166.魔力を流す
じいちゃんのそばまで行くと、少しかがんで俺にだけ聞こえるように話しかけてくる。
「そろそろ始めるようだから、どんな感じか見ていてくれ」
そう言われたので「うん」と返事をして魔馬の方を見る。
じいちゃんは俺を呼ぶときに何も言わず手招きをしただけなので、他の人たちは俺が近くにきたことにすら気がついていないようだ。
――まぁ重要な研究のためだから、こっちに気が向いていないんだろうな。
そんな研究員さんたちの前に立っている大伯父さんがチラッとこちらを見て、俺が近くまで来たことを確認すると口を開く。
「それでは、最終確認も済んだから始めよう。先ほど説明した通りにやってみてくれ」
大伯父さんがそう言うと、魔法師団員さんの1人が魔馬に近づく。
そのうしろから研究員さんも近づき、目を凝らして観察する姿勢に入った。
ローブを着た男性が魔馬の胴体に触れたので、俺も目を凝らして魔力の流れを見えるようにする。
――そっか。魔石付近に魔力が通ればいいんだから、俺がやったように頭からじゃなくて胴体から流せば難しくはなさそうか?
普通の馬の心臓があるあたりに魔馬の魔石はあるので、前足の付け根あたりに手を置いた男性を見てそう思う。
「流します」
集中するように息を吐いた男性がそう言うと、その手から魔力が魔馬に伝わっていくのが分かった。
しかし、その魔力の動きは、流れるというより触れている位置から広がっているように見える。
――まぁ流し始めてる場所が近いからあれでも魔石部分は通ってるし、問題はないのかな?
「どうだ?」
他の人たちも魔馬の近くで集中しているため、じいちゃんにこっそりと話しかけられた俺を気にする人はいない。
「うぅ~ん。"流れる"っていうより、"広がっていってる"って感じに見えるよ……」
「ふむ。まぁあのものは広範囲の魔法を得意としているからな。それで魔力は溜まっていそうか?」
「広い分薄いからなのか、あんまりそういう感じには見えないけど……」
魔石にどれだけ溜まっていってるかは見えないので分からないが、魔石が周りにある魔力を吸い取っているような流れも見えないので、素直にそう答える。
「"薄い"か……実力はあるのだが、やはり魔力を流すとなると勝手が違うか」
じいちゃんはそう言って、口ひげを触りながら考え始める。
「ちょっとシロにも聞いてくるね?」
「あぁ、まだ魔力量には余裕があるようだから、もう少しそのまま試すだろうしな」
じいちゃんに許可を貰った俺はシロの下へ向かい、見たことを伝える。
『ここからじゃよく見えないから確かなことは言えないけど、君が薄いと感じてるならあんまり摂取はできてなさそうだね』
「でも魔力を取り込む感覚を掴むきっかけにはなりそう?」
『うぅ~ん……そればかりは個体差もあるからねぇ……あと、出来れば頭から通してくれると魔力が美味しく感じられるんだけどね』
「魔石に近い胴体からだと分からないの?」
『だね。魔力が溜まることに変わりはないんだけど、私たちにとって食事のようなものだから、せっかくなら"美味しい"って思えた方がお得じゃない?』
「それはそうだけど……」
――とくに味もなく、食べたという感覚もなしに胃で膨れて満腹感がでるって感じなのかな……たしかに食事なら美味しいって思えた方がいいよなぁ……うん? それって好みじゃない魔力を頭から通されたら、強制的に"マズイ"という感覚を覚えるのか? いや、今はそこは気にしなくていいな……。
そう考えながらじいちゃんのところへ戻り、シロから聞いたことを伝えると、そのまま大伯父さんの下へ行って耳打ちをしている。
「よし。その個体は少し様子をみよう。次にいくぞ」
大伯父さんがそう言うと、みんな返事をして移動する。
次はシロがいる柵の隣の魔馬で試してみるようで、さっきとは違う魔法師団員さんが柵に入った。
「次は私も少し確認させてもらう。魔力は流さないから、そちらは任せるぞ」
じいちゃんもそう言って柵の中に入り、魔馬に触れる。
――触れていれば魔力の流れが分かるって言ってたし、ここならシロからも見えるから意見も聞けて、どうなっていればいいのか分かりやすいか。
そう思っていると大伯父さんが近づいてきて、作業が見えやすいように俺を抱きかかえてくれる。
ちょうどシロと話しやすい位置に立ってくれたのだが、作業の邪魔にならないように少し離れているようにみえるので、不思議に思われることはないだろう。
「流します!」
今回はじいちゃんが一緒に確認をしているからか、魔力を流す係の人の声は少し緊張しているように感じる。
俺もちゃんと頼まれたことができるようにしっかりと見ていると、その人の手から魔力が流れていくのが見えた。
さっきの人とは違って数本の魔力の流れが見え、そのうちの1本がちょうど魔石を通っているように見える。
――お? 今回のは細いけどしっかり魔石を通ってるのがあるし、しかも通った後の流れは薄く見えるから、これは魔石に溜まってるのでは?
