160.シロの意見
他にも理由があるみたいなので、それも聞いてみることにした。
「そうだな……いくつかあるが……シロは自身が特殊個体だと言っておったのだな?」
「うん。だから人の言葉も分かるし、魔力量もかなり多いみたい」
「魔力量も多いのか……それであればなおさらだな……」
大伯父さんは俺の言葉を聞いて、少し考えたあと口を開く。
「シロが特殊個体だと思っている研究員もいはするが、確証は得られていないのだ」
「長い間あの馬房にいるのに?」
「あぁ。それらしい判断材料がなくてな……シロほどじゃないにせよ、長期間あの軽症の馬房にいるものもたまにいるし、珍しくはあるが白い毛もたまに生まれる。だからほとんどのものが、とくに疑いもなく普通の魔馬だと思っているのだ」
俺からの率直な言葉に、大伯父さんは苦笑いしながらそう言う。
「そうなんだ」
「それに仮に魔力を流すことで魔力不足を解消できたとして、シロは魔力量が多いのだろう? カーリーンはそもそも魔力量が多いようだから平気だろうが、そこに魔力相性も関わってくると、シロの魔力補充をするのに何人必要になるか分かったものじゃない」
――たしかに……俺自身魔力量は結構あるつもりだけど、それでも減ったなぁと感じる程度には与えたもんな……。
「でもシロの場合、"イエスなら頷いてノーなら首を振って"とかの指示も聞くだろうから、いろいろと捗りそうだけど……」
「それが出来れば魔力補充に人数が必要だったとしても、割に合うほど研究の助けになるのはたしかなのだが、それだと研究者たちにいいように使われそうでな……」
そういう大伯父さんの表情はどこか悲しそうである。
「……カーリーンよ、兄上は馬が好きでな。特殊個体だからといって、あまりそういう環境にいさせたくないと思っているのだ。シロは人の言葉が分かるからなおさらな」
「あー、そういえば魔馬を引き取るときに、ケンカするほど馬が好きなんだっけ……?」
俺がそう言うと大伯父さんは驚いた表情をしたあと、怪訝な目をじいちゃんに向けながら口を開く。
「……ヒオレスから聞いたのか? 孫になんてことを教えておるのだ……」
「いや、シロから聞いたんだよ」
「……あぁ…………まぁ、国としても特殊個体の研究は大事ではあるが、今はシロからの情報もあって特殊個体より通常個体の方の研究に専念してほしいから、一旦この場から離しておきたいという思いもあるのだ。その研究が落ち着いたころに、シロが了承すれば研究させてもらいたいものだが……意思疎通できる以上強制はしたくないからな」
――本当に馬が好きなんだなぁ……。
「どうだ、納得したか? まぁカーリーンがシロを引き取りたくないのであれば、無理強いはせぬが」
苦笑しながらそう聞いてくる大伯父さんの言葉に、慌てて返事をする。
「う、ううん! シロは懐いてくれてるし可愛いなぁとは思ってたから、俺も連れて帰っていいならそうしたいけど……」
――理由を聞きすぎて、連れて帰るのに反対だと思われてたか……。
「けど?」
「……シロ自身はどうなのかなぁって、ここには他の仲間もいるし……それに父さんたちにも説明して許可を貰わないといけないし……」
「ふははは。しっかりしておるなぁ。私の孫たちならここまで説明されれば、相談もなしに連れ帰ると即決しておるだろう」
――大伯父さんの孫ってことは、王子か王女かな? まぁ俺とそこまで年は離れてないだろうし、年齢的に考えればそう反応しても仕方ないか。
「それではまず、シロの意見を聞きに行くとするか。フェディたちの説得には協力してやるから安心するといい。まぁ前に魔馬が必要かと聞いたときは、食費などの維持費の関係で断っていたが、魔力を与えることで食費は改善されるなら大丈夫だろう」
ちょうどお茶を飲み終わったタイミングで話が決まったので、じいちゃんがそう言いながら席を立つ。
