167.旅立ち
ちょっと2度ほど全て書き直してたりして遅くなりました……。
「よし、次にいくぞ」
大伯父さんとじいちゃんの話の区切りついたところで、そう指示を出して次の魔馬の柵へ向かう。
そうして順番にサンにやったように魔力を流していき、シロも昨日魔力を与えたことは秘密にしたままなので、最後に魔力を貰っていた。
「――今日はこれくらいだな」
魔力を流す際は全体を覆う感じではなく、魔石に向けて流した方が効率的だと分かったので、最初に流してもらった子は2回目も流されていた。
魔力の流れや魔馬の様子を見るために時間をかけていたので、それなりに時間は経過している。
まだ終業時間というには早いのだが、一気に魔力を流してどのような影響が出るか分からないため、今日はこの馬房にいる子にだけ流して経過観察するようだ。
「明日は別の馬房の個体で試すことになる。こちらでの作業はこれで終わりだが、報告書の作成を忘れるな」
大伯父さんがそう言うと、揃った声で「はっ! 失礼します!」と返事をし、魔法師団員さんと研究員さんの何人かが馬房を出ていく。
ついて行かなかった研究員さんは、飼育場の職員さんと話があるようで残っているが、とりあえず今日の俺の役目も終わったと思っていいだろう。
――それにしても、今さらだけど先王陛下自ら指揮を執るんだな……じいちゃんは俺のそばにいた方がいいし、そうなるようにしてくれてたのかな?
じいちゃんに抱きかかえられている状態で、そう思いながら大伯父さんを見ていると、残っている研究員さんへの指示も終わったようでこちらに向かってくる。
「カーリーンもご苦労だったな。非常に助かったぞ」
大伯父さんはそう言いながら微笑んで優しくなでてくれるので、「うん!」と笑顔で返事をする。
「これから魔馬たちの調整に忙しくなるな」
「わざわざ兄上が参加することもないのだが……」
言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな表情をしている大伯父さんをみて、じいちゃんが呆れた様子でそう言う。
「まぁそう言うな。ひとまず明日はまた人員を選びなおして試すことになるが、おまえの方は大丈夫か?」
「あぁ。カーリーンとシロのおかげで把握できたから問題ない」
「そうか。明日の様子次第では、またこちらの魔馬たちにも魔力を与えねばな」
大伯父さんがそう言って目を向けた魔馬たちは、魔力がもらえたからか元気になっているように見える。
「あとは、現状は問題のない魔馬たちに対してどうするかだが……」
「元気な魔馬にも魔力を与えられれば、ご飯の量も減らせるもんね」
「あぁ、そうなると飼育費も抑えられるからな」
そう言いながら悩む大伯父さんを見て、じいちゃんが口を開く。
「まぁ、そのあたりは実際にどれほどの魔力を与えればいいのか把握してからだろう。今回のように1頭1頭に時間がかかるなら結構な人員の調整も必要になる。全個体に与えるとなると、どれだけの魔力量が必要になるかも分らんしな」
『今元気な魔馬は、食べ物からの魔力摂取をうまく出来てる子たちだから、効率よく魔力を吸収するだろうし、弱っている子と比べると少量で済むと思うよ?』
「あ、たしかにそうだね」
シロの柵の近くで話をしていたため、会話に参加してきたシロの言葉を聞いて納得しながら、その内容を伝える。
「ちょうどいい、シロがいるうちにもう少しだけ聞いておきたいことがあったのだ。カーリーン、通訳を頼めるか?」
大伯父さんがそう言ってくるので、素直に承諾して再び通訳をする。
といっても、聞きたいことのほとんどは昨日のうちに聞けていたようで、本当に少しだけだったのですぐに終わったが。
『あ、最後にもうひとつ。元気な魔馬はある程度大丈夫だと思うけど、弱ってた子の中には魔力が減ったらまた貰えばいいと思って、ギリギリまで使う個体もいるかもしれないから、その対策は考えおいた方がいいね』
「たしかにそうだな。一度回復したと思われる個体は、与える頻度を下げるとかで大丈夫そうか?」
