬の場合は一緒に走ったり乗ったりするのかな。
「最初になでていいか聞いてきたのが姉さんで、一緒にいたのは従姉のアリーシアさんだよ。2人ともシロと遊ぶのを楽しみにしてたから、乗せてあげると喜ぶんじゃないかな?」
そう思いながらも、シロに家族を紹介すると『うん、分かったよ! それなら乗せて歩きたい!』と上機嫌で言っている。
「姉さんは大丈夫だと思うけど、アリーシアさんが乗ってるときはゆっくり動いてあげてね?」
おそらくアリーシアは乗馬の練習はしていないと思い、追加でシロにそうお願いしていると父さんが近づいてきた。
「本当に言葉が分かるんだな」
シロは承諾する際は頷いたりしているので、その仕草を見て信じたのだろう。
「うん。あ、シロが姉さんたちを乗せたいって言ってるんだけど大丈夫?」
「あぁ、その体格であれば合うサドルもあるからな。今度ちゃんとしたものは作るが、少し動く程度であればソレで大丈夫だろう」
父さんはそう言いながらシロをみて、何か考えているようだ。
「どうしたの?」
「いや、カーリーンもそろそろ乗馬の練習をさせるか悩んでいたんだが……」
こういう場合はよく"どうしたいか"と聞いてくれるのだが、今回はすぐに言わないあたり結構悩んでいるようだ。
――まぁ加護があるから大けがをする可能性は低くても、危ないことに変わりはないしなぁ。とくに俺は、ようやくまともに体力づくりで走れるようになったくらいだし、心配になるのも分かる……。
「シロは言葉も分かるし、"乗る"というよりは"乗せられる"って感じになるだろうけど、シロで練習するなら大丈夫だと思うよ!」
さっきはシロに乗ることを躊躇ったが、それはあの高さのジャンプを見た直後だったからであって、シロに乗ってみたいという気持ち自体は強いのでそう言う。
「……そうだな。それじゃあカーリーンの乗馬の練習はシロにお願いするか」
『うん! まかせて!』
シロはそうひと鳴きしたあと、頭を父さんに擦り付ける。
「お、おぉ? これは"任せろ"とでも言ったのか?」
「あはは、そうみたいだよ」
その行動でシロの言葉が分からない父さんにも伝わったらしく、シロはワシワシとなでられている。
「そういえば、"シロ"と呼んでいるが、それが名前で決定なのか?」
「いや、それは飼育場での仮名だ。新しい名はカーリーンが考えるといっていたが」
じいちゃんにもそう言われて、必死に考える。
「う……ちょ、ちょっと待ってね……みんなが戻ってきたら伝えるよ」
『どんな名前になるか楽しみにしてるよ!』
シロにそう追撃されて、更に悩むことになった。
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