皆で部屋から出ると、午前中も一緒にいた職員さんと再びシロのいる馬房に向かう。
職員さんにも俺がシロと話せることは内緒にするようで、大伯父さんと話をしてるうちにシロに話しかけることにした。
「シロ、ご飯は食べた?」
『うん。君から魔力を貰ったから少量でよかったんだけど、食欲がないって心配されそうだったから、たくさん食べたよ』
シロは上機嫌に尻尾を振りながらそう言って頭を出してくる。
「ねぇ、シロ。俺はここから遠いところから来てるんだけどさ、一緒に来る?」
『え?』
「正確には普通の馬車だと2週間ほどかかるくらい遠い場所なんだけど……それだけ離れてるから、俺はなかなかこっちに来られないし……シロも仲間から離れることになっちゃうけど……」
『一緒に行っていいの!?』
「え? 来てくれるの?」
『もちろんだよ!』
シロはさきほどより激しく尻尾を振りながら、嬉しそうにそう言うが、俺はここまですんなりと承諾するとは思っておらず、少し困惑していた。
「本当にいいの? ここには他の仲間もいるのに……」
『うん、大丈夫だよ。君といると魔力をもらえるから元気になるし、君は私の言葉が分かるから話すこともできるしね』
――やっぱり魔力をもらえるとわかってるから、シロとしてもそのほうがいいか。それに俺とは話せるから、そういう面で退屈する心配もないわけだし……。
『なんなら他の子と話すよりも、いろんなことを話せるから、今から楽しみだよ!』
――もしかして、ほかの魔馬とは簡単な会話しかできないのだろうか……いや、そもそもこの飼育場の中にずっといるわけだから、話す内容が少ないだけかもしれないな。そう考えると、外に出られるのを楽しみにしている様子も納得だ。
シロが上機嫌に頭を押し付けてきたので、なでてあげながらそう思う。
「どうだ? シロの反応は」
俺とシロの様子を見て、話がひと段落ついたと察したじいちゃんが話しかけてくる。
「うん、連れて行ってほしいってさ」
返事を聞いたじいちゃんは、微笑んで「そうか。よかったな」と言ってなでてくれる。
「一応両親にも承諾を貰わないといけないんだけど……まぁそっちはじいちゃんも口添えしてくれるし、大丈夫だと思うから安心してね」
『うん、分かったよ。それで、いつ頃連れて行ってくれるの?』
「うぅ~ん……もう数日は王都にいる予定なんだけど……ねぇ、じいちゃん。シロはいつごろ連れて帰っていいの?」
「そうだなぁ……とりあえず、明日はまだほかの魔馬たちに魔力を流してみる研究もあるから、その時はカーリーンと一緒にいてほしいが……それが終われば連れて帰っていいぞ?」
「そんなに早く連れて帰っていいんだ? それなら父さんたちの説得は今日中にしないと……」
手続きなどで時間がかかり、連れて帰るのはオルティエンに帰るギリギリになるかもしれないと思っていたため、驚きつつもどうやって両親を説得しようか考え始める。
「はははは。そうだな。まぁさっきも言ったとおり、屋敷に帰ったら私もフェディたちと話をするから安心するといい」
そう話が決まったところで、大伯父さんもこちらに来た。
職員さんも一緒にいるので声には出していないが、じいちゃんと目を合わせたあと頷いていたので、"シロが連れて帰られることを承諾した"と伝えたのだろう。
「さて、シロはよくこれくらいの時間に散歩するのですが、今日も出るのかな?」
職員さんがそう言いながらシロの柵に近づくと、シロは『行く~』と返事をしている。
言葉が通じているわけではないが、出たそうに柵に近づいたことで察したようで、職員さんが手早く手綱をつけて柵を開けている。
「その様子を見ててもいいですか?」
「えぇ。もちろん構いませんよ。この時間は外に出ている子も多いので、是非ご覧ください」
兄さんの言葉に対し、研究員さんはにこやかにそう答えたので、みんなで馬房の外に出た。





