163.相談
1つ前の話で、"散歩のあと、少し施設内を案内してもらっている"という1文を追加しております。
大伯父さんを見送ったあと、しばらくするとお披露目パーティーに行っていたみんなも帰ってきた。
朝はいなかった伯父さんも、お披露目パーティーのあとは休みを取っていたらしく一緒だった。
「ただいまかえりました」
「あぁ、おかえり」
伯母さんをはじめ、それぞれが挨拶を交わしたあと席に座る。
姉さんたちの着替えは持ってきていないので、それに合わせて伯母さんとアリーシアもドレス姿のまま一息つくらしい。
母さんは、お茶会のときと比べると他の貴族と話す機会が少なかったのか、そこまで疲れている様子ではなく、伯母さんは慣れているのか朝に会ったときと変わりがない。
元々体力の多い姉さんは普段通りに見えるが、アリーシアは見るからに疲れている様子だったので声を掛けてみることにした。
「アリーシアさんはお疲れみたいだね」
「えぇ……あれだけの人数の同年代の方と同時に会うのは初めてだったから……」
お披露目パーティーが終わるまでは、基本的に親族やよほど仲のいい間柄でなければ、そうそう同年代の子と会う機会が無いようなので、アリーシアが気疲れしているのも納得できる。
「逆に姉さんは平気そうだね?」
「まぁ少しは疲れたけど平気よ。オルティエンの町や村の人と話すこともあるし」
――アリーシアさんは伯母さんと買い物などに行くことはあっても、姉さんのように頻繁に町に行ったりはしてないだろうしなぁ……その差もあるか。
そんなことを考えていると、隣に座っている姉さんが俺の服を軽く引っ張って話しかけてくる。
「ねぇねぇ、カーリーン。あのシャーベット? っていうの作ってほしいんだけど」
「え、お披露目パーティーでもオヤツとか出たんじゃないの?」
「一応あったけど、シャーベットみたいなおやつはなかったわ」
「どういう形式だったのか分からないけど、溶けちゃうしそりゃそうか……」
――そもそも氷魔法自体珍しいらしいし、公爵であり先王陛下の弟でもあるじいちゃんすらシャーベットに驚いていたから、そういうオヤツはこの国にはないのかもなぁ。果汁を凍らせただけのものであの反応だから、アイスクリームとかもなさそうだな……。
「まぁ作るのはいいけど、ジュースがあるかな……」
「はい。ございますので、人数分用意するように伝えてまいります」
近くにいた執事さんには俺たちの会話が聞こえていたようで、すぐにそう言って準備をしてくれる。
前にやったように氷魔法でみんなの分のシャーベットを作ったのだが、あのときはいなかった伯父さんだけは、魔法の使い方になのかシャーベットという食べ物自体にかは分からないが、とにかくすごく驚いていた。
「パーティーの方はどうだったの?」
みんなの分を作り終わった俺は、ソレを美味しそうに食べる姉さんにそう聞く。
「そうねぇ。人が多かったわ」
――それはそうだろうね……今年7歳になる子供だけだから、その数はそうでもないかもしれないけど、基本的に親、もしくは保護者も同伴なわけだし……。
「いや、そうじゃなくて……パーティー中はずっとアリーシアさんといたの?」
「えぇ、そうよ」
「それだと目立ってたと思うし、結構話しかけられたりした?」
他の貴族の子には会ったことがないので実際は分からないが、身内の贔屓目を抜きにしても、2人のドレス姿はかなりキレイだし可愛いと思う。
しかも公爵家と辺境伯家の娘なのだから、なおさら目立ったのではないかと推測してそう聞いたのだが、姉さんはキョトンとした表情で首をかしげている。
「そうでもないわよ? でも見ている子はかなり多かったわ。視線の数が凄かったもの」
「そうなんだ? って、視線の数って……そんな気配察知みたいなことを……」
――よく考えたら容姿と立場も相まって、気後れしてる子もいるだろうしな……なかなか王都にこなかった母さんもいるけど、子供が主役の場で母さん目当てで話しかけるのは憚られるだろうし、"英雄"の父さんや公爵家当主の伯父さんまで近くに居たんだから、大人たちでも気軽には話しかけにくいか……。
「そっちはどうだったの? 楽しかった?」
言葉だけ聞けば普通に感想を聞いているようだが、姉さんの表情は俺の返事を聞く前からすでに若干ふてくされているので、なんて答えようかと悩む。
――迂闊なことを言うとさらに拗ねそうだな……ここは兄さんにパスッ!