『それでも大丈夫かな。さすがにそこまで考え無しな子はいないと思うからね』
「可哀そうだが仕方ないな……魔力不足で死なせないようにしつつ、そのあたりの教育も徹底させねばな」
ちょうどシロとの話が終わったところで、昨日今日と案内をしてくれた職員さんがこちらにきて、軽く明日の打ち合わせを始める。
その途中でこの馬房にいる子たちの話になり、そこからシロを引き取る話に変わった。
「そうだ。シロは本日引き取る予定になっているのだが」
「はい。朝一で書類を確認しました。昨日から調子がいいようですし、今日は魔力を貰えたので更に調子がいいんでしょうね。この様子なら安心して見送れます」
シロは"引き取る"という単語を聞いた瞬間から嬉しそうに尻尾を振っているので、その様子を見た職員さんが笑いながらそう言う。
「オルティエンにはカレアもいるから、魔力を与えることも問題ないからな」
「そうですね。カレアリナン様がおられますし、今後の心配もありませんね」
俺が魔力を与えられることは内緒なので母さんの名前が出るが、職員さんもそれで納得している。
「そういえば急にシロを引き取ることになったけど、何も言われたりしない……?」
「うん? どういうことだ?」
「いや、シロって珍しい毛の色って話だし、元気になる兆しが見えたなら、欲しがる人も結構いるんじゃないかなぁと……」
「ははは、心配するな。魔馬を迎え入れようとするものも増えてきているが、珍しいとはいえ数年間ここにいるような魔馬をわざわざ引き取ろうとするものはおらぬ。そもそも教育前の魔馬しかおらぬここに来るものも多くはないから、シロの存在を知っているもの自体少ない。それに今回の研究をもとに、引き取る際の条件に魔力の件も追加する予定で、それらをクリアできる環境を用意できるかも問われる。その点はカレアがいるオルティエン家は余裕の合格だな」
じいちゃんが俺を安心させるように微笑みながら説明してくれる。
――まぁ教育が終わっていない魔馬を引き取っても、制御できなければ危険なだけだもんな……。
「それにフェデリーゴは例の褒賞を受け取る際、本当に最低限しか受け取らなんだからな。今回は魔馬が欲しいと言っておったらしいから、優先しても文句は言われん」
じいちゃんに続いて大伯父さんもそう補足してくれるので、その手の話の不安は消えた。
――まぁそうか。魔龍討伐の件で優遇したと言えば通じるか……それに辺境伯って時点で高位貴族だし、シロの今までの環境や、飼育の内容を考えるとそうそう文句なんて言われることはないか。
「さぁ、残りの手続きなどは私がやっておくから、シロを屋敷に連れて帰ってやるといい」
「さっきも言ったが、わざわざ兄上がやらずとも……まぁ今日はカーリーンもいるから、その言葉に甘えるとするが。それじゃあシロを頼む」
大伯父さんの言葉を聞いてじいちゃんは苦笑しながら指示を出すと、職員さんが手早く準備を整えてシロを柵から出す。
飼育場の入り口まで行くとすでに馬車が用意されていたが、じいちゃんは俺を抱きかかえたまま馬車の前でシロを待つ。
さすがにシロをそのまま歩かせていくわけにはいかないので、他の職員さんが連れて来てくれるようだ。
馬房からここに移動するときの様子から、シロは元気になったと分かってはいるようだが、さすがに馬車を曳かせるのはもちろん、大人を乗せた状態で歩かせてもいいものかと迷った末、今回は職員さんが手綱を引いて歩いて移動するらしい。
「それじゃあ、シロ、元気でな」
職員さんは少し寂しそうな笑顔でそう言いながらシロをなでる。
――オルティエンに行くということは、今後いつ会えるか分からないもんな……シロはここに長らくいたからなぁ……。
『うん、今までありがとう』
シロはそう言いながら、頭を職員さんに優しく擦り付ける。
その行動はシロの言葉が分からなかったとしても感謝を伝えているように見え、職員さんは涙ぐみながらシロの頭を優しく抱くようにして、再度別れを告げた。
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