「ねぇ、シロ。今は一応魔力を溜められてるように見えるけど、合ってる?」
『そうだね。サンは他の子より魔力摂取のコツを掴んでたっていうのもあるけど、ああやって魔石付近に流してもらえたから、すぐにでももっと効率よく溜められるようになると思うよ』
どうやらその魔馬は、以前じいちゃんに"シロの言葉が分かる"と説明する際に、"そろそろ元気になる"と言っていた子だったようで、シロはその様子を見ながら嬉しそうに言っている。
『まぁ君がやってくれたように、もっと大量に魔力を流してくれた方が早いだろうけどね』
「それはそうかもしれないけど、俺は魔力量が多いみたいだからなぁ……それに溜まる速度という意味では、シロは魔力量が多いからそれだけ必要だっただけじゃ? 他の子はシロに比べると少ないって言ってたし、あれくらいでも充分なんじゃないの?」
自分でも魔力量が多いと分かっているのでそう言うと、シロは愉快そうに笑う。
『あははは、そうだね。まぁあんな感じで細くても正確に魔石を通していれば、他の子も感覚を掴みやすくなるし、取り込むのも楽になるね』
そうシロと話していると、じいちゃんが「そのまま続けていてくれ」と言ってこちらに向かってくる。
「カーリーンよ、どうだ? シロは何か言っているか? 私としては、魔石付近に魔力が通っていると感じ取れたから、あれでいいと思っているのだが」
隣にきたじいちゃんは、少し離れている研究員さんたちと同じようにサンを見ながらそう言ってくる。
「細いけどちゃんと魔石を通ってるから、あんな感じでいいみたいだよ」
「ふむ、そうか……となると広範囲魔法が使えるものより、魔道具補充をメインにしているものの方がよさそうだな」
「そうなの?」
「あのものは普段、軍部や騎士団内で使用している魔道具の魔力補充をしてくれている部署のものでな。触れて確認していたが、すぐに魔石に向けて魔力を流していたから、そういうものの方がいいのだろうとな」
そう言われて再びサンの方を見ると、最初は1本だった魔力の流れが今は2本分通っているのか、少し太くなっている。
『あの調子ならサンは今日にでも、普通の子たちのように動けるようになると思うよ』
「え、そんなに早く?」
『まぁ今度は消費の感覚が分からないだろうから、また魔力不足でここに戻る可能性もあるけど、そこは仕方ないね。実際に動いて覚えるのが手っ取り早いし、しばらくはそのつもりで様子を見てあげてほしいな。食べ物からの魔力摂取の効率もよくなって、徐々に普通の子たちのようになると思うから』
「そっか、よかった」
「シロは何と言ったのだ?」
そう聞かれたので会話の内容を伝える。
「ふむ。たしかにそうだな。魔力を与えられるものをこちらに配備するようにして、定期的に魔力を与えられるようにしなければな」
「そうなると新たに部署を作った方がいいか?」
大伯父さんとじいちゃんがそのような話をしているなか俺とシロは、魔力を与えられたからか機嫌がよくなって尻尾を振り始めているサンの様子を見ていた。
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