そう思ってバッと兄さんを見ると、話を聞いていたらしく俺の気持ちを察してくれたようで、苦笑しながら代わりに答えてくれる。
「子供の魔馬も見られたし、触らせてもらうどころか、散歩するときに乗せてもらえたし楽しかったよ。ね?」
「う、うん」
そこで俺に話を振ってきたら意味がないと思いながらも、楽しかったのは事実なので同意の返事をする。
「ふぅ~ん。そっかぁ……いいなぁ」
結局姉さんはさっき以上に唇を尖らせ、頬まで膨らませてそう言ってくる。
「そ、そういえば、父さんと母さんにお願いがあるんだけど」
「うん? なんだ?」
姉さんの羨ましそうな視線から逃れるために、勢いでシロを引き取る話をしようと思ったのだが、一応この場で話していいかの確認のためにじいちゃんを見ると、承諾するかのように頷いたので続けて言う。
「飼育場に白い魔馬がいて、その子を引き取りたいんだけど……」
そのお願いは予想外だったらしく、父さんは食べていたシャーベットで軽くむせている。
「ゴホ、ゴホンッ! ま、魔馬か……気に入ったのか……?」
「気に入ったのもそうなんだけど……その子の言ってることが分かるんだよ」
「うん? 魔馬の言っていることが分かる?」
やはりすぐには受け入れてもらえないようで、両親は首をかしげながら俺を見る。
「あぁ。カーリーンはその魔馬の言っていることが、人の言葉と同じように聞き取れるらしくてな。兄上と相談した結果、オルティエン家に引き取ってもらえないだろうかという話になったのだ」
「そ、それはまた……先王陛下からとは……」
じいちゃんが口添えをしてくれたことで、俺の言っていることが本当だと受け入れてくれたようだが、即答はしてもらえなかった。
「まぁ、以前おまえたちに魔馬を手配しようかとしたところ、断られているからな」
「そのときもいったと思うが、維持費の問題もあるからなぁ……」
「そこは何とかなるよ。魔力をあげれば食べる量は少なくていいんだって。現にその子は、1か月は何も食べなくても活動できるらしいよ」
「……そう言ってるってことは、魔力をあげたのね?」
「え、あ……うん、ごめんなさい……」
「まぁまぁ反省もしているから叱ってやるな。カーリーンのおかげで魔馬の研究が進み、弱っている個体が回復する見込みも出てきたのだ」
「事実確認をしただけで怒ってはいないわよ? カーリーンがすでに魔力を与えているのなら、今後も大丈夫でしょうし、維持費の問題もなくなるわね、って思っただけよ?」
母さんが俺を見て微笑みながらそう言ってくれたのでホッとする。
――大伯父さんは慌ててたけど、俺の魔力量に関しては母さんが一番理解してるもんな。
「そうだなぁ。それなら問題はないか? 普通の個体より大きいとかなら準備とかは必要だが……」
「ううん。むしろじいちゃんのところの魔馬より小さいよ。多分普通の馬と大差ないくらいじゃないかな?」
「子供なのか?」
「いや、あの魔馬はもう3歳だから大人だが、小柄なのだ」
「ならうちの厩舎を改築することもないか」
「引き取ってもいい?」
「あぁ、いいぞ」
父さんも懸念事項がなくなったからか承諾してくれたので、「ありがとう!」と笑顔でお礼を伝える